川内・伊方原発再稼働と原子力規制委員会

▶はじめに

 日本の原発行政は「汚染水問題は私が責任者となって必ず解決」とか「状況はコントロールされています」(いわゆるアンダーコントロール発言)さらに「世界で最も厳しい規制基準だ」など「できもしないこと」「ウソ」を何の根拠もなく公言してはばからない安倍晋三首相と、「安全とは申し上げられない」と語る田中俊一原子力規制委員会委員長の無責任ツートップ。

 その間に挟(はさ)まる格好の世耕弘成経済産業大臣は「原子力規制委員会が世界で最も厳しいレベルの規制基準に適合すると判断した原発のみ、地元の理解を得ながら再稼働を進めるというのが政府の一貫した方針だ」(8月3日就任直後の記者会見)と、安全性に何ら責任を持とうとせず推進姿勢だけが全面に出ている。

 新規制基準についても田中委員長は「福島の事故、国際基準、そういったものを十分に踏まえて、二度と福島のような事故を起こさないためにありとあらゆる考えられることを基準に取り入れている」と語る。

 川内も伊方も、実態は言葉とはほど遠い。世界最高水準との認識については、神戸大学名誉教授石橋克彦氏は次のように指摘している。

規制委は,新規制基準において深層防護を徹底するとしている。しかし実際は,以下のように深層防護の体を成していない。第一に,とくに耐震安全性に関して,根底となる第I層が万全ではない。本件判決が示し,本稿でも後述するように,耐震設計の基礎となるべき基準地震動が本質的に過小評価となるような基準なのだ。これは当然,設備・機器の耐震性の低さを通じて第2,3層の脆弱性をももたらす。また判決は,耐震重要度分類B,Cクラスの設備等が基準地震動以下の揺れで破損すれば外部電源喪失・主給水喪失が生じることを重要視したが,安全機能の重要度分類と耐震重要度分類を見直すべきことが課題になりながら放置されている。裁判で被告は,いざとなれば非常用デイーゼル発電機と補助給水設備があると主張し、それが規制委の考えでもあるのだろうが,これは非常手段だけに頼って基本を疎かにする言い分で,深層防護の考え方が根本的にわかっていない。

第二に,新規制基準で新たに義務化された第4層のシビアアクシデント対策が非常に不十分である。これについては本稿では説明しないが,世界の原子力規制の動向に精通した原子力コンサルタントの佐藤暁氏が詳しく論じている。根本的な問題として,国際的な過酷事故対策の設計思想がパッシブ(無動力),自動,恒設,プロアクテイブ(先を見越す),実践主義(実証主義,現実主義)であるのにたいして, 日本はアクテイブ(動力依存),手動(判断にもとづく人的操作), 仮設(まず移動・設置が必要), リアクテイブ(起こったら考える),楽観的(精神論的)机上論であって,非常に危ういという。判決が,基準地震動を超えてクリフエッジに至らない地震動であっても過酷事故につながる危険があると述べているが,まさに佐藤氏が憂慮していることである。

新規制基準ではテロ対策を新設したとする。しかし,佐藤氏が紹介している米国の苛烈な実戦的対策に比べれば日本は無防備に等しい。7月1日に安倍政権が憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使容認を閣議決定したことにより,日本は「戦争をする国jになって,原発にたいする自爆テロ攻撃などが現実的脅威になったと考えられるが,私たちは丸裸間然である(ただし米国流にまでして原発を保有することがよいというのではない)。

第三に,最終的に住民の生命・健康を守るためには第5層が絶対的に重要だが,新規制基準は始めからこの部分を放棄している。これは,設置法で定められた規制委の任務(国民の生命、健康および財産の保護)に完全に違背している。米国では考えられないことであり、まさに人格権の侵害を許容する規制基準だといえる。

