設計事務所・イマ

■井の頭ハウス・2016.11 / 東京都 三鷹市

▶︎設計事務所・イマ

■家づくりの経緯

▶︎公園を借景に。木立が見渡せる家・北欧で知った、自然のそばにある暮らし

 

 1階には、事務所スペース、打ち合わせスペースを兼ねたダイニングルーム、そしてキッチンがあります。北側に面した掃き出し窓の外には、公園の木立が一面に広がっています。新居に移る前は、都心のヴィンテージマンションをリノベーションして住んでいた小林さん夫妻。5年以上前から、新居を建てることを考えていた。自分たちで設計して、約2年がかりで新居が完成した。

「 仕事でフィンランドによく行くようになって、向こうの人たちの生活に惹かれるようになった家のすぐそばに森がある、そんな生活がとても豊かだなあと思ったんです。僕たちも自然のそばに住みたいと思うようになった。そしてこの土地を選んだのは、そういう影響も大きいです。

 

限られた予算の中、「どうしても」とこだわって作った1階のウッドデッ。暖かくなったら、ここにテーブルを出して食事をするのはもちろん、仕事もする。塀のすぐ向こうには、井の頭公園の広大な樹木が広がっています。最寄りの駅からは徒歩15分という距離。それでも、公園を通り抜ける気持ちの良い道なので、苦にならない。

▶︎北向きの家には、実はこんなにメリットがある

1階の玄関から入ると、まず見えるのが、間仕切りも兼ねた戸棚です。一部がオープンになっていて、その向こうに見えるキッチンの窓から、木々が目に飛び込んできます。

 

 キッチンで洗い物をしながら緑を眺めるなんて、とても気持ちよい。都内とは思えない、森の中にいるような景色である。

「アイランドキッチンにすることも考えたのですが、台所仕事をしながら外を眺められる楽しみがあるといい。自分たちの土地ではないですが、この広々とした自然を満喫できる。借景っていい。」

 

 ところで、日本の住宅というと、「南向きがいいというのが定説になっている気がします。あえて北側に開いた家にしたのは、どうしてなのか。クライアントとの設計の打ち合わせスペース兼ダイニングから見える景色。秋は紅葉がきれいだ。

 「木は太陽のある南側に向かって育ちます。だから北側からだと、いわば木の『表側』を見ていることになる。南からの太陽に照らされた木々は本当にきれいです」「1階にいることが多い僕たちにとっても、北向きはちょうどよい。日中、南から日が差し込んで明るすぎると、かえって仕事がしにくい。となると、せっかくの窓もカーテンを閉めざるを得ません。」 

▶︎落ち着いたトーンを土台に、遊び心をプラス

 1階のトイレの窓辺には、さりげなく花が飾られ、大きなテーブルが主役のスペースは、日中は仕事場として、それ以外の時間は、夫婦2人や友人たちと一緒の食事の場となります。大きなテーブルは中央で切り離して使うことも可能。職住をきっちりと分断し過ぎず、ゆるやかにつなげることで、スペースも効率的に活用している。1階の基調となっている色は、グレー。やさしいクリームイエローが、ところどころに差し色として入っています。

 

 キッチンの棚もグレー。コンクリートの型枠用の合板だったものを、そのまま使用。落ち着いた雰囲気にしたくて、グレーを選択。それだけでは暗過ぎるので、明るい差し色を入れている。落ち着いた雰囲気の中に、随所に遊び心やラフなテイストが見られるのが、小林さん宅の魅力。たとえば、ドア。合板の断面をわざとむき出しにして見せています。

 

 さらに、キッチンから続く、事務所スペースも見せてもらいました。

 

 スタッフの皆さんがお仕事場には、壁に描かれている大きなモノクロのドローイングあり。この壁の向こうは、実は一面、書類や本類など、さまざまなものが入った収納棚が設定されている

 

▶︎見せて、使って、楽しむうつわ

 1階の入り口から見えるガラス棚の中の食器。

 お店のディスプレイのように美しいのですが、聞けば「料理が映えるので、飾っておくだけではもったいない。食卓でも使うようにしています」とのこと。せっかっくなので、いくつか取り出して見せてもらいました。

 

▶︎「削ぎ落とした」白い空間だから、カラフルな雑貨が映える

 『マリメッコ』の店舗設計など、北欧ブランドとの仕事を通じ、北欧のライフスタイルにも影響を受けてきたという2人。自然とゆるやかに繋がった住まいには、「与えられた環境・条件を最大限に生かして、快適に暮らす」という知恵が詰まっている。

▶︎とことん「見せる」にこだわった、壁一面のガラス棚

 2階のドアを開けると、目に飛び込んできたのがカラフルなリビングルーム。南側は隣の家に面しているので、思い切ってほとんどを壁にし、採光のために高い位置に窓をつけている。そのため明るい部屋から、北側の公園の借景を楽しめる。

 

 そして、何と言っても目を奪われたのは、壁一面のガラス棚。「2人で少しずつ集めてきたアート作品があり、ずっと猫を飼っているため、オープン棚には飾れません。」

 新しい家を建てる時、このガラス棚はぜひ作ろうといことで設置した。扉を閉めておけば、猫が壊してしまう心配もない。好きなものを飾れます。壁一面が、まるでギャラリーのような雰囲気。ガラスを通すことで、飾ってある作品の存在感も、さらに強まる。

▶︎生活感のあるものは、扉付き収納にしまいこむ

 ガラス棚のある壁の反対側には、座り心地の良さそうな1人掛け用ソファが2脚。その向こうには、クリーム色の扉付き収納がある。これも小林夫妻の設計。普段はぴたりと閉じられている扉。

 

 戸棚の左にある水色のはしごは、ゲストルームとして使う予定の屋根裏部屋へと続く。開けると、なんと水道付きのミニキッチンがあります。

 

 ボトルやグラス、食器類がきれいに収納されています。その下の、穴が空いている扉の中には、ゴミ箱が入っています。動線もきちんと考えられたつくりです。本格的なキッチンは1階にあるため、ここは、夜に2人でお酒を楽しんだりするためのミニバーのような存在です。

 ヨーロッパで、こういう収納式キッチンを見て、憧れ設置した。食器類などのごちゃごちゃしたものは、使用しないときは見せずにしまって、すっきりさせたい。ガラス棚では大胆に「見せる」。扉付き棚にはすっきり「しまう」。このメリハリが、美しい空間づくりの秘訣。

▶︎白くてシンプルな空間だから、色が多くてもうるさくない

 リビングは、ビビッドな色のものであふれています。それでも、決してごちゃごちゃとうるさく見えないのは、なぜか。空間自体をものすごくシンプルにしたため。床もシンプルなヘリンボーンで、真っ白な壁の割合も多い。そういった、空間とのバランスは大切。南側をほとんど壁にしたのは、隣の家と近かったこともあるけれど、白い壁を多く取りたかったことも大きな理由です。

 

▶︎お互いの趣味のものは、「自分専用」の空間に

 リビングと同じ2階にある、恭さん専用の部屋。夫婦が二人三脚で設計した、新しい事務所兼自宅。2人の空間やデザイン、暮らしに対する考えは共通。それでも、お互いに好きなものや、趣味はもちろん少しずつ違います。リビングと同じ2階にある、専用の部屋。

 お互いの専用部屋を持てない場合でも、それぞれの趣味のものは、どちらかに偏りすぎないように収納を工夫する。そうやってバランスのよい雰囲気を作ることが、居心地のよいリビングにつながるのかも。