遺伝子組換えによる20年の作物品種改良

■遺伝子組換えによる20年の作物品種改良

 すべてのDNAは同じ基本構造を持っています。遺伝子に関する研究から、進化の過程でDNAが生物間で交換されてきたことがわかりました。誰かがその現場を見ていたわけではありませんが、遺伝子がある生物から他の生物へと移行するのです。この現象は自然界でそれほど頻繁に起こっているわけではありませんが、植物分子生物学の研究者はこの自然現象である遺伝子が交換される仕組みを利用して、作物のゲノム(遺伝子の完全なセット)へ農業上重要な性質を持つ遺伝子を新たに導入するようになりました。これは「遺伝子操作」と呼ばれ今のところ一度に1つの遺伝子しか導入できません。将来、研究者は複数の遺伝子を含むDNAの断片を導入するようになるでしょう。

【訳注:現在では一度に数個の遺伝子の導入が可能です。】

 このような方法で作られた作物のみが「遺伝子組換え作物」と呼ばれます。実際には遺伝子の組換えは何千年にもわたり起こってきたにもかかわらずです。科学者はゲノムのどこに遺伝子が組み込まれたかを正確には知りませんが、これは通常あまり重要ではありません。いずれにしろゲノムは自然と再構成されているようだからです。それに、遺伝子導入の後に行われる育種の段階で「使えるもの」と「使えないもの」とが分けられてしまいます。植物の性質を劣らせたり、食用に向かなくしたりするようなDNAの挿入が起こった場合には、そのような植物は育種(農作物や家畜の改良品種を作り出すこと)の過程で排除されてしまうでしょう。

遺伝子組換え作物:現在そして未来

 遺伝子組換え技術により、農薬の使用を減らすことのできる害虫抵抗性の作物が作られました。遺伝子組換え技術は大勢の貧しい子供たちを失明から救うビタミンAが豊富な「ゴールデンライス」を作るのにも利用されました。将来的には、科学者たちは、ある遺伝子をもう少し優れた同等の遺伝子と入れ換えることができるようになるでしょう。新しい分子遺伝学の技術は、作物の遺伝子操作をこれまでより精密なものにするでしょう。その結果、現在では何世代もかけて交配するという労力のかかる作物の品種改良が不要になるかもしれません。

 遺伝子組換え技術は今後の作物品種改良における唯一の方法ではありません。植物のゲノム研究が進めば、従来の品種改良と比べて効率的な方法が可能になります。さらに、もっと簡単で安価なゲノム解析が可能になれば、これまでなおざりにされてきたカッサバやキビのような発展途上国の作物も品種改良の対象となるでしょう。

 人類の生活を大幅に向上させる可能性を持つ遺伝子が次々に発見されています。これらの遺伝子を有効に利用することで、同じ広さの耕地でより多くの栄養価の高い食糧を生産できる可能性があります。これらの遺伝子を人類の利益のために利用することは許されるでしょうか?あるいは、この優れた技術は認められずに終わるのでしょうか?