 プルトニウム燃料(MOX燃料)を積んだ「プルサーマル原発」でもある。再稼動の三機目にウラン燃料よりも遥かに危険性が高いプルトニウム燃料を績んだ原発を許可している。しかもプルトニウム燃料体の安全性について規制委員会は、「対象外」として何の審査もしていない。数々の問題点が指摘されてきたにもかかわらず8月に規制基準適合性検査で合格とした。

 その原子炉の安全性・過酷事故対策にどのような問題があるのかを、基準地震動や地震評価についての批判を含めて論じる

▶一次冷却材ポンプ軸受漏洩

 再稼動を目前に控えた7月17日伊方原発3号機一次冷却材ポンプの損傷事故が起きた。軸シール部に使った部品の損傷(変形)とされた。しかし規制委員会は原因究明も再発防止も四国電力に任せ、自ら何ら調査もせず8月12日の原子炉起動を認めてしまった。この事故はたいしたことの無い事故だったのか。

 原子炉は地震により停止したとしても、核燃料の崩壊熱があるため、冷却が継続できなければ炉心溶融を引き起こすことは、福島第一原発事故で経験した。

 伊方原発のような加圧水型軽水炉も原子炉一次系に破損が発生すると、流出する冷却材の流れに阻害されて冷却材の自然循環は成立せず、燃料を冷却できない。炉内の冷却材は開口部に向かつて流れてしまうからだ。

 自然循環とは、核燃料の熱により発生し高温になった冷却材が、出口配管を通過して蒸気発生器に向かい、そこで二次系または空気(二次系が壁になっていた場合)により冷やされ、比重が大きくなるので、蒸気発生器細管を下り一次冷却材ポンプを経て入口ノズルから炉内に戻る流れを言う。

 しかし何らかの原因により蒸気発生器細管、加圧器、一次冷却材ポンプなどの何処か(計装系などの微少配管なども含めて)で漏えいが発生した場合、漏えい口から冷却材は噴出し、冷却材の流れは損傷部に向かう一方的なものになる。そのため自然循環は成立しない。

 その中でも漏えい箇所になる可能性の高い一次冷却材ポンプは、実は破損が全くなくても電源が喪失しただけで漏えいが発生するやっかいな装置である。

 ポンプの軸シール部は、ポンプ回転軸を伝って内容物が漏れるのを防ぎ、軸受で回転を安定させる装置だ。加圧水型軽水炉の一次系にはループごとにポンプがあるので、伊方3号機の場合は3台ある。

 そのシール部は外から強い圧力をかけて「軸封水」または「シール水」を押し込んでおり、そのおかげで隙間から冷却材が漏れるのを防いでいる。シール水は157気圧の炉圧より高い圧力で「充てんポンプ」から送られている。しかし電動ポンプだから電源喪失と共に機能喪失する。その結果シール水を押し込めなくなると内部の157気圧の冷却材が漏れてくる。最大漏洩量は最も圧力が高い漏えい初期段階でポンプ1台あたり毎時最大109トンと想定されている。(時間と共に圧力が下がるので漏洩量は徐々に減少する。)

 シールの破損は、この漏洩量を増やす方向に影響すると思われるので、真剣に検証をすべきなのだが、今回の漏えいが「シール水のみの漏洩」だとして、何の検証も検討もしていない。安全側に立った態度とは到底いえないのである。

 四国電力によると、漏洩の原因は格納容器耐圧検査において使用圧力の1.1倍をかけたところ、ポンプ軸封部の0リングに外部から圧力が掛かり変形、そのまま動かしたため軸受が傾き漏えいに至ったという。しかしポンプ3台全部で起きなかった理由は説明出来ていない。ポンプの「個体差」だと四国電力は規制委の担当者に言ったそうだが、それで納得する規制庁では意味がない。

 原因調査が不十分では、仮に全く予期しない原因があったとしても排除されないので運転中に大規模な事故を起こす可能性が否定できない。それは過去に何度も振り返された。

 典型例を一つあげるならば、ポンプ軸振動の増大を甘く見て再循環ポンプが破壊されるまで運転し続けた1989年の福島第二原発8号機の事故がある。事故発生の前年に同型横の1号機で起きていた同一部品の同一原因による損傷を見逃したことが、最終的に事故を防げなかった原因だった。幸い炉心溶融や冷却材喪失事故には至らなかったが、炉心に30kg以上の金属片が流れ込んだ。

