農業は雑草との戦い

■農業は雑草との戦い?

▶除草剤耐性作物は生産者に広く受け入れられました

 世界で最も広く栽培されている遺伝子組換え作物は除草剤抵抗性を備えたものです。コストや労力の削減、環境負荷の軽減といった利点があるため使用が拡大しました。一方で、除草剤耐性椎草の出現などの問題も指摘されます。

▶雑草と除草剤

 小さな庭や畑でも雑草取り(除草)は大変な作業ですが、雑草を放置しておくと、大切な作物は十分に育ちません。そこで除草剤が広く使われるようになりました。日本の水田でも除草剤の使用は一般的です(使わない生産者もいます)。作物を枯らさず、雑草だけを枯らすように選択性(植物の種類によって除草剤の効果が異なること)を利用して除草剤を使用する必要がありますが、水田のイネ科雑草のように作物と椎草の性質が似ている場合、選択性を利用した除草剤による雑草の区除は容易ではありません。一方、道路や運動場などの雑草(植物)を全て枯らしてしまう非選択性の除草剤もあります。非選択性の除草剤は、収穫が終わった後に、植物のいらない部分を枯らすのに使われることもあります。この種の除草剤は、次に作付けする作物に影響が出ないように、素早く分解される必要があります。その1つにグリホサートという化合物を主成分とするものがあります(商品名:ラウンドアップ)

 

▶除草剤耐性大豆

 世界で最初に本格的に商業栽培された遺伝子組換え植物は、グリホサート(ラウンドアップ)耐性の大豆ですグリホサートは、植物が必要とするアミノ酸を作る酵素の働きを邪魔するので、植物は枯れてしまいます。しかし、グリホサートによって働きが邪魔をされない酵素が見つかり、その遺伝子を導入した大豆はラウンドアップ耐性になりました。つまり、ラウンドアップを散布すると雑草は枯れますが遺伝子組換え大豆は枯れません。従来は、複数の除草剤を組み合わせて使わなければならなかったのが、多くの場合、ラウンドアップを1度散布することで、雑草を抑えることが可能となりました。ラウンドアップ耐性大豆の種子は割高でしたが、除草にかかる手間やコストの削減につながったため、多くの生産者に好まれ、その栽培は急速に広がりました。除草剤耐性の遺伝子はナタネにも導入され同様の効果を示しました。他にも、除草剤耐性のトウモロコシ、テンサイ、アルファルファ(牧草の一種)なども実用化されました。また、グリホサート以外の除草剤に耐性を持った遺伝子組換え植物も実用化されています。

 グリホサート耐性の遺伝子組換え作物の登場により、グリホサートの使用も急速に増加しましたが、それまでに使われていた選択性除草剤の使用は減りました。グリホサートは動物へほ毒性がはとんど無く、分解性が高いのでトータルで考えると除草剤による環境負荷が軽減したという調査結果があります。しかし、一部の地域では特定の除草剤を使い続けることにより、除草剤に抵抗性を持った雑草が広がり、除草剤がきかなくなるという問題も起こっています。抵抗性遺伝子が雑草に移動したためではなく、除草剤により抵抗性を持たない雑草が枯れるため、もともと特定の除草剤に抵抗性を持っていた雑草が広がったと考えられます。こうした抵抗性雑草が出現すると、異なる除草剤に耐性をもった品種を使うことになります(抵抗性雑草の出現は、抗生物質を多く使った結果起こったヒトに対する抗生物質耐性病原菌の出現と似ているかもしれません)。 除草剤抵抗雑草の出現は、日本の水田でも問題となっており、遺伝子阻換え作物に限って起こる現象ではありません.。

▶不耕起栽培と除草剤耐性作物

 畑は耕した方がよいと思う人が多いかもしれません。しかし、耕起(耕すこと)により、土壌成分が風や水によって流される土壌流出が米国では深刻な問題となっていました。肥沃な土壌が年々流出していき、農業生産が出来なくなるのではないかと心配されていました。そこで、1980年代から、トウモロコシの不耕起栽培が行われるようになってきました。不耕起栽培の導入により、土壌の流出を食い止めることができるようになりました。不耕起により、トラクタ一等の使用が減るため、化石燃料の使用も減りました。不耕起栽培の欠点に雑草の管理が難しいことが挙げられますが、除草剤耐性作物はこの問題の解決にも役立ちました。除草剤耐性作物が飛躍的に普及した理由として、不耕起栽培との組合せがよかったことも挙げられるでしょう。