ルチオ・フォンタナ

ルチオ・フォンタナ

 ルーチョ・フォンタナ(ルーチョ・フォンターナ,Lucio Fontana, 1899年2月19日 – 1968年9月7日)は、 20世紀のイタリアの美術家、彫刻家、画家。空間主義(spazialismo)の運動の創始者。

 1950年代以降の「アンフォルメル」、日本の「具体美術協会」、「タシスム」、ヌーヴォ・レアリスム、1967年頃からイタリアに興った「アルテ・ポーヴェラ」(「貧しい芸術」の意)などの前衛芸術運動に様々な影響を与えた点で、20世紀美術史上重要な位置を占める作家である。

 また、若いイヴ・クラインとは、年齢差を越えて、お互いに共鳴しあう仲であり、イヴのミラノでの初個展ではモノクローム・ブルーの作品を購入している。

高校教科書×美術館(高等学校 美術/工芸) <No.006>「空間概念 期待」 ルチオ・フォンタナ作  高校美術教科書「美・創造へ1」P25掲載 大原美術館蔵

  

 イタリアを代表する前衛芸術家、ルチオ・フォンタナの作品です。題名は《空間概念 期待》。赤く塗り込めたキャンヴァスに、軽やかな曲線をえがく三筋の切れ目が入れられています。

 フォンタナは、この作品のように、ひと色で塗り込めたキャンヴァスに、ナイフで切れ目を入れた作品を1000点近く制作しました。その多くには、この作品と同じ《空間概念 期待》という題名がつけられています。

 この題名には、ある法則があります。日本語に訳するとわからなくなってしまいますが、元の言語であるイタリア語では切れ目がひとつの作品には、「期待」を意味する「Attesa(アテッサ)」という単数形の単語が当てられ、対して、切れ目が複数の作品には、同じく「期待」を意味する「Attese(アテッセ)」という複数形の単語が当てられています。  

 切れ目がひとつの作品には、ひとつの期待、切れ目が複数の作品には、複数の期待。つまり、この題名にある「期待」とは、この切れ目そのものを指していると考えられるのです。

 フォンタナは、「画家として、キャンヴァスに穴を穿つ時、私は絵画を制作しようと思っているのではない。私は、それが絵画の閉鎖された空間を越えて無限に拡がるよう、空間をあけ、芸術に新しい次元を生みだし、宇宙に結びつくことを願っている。」(Jan van der Marck,”Lucio Fontana:From Tradition to Utopia”,op.cit.「フォンタナ展」図録 富山県立近代美術館他 1986年)と述べています。 時代が移り、人々の生活が変わっても、依然として絵画や彫刻といった芸術の枠組みが変化しないことに強い疑問を抱いたフォンタナは、絵画という芸術を支えてきたキャンヴァスに穴をあけ、絵画という枠組みを、文字通り突破しようとしたのでした。                       

  (大原美術館 主任学芸員 吉川あゆみ)