(過失した事件・「原発保修課長 飛び込み自殺」今年1月、上野駅で)

1989年3月10日
福島第2原発事故の3号機
「振動計の針ふり切れても 運転を続けていた」
東京電力福島第二原子力発電所3号機で一月六日、再循環ポンプ内の部品が破損、多数の金属片が原子炉内に流入した事故の際、異常を示す警報が鳴り、ポンプ回転軸の振動計の針が一時振り切れる状態になったにもかかわらず、運転を続けていたことが十日明らかになった。(以下記事参照)

 原子力産業は、こんな経験を山のように経験したが、今回の規制委員の姿勢に見られるのは、この体質が一向に改善されていないことだ。これまで何が起きても教訓こならなかった現実が依然として続いている。

 電源喪失時には一次冷却材ポンプが冷却材喪失の大きな流出点になると分かったのは福島第一原発事故の教訓である。それまでは抽象的には認識されていたが、そもそも全電源喪失が長時間続くという想定そのものが「想定外」なので何の対策もない。

 福島第一原発事故後の今も本質的には何ら変わらない。ポンプはもちろん以前のままだし、冷却材喪失対策も、結局は消防車のポンプで注入するという。せめて炉圧と同じ圧力でも注水できる電源不要のシステムを付けるべきであるが、対策は取られないままに加圧旭軽水炉が動き出している

 一つ考えられるのとしたら沸騰水型軽水炉の「原子炉隔離時冷却系」と同様の装置を付けることだ。

マジックナンバー1.54

 「1000十650」これが1.54である。

 設置許可変更申請者において伊方3号機は650ガルを想定した。新基準適合審査にあたり、基準地震動をそれまでの570ガルから650ガルに引き上げた。

 それでも不安だとした愛媛県が更なる対策を求めた。つまり1000ガル程度にも耐えられるのかと問うた。これに四国電力は「耐えられる実力がある」と主張した。 その根拠として四国電力は、650分の1000は1.54だから、1.54倍以上の「裕度」があれば良いことにした。しかし工事計画認可申請書に書かれた耐震裕度の中には、そのままでは1.54倍に達しない装置や機器類がいくつもあった。これでは1000ガルに耐えられる結論にならない。

 そこで「実力評価」の出番である。計算根拠をいろいろ都合よく変えることで耐震裕度すなわち倍率に下駄を履かせたのである。

 工事計画認可申請の場合は、例えば材料の肉厚は「必要最小肉厚」で計算する。設計製造時の材料の厚さが、運転中の腐食や浸食で失われ、あるいはひび割れていても設計上許容される最小値になっているとして計算する。もちろん、そこまで減肉やひび割れが起きていることは、特に放射性物質を内蔵する一次系では少ないかもしれない。しかし希でもあり得ることだから安全側に値を取り、それでも放射性物質を封じ込めることを条件としている。これが工事認可申請膏の計算すなわち「工認の手法」だ。

 しかしこれでは厳しい結果になる。そこで「実力評価」では、肉厚は公称値つまり材料として納品されるカタログスペックの健を使う。もちろん使用中の減肉やひび割れなど想定しない。当然ながら裕度は高い値になる。これを「実力の手法」とする。

 例えば蒸気発生器伝熱管の場合、650ガルにおける「工認の手法」では基準地震動による発生応力値÷評価基準値優性変形は起こすが破壊には至らない一定の値のこと)=1.09倍(1.54倍以下)なのに、「実力の手法」では同じ計算で1.61倍(1.54倍以上)になるのである。

 当然1000ガルを想定しても「実力の手法」ならば安全余裕があることになる。例えば蒸気発生器伝熱管の例では1.61÷1.09=1.48倍ほど耐震裕度が増えるというわけだ。

