香月泰男

時代の造形詩-モダニズムから新たな地平へ

内容

 〈シベリア・シリーズ〉で戦後美術史に不朽の足跡を残す香月泰男は、同時にすぐれた造形感覚にもとづく魅力的な作品を、生涯の各時期に制作しています。

 2009年3月8日は香月泰男の没後35周年に当たります。本展はこの機会に、香月泰男の造形世界が確立・展開していった1940年代から1950年代の作品の魅力をあらためて紹介するものです。

 1911年、現在の山口県長門市三隅に生まれた香月泰男は、東京美術学校を卒業後、1938年に下関高等女学校に美術教師として赴任しました。その翌年 文展で特選を受賞し、画家としての地歩を築きました。しかしまもなく召集され、戦後はシベリアに捕虜として1年半抑留されます。帰国後約10年の模索の期 間を経て、1950年代後半から〈シベリア・シリーズ〉を軸に、黒を基調にした独特の世界が展開されます。作風はそれまでとは大きく変わりますが、それは 全く新たに構築されたわけではなく、以前からの画家の造形的探求の上に成立したものでした。

 時代の中で醸成された叙情性を含んだモダンな造形感覚、他の多くの画家たちも課題とした日本的油彩表現の探求、そして抑留体験に基づく自然や生命への畏敬と愛情、これらが重なり融合したものが香月芸術の到達した世界であったということができるでしょう。

 本展では、造形的感性において香月作品との接点や共通性を看取し得る、あるいは対比的関心を抱かせる同時代の幾人かの画家たちの作品もあわせて展示し、相対的な視点から香月作品の時代性と独自性を顧みます。