 しかし「工認の方法」で計算すると0.7倍(1.09÷1.54ニ0.71)程度でしかない。これでは破壊を意味する。蒸気発生器伝熱管は1000ガルの揺れでは持たないのである。

 同様に地質で破壊される可能性のある装置類を四国電力の「伊方発電所3号機耐震裕度確保に係る取組みについて」から読み取ると次の通り。抽出した条件は、主要機器の中で「工認の方法」で計算した耐霹裕度が1.54倍を下回るものである。

1・原子炉容器の管台(場所は特定されていない)、

2.炉内構造物(ラジアルサポート)、

3.燃料集合体(制御棒案内シンプル)、

4.原子炉容器支持構造物埋込金物(スタッド)、

5.蒸気発生器(管台)、

6.蒸気発生器内部構造物(伝熱管)、

7.蒸気発生器支持構造物(支持脚)、

8・蒸気発生器支持構造物埋込金物(支持脚埋込金物コンクリート)、

9.一次冷却材ポンプ(軸受)、一次冷却材ポンプ支持構造物埋込金物(上部支持構造物埋込金物基礎ボルト)、

10.制御棒クラスタ(被覆管)、

11.制御棒クラスタ駆動装置(タイロッド)、

12.燃料取替用水タンクポンプ・尿動機(軸位置)、

13.使用済燃料ラック(溶接部)、

14.   原子炉格納容器本体(胴部)、

15.   アニュラスシール(根太)、

16.格納容器排気筒(本体)、

17.タービン動補助給水ポンプ・駆動用タービン(弁箱)、

18.その他配管・サポート(具体的部位不明)、

19.一般弁(具体的部位不明)、

20.主蒸気隔離弁操作用電磁弁(据付位置)、

21.主蒸気安全弁(据付位置)、

22.制御棒(挿入性)、

23.静的触媒式水素再結合装置(本体)

 これらが全て1.54を下回っているので1000ガルの揺れには耐えられない。そのため実力評価などと下駄を履かせる手法を導入したが、それで実際に強度が上がるはずもない。

 規制庁の加圧水型軽水炉担当官は、この実力評価については法律で定められたものではないし、国に対して審査を求めたものでもないので、関知していないとした。事業者がことあるごとに主張する「国のお墨付き」は「実力評価」については一切無い。ならば、このような評価をさせるべきではない。また「事業者の手前味噌」を代弁する愛媛県も批判されるべきである。

▶自然循環不成立時のAM

 過酷事故対策(アクシデント・マネジメント略してAM)の一つが「Pフィード・アンド・ブリード」つまり「減圧して注水」である。

 核燃料の熱を逃がす方法は二次系への熱の伝達だが、電源喪失状態ではポンプは動かないから、核燃料で暖められた高温の冷却材が蒸気発生器の伝熱管に流れ込み、そこで二次系の水または空気に熱を逃がし、炉心に戻ることで炉心を冷やす。しかし伝熱管に気体が溜まれば自然循環は止まる核燃料が損傷たりメルトダウンしたら大量の希ガスと水素が発生するから、気体により自然循環は止まるのは誰にも分かる。その際に「フィード・アンド・プリード」を行うと、加圧器逃がし弁を開けば自動的に冷却材喪失になってしまう。

 また、蒸気発生器の伝熱管に気体が溜まるほど炉心損傷が進んでいれば、高温になったガスがポンプシールや弁を破損させている可能性が高い。加圧器逃がし弁を開くと二度と閉まらない可能性がある。冷却材の喪失はそういうところでも進行する可能性がある。そこで問題になるのは「水を入れる方法」である。

 ECCS(*)は蓄圧注入系以外は電動ポンプを使うため、電源喪失状態では入らない。蓄圧注入系も40気圧程度に下がらなければ入らない。炉心が高圧のままで漏えいが続くような状態では、冷却材を喪失し続けていても注水は出来ない。

 原子炉が高い圧力のままで推移し、冷却材を失っているのに注水できない状態が長時間続けば炉心は産出しメルトダウンを引き起こす40気圧まで圧力を下げるのに加圧器逃がし弁を使っても、蓄圧注入系統にも限りがあり、1基30トンのタンク3基が全て空になれば効果を失う。もともとECCSへの電源が30分程度で回復することになっているため、長時間の停電を想定していない。もちろんバックアップ電源があると主張するだろうが、福島第一原発事故では電源設備系統は地震により破壊されているから、長期間にわたり電源が使えない状態を想定していなければ、またしても想定外の事故になるだけである。

 *ECCS・緊急炉心冷却装置 

原子炉が空焚き状態になるのを防ぐ安全系の最重要装置。炉心で発生する熱を取り除くための冷却系配管が破断するなど、炉心から冷却水が大量に失われる事 故(冷却材喪失事故)が起きたときに緊急に水を押し込む装置有。加圧二氷壁軽水炉では高圧で雷 えてある水を入れる苔圧注入系、ポンプを使い高圧で送り込む高圧注入系、圧力が下がってから 動かす低圧注入系の3系統がある。

注入圧力はわずか7気圧

 これに対するバックアップとして想定されているのは消防車のポンプで注水する対策だが、ポンプの注入圧力は7気圧程度しかない。その圧力で消防用水配管に水を送ったところで、長大な配管の先にある核燃料まで届く保障もない。交渉時に規制庁に対して「消防用水ポンプを使って冷却材を送れることを実証したのか」と問うと、「稼働中の原子炉にそんなことは不可能である」と、実証しないことをあたかも当然とばかりに開き直った。これはおかしい。

 実証されていない装置を「安全設備」などと銘打って設置するようなプラントはあり得ない。最後に水が入らないとメルトダウンを避けられない段階で、実証されていない装置を使って水が入ることを前提として運転許可をすることなど許されない。

 規制庁は「消防用水配管の部分、部分で送水できるところをテストしている」というが、そんな常圧で動かす場所をいくらチェックしても意味はない。本当に厳しい場所、つまり一次冷却材の内蔵する150気圧以上になる場所に注水できることを実証しなければ、AM(アクシデント・マネージメント)設備などといえるわけがない。後付けの装置は常にこのような不備がつきまとう。

 例えば同じAM設備である「ホウ素注入系」については最初から設置されていたので、定期検査ごとに実際に注入できることを確認しているし、ECCSの設備についても定期検査や毎月一度の駆動試験で注入できることを確認している。消防用水配管の実証性を試験しないのは、できないからに他ならない。

 福島第一原発事故でも明らかに使い物にならない設備であることが「実証」されてしまった設備を、AM設備であるとする規制委員会の規制基準適合性欝宜は、茶番劇である。

島崎邦彦の警告

 最近、基準地震動を策定するにあたり、どのような計算式と方法を使うかについて、大きな議論があった。

 前規制委員会委員長代理の島崎邦彦氏は、これまで基準地震を策定する際に使っていた方法では過小評価になることを明確にしめすことで、規制委の耐震性審査の方法に対して問題提起を行つた。

 島崎氏が熊本地震を契機に大飯原発の耐震計算やり直しを提案したのは、政府の地震調査研究推進本部・地震調査委員会の資料に記載されている計算式だった。

 ところが規制庁は、これを使った評価は「今まで使ったことがない」(櫻田道夫・原子力規制庁原子力規制部長)として実施しない考えを示した。結果として過小評価との批判の多い現在の耐震評価対象地霹の策定に問題は無いと結論づけた。島崎氏の指摘は従来の計算方法が大幅な過小評価になっていること示す極めて重要なものだというのに。

 規制委員会と島崎邦彦元原子力規制委員会委員長代理とのやりとりはインターネット録画映像や新聞雑誌の報道により広く知られることになった。特に田中委員長は影智の払拭に躍起になり、まさしく事業者を代弁するような発言を繰り返した。

 東洋経済誌にいきさつが詳しく報じられているが、記事では地震動の専門家から重要な発言を引き出している。

 「現在の原発の安全審査のやり方には課題がある。地震動の審査に際しては、自然現象(地震)や人間側の認識が内包する不確かさもきちんと考慮して安全性を碓保する必要がある。熊本地震での新しい知見も取り入れ、より安全性を高める形で議論を進めるべきだ」(藤殿広行・防災科学技術研究所・社会防災システム研究部門長)

 熊本地震が島崎氏の指摘のきっかけになったのだが、「電力会社の手法では過小評価になる」との発言は纐纈一起(こうけつかずき)・東大地震研究所教授。「原発の耐震評価で用いられている地震動の予測手法を熊本地震に適用すると、地震動は過小評価になることがわかった」と東洋経済誌の取材に答えている。

 「大地震が起こる前にいくら詳細な活断層調査を実施していたとしても、震源断層の長さや幅を正確に推定することは困難なので、より正確に計算できる別の予測手法を用いるべきだ」纐纈氏は述べた。

 大飯原発の現在の基準地震動は700ガルだが、島崎氏の試算で別の計算方法を使えば1550ガルになるという。この値は大飯原発が「持たない」とされる「安全限界点」クリフェッジ1260ガル(ストレステストで割り出された値)を大きく超えることになる。

 耐震評価が大きく過小評価になっていること自体、検査をやり直す十分年理由になるが、規制委員会はこの件を打ち切りにしようとしている。原発震災を再来させたくないのならば、これまでの耐震規制のもとで審査をしてきた原発全てを見直さなければならない

川内原発は止めなければならない

 鹿児島県知事が三反園訓氏に替わっても、原発を止めるのは簡単ではない。特に規制委員会がいまや「推進委員会」と化して「熊本(地震)はマグニチュード(M)7.3。川内原発はM8.1で評価をしている」(田中俊一規制委委員長)として、熊本地震が南西方向、つまり川内原発に接近して大きな地震を起こしても問題はないと断定してしまった。

 しかし熊本地震が突きつけた問題は、基準地震動を超えるような地震が何度も繰り返し襲うような事態を原発が想定していないことだ。

 田中委員長は記者会見で、布田川断層帯などが活動すれば最大M8・1に相当する地震の可能性もあるが、震源域は原発敷地から30kmほど離れており川内原発の解放基盤表面の滞れは150ガル程度である。原発は自動停止するかもしれないが何度か起きても薄れは弾性範臥こ収まり、塑性変形もしないから安全性に問題がないという。

 いくつもの前提条件を置いた上で影響がないとする見解だから、3・11以後の日本では「想定外の事態に見舞われたらどう責任を取るのか」と多くの人は批判する。規制委は感覚が大きくずれていることに気づいていない。

 熊本地震は気象庁も「これまで観測したことがない」とする地震である。経験則で安全が確保できるとした説明に納得できるはずがない。一つでも条件が外れれば川内原発に大きな揺れが襲いかかると、直感で捉えた人が大勢いた。

 地震の大きさを発生前に予測することは困難である。現実に宮城県沖地震(2005年8月)、能登半島沖地震(2007年3月)、中越沖地震(2007年7月)では、近くの原発で基準地震動を超えた。そこで基準地震動を見直すのだが、川内原発では540ガルを620ガルに「引き上げ」た。しかし実態はほとんど変わっていない。540とか620は「周期0・2秒」での加速度で、振動の周期が大きくなるに従い加速度のグラフは重なるくらいに近くなる。

 地理的には川内原発の目の前でM7.3の地震が連発しているのだから、予防措置として運転を止めるくらいのことは、原発震災を防ぐ上でも重要だ。実際、熊本地震よりも小さい地震でも原発の直下で起きれば基準地震動を超える大きな揺れに襲われる危険は否定できないし、熊本地震の規模の地襲が布田川断層帯南端で起き冬場今、川内原発から離れていても長周期揺れの大きさに襲われてしまう危険も否定できない。

 先に従えば、そもそも基準地震動の算定からやり直すべきだ。