危険だらけの原発再稼働

■東電を巡るめまぐるしい展開を読み取れ

・誰が何を負担するのか?

2016年12月3日 たんぽぼ舎 山崎久隆

▶東電が廃炉費用を全国民に書求? 

 9月16日、東電の廃炉費用が当初見積もりを大幅に超え、巨額に上ることから、政府が「東電救済」のために「国民の負担8兆円超を検討」しているとマスコミ各社が一斉に報じた。

 原発の廃炉・賠償費用について東電は「福島第1原発の廃炉に4兆円、賠償に8兆円、その他の原発の廃炉費用に1.3兆円。」などと見通しを明らかにしていた。しかし、こんなどんぶり勘定にいかなる根拠があるのか明らかにされなかった。

 その後の10月31日、廣瀬社長は記者会見で、福島第一原発の廃炉については「収益向上とコスト削減に取り組むことで、国民に負担をかけずに廃炉費用を捻出したい」と述べた。 若干軌道修正したかに見えるが、東電の分社化問題が「東電委員会」で議論されており、まだ廃炉を決定していない福島第二や、再稼動を前提としている柏崎刈羽原発の廃炉とは、これは別といったところだろう。

 さすがに経産省内でも、こんな東電救済に国民の理解が得られないとの声もあるという。また、河野太郎衆議院議員もプログで批判している。これで「原発が安いというのは嘘だった」ことが誰の目にも明確になったのではないかと。いまさら感が強いが。

▶賠償責任は誰にあるの?

 原発事故を引き起こしたのは東電だから責任は全て東電が負うべきとの考え方は、事故後に「原子力損害賠償支援機構」を作り「放射性物質汚染対処特措法」により賠償等の費用調達の制度を構築させている時から、信義則(社会共同生活において、権利の行使や義務の履行は、互いに相手の信頼や期待を裏切らないように誠実に行わなければならないとする法理)の問題として指摘されてきた。

 機構法設立時の附帯決議でも「東電救済が目的ではない」とし、東電による賠償の停滞を招くことがないようにと明記されている。交付国債の形で東電に支払われる額は既に7兆7700億円に達し、早晩9兆円の枠を超えるが、あくまでも賠償に回すべきものであり、設備投資に使うことは出来ない。

 しかし一方では、補償に当てるべき資金が「支払い猶予」状態であることで、東電が利益の大半を柏崎刈羽原発の再稼動準備や電力自由化に伴う事業に投じている。これは大問題でありモラルハザードを引き起こす

 なお、支援機構からの資金は税金と東電以外の電力会社からの負担金で成り立っている。これを東電は「借入金」ではなく「特別利益」として計上している。電力各社(東電を除く)は「理不尽」と考えている。また、東電は返済をしないのではないかと常に疑われている。

 2016年3月期決算で3259億円のもの経常利益を計上しながら、個人や自治体への賠償請求にもろくに応じず、除染費用の支払いもまともにしない。本当に事故の責任を果たそうとしていると言えるのかと、皆が疑問に思っている。そのような中で「青天井の賠償・廃炉費用では責任を持てない」と数土文夫東電会長が述べたのである。

廃炉費用は「新電力」に?

 東電の廃炉費用を税金で賄うとする文脈の延長線上で、全原発の廃炉費用の一部を新電力も含めた全電力事業者に割り振るとの「悪だくみ」も進行中だ。

 9月20日に設置された、東電の救済を目的とする「東京電力改革・福島第一原発問題委員会(東電委員会)」に並び、「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」という名の、意味の良く分からない委員会が設置された。

電力システム改革小委員会」で経産省は、福島第一廃炉費用と損害賠償費用が巨額に上ることから東電需要家だけでなく全ての電力消費者にも転嫁することを見据えた議論を始めている。

 経産省の挙げる課題とは、原子力事故の補償のための資金は「事故以前から確保されるべきだった」が、「措置が講じられず電気料金に算入することができなかった」から、「安い電気を利用した需要家に遡って負担を求めるのが適当」としている。(「」内は東洋経済誌11/3記事より引用)

 ここまで言うのならば、本筋は原子力損害賠償法を改正し、原発事故による被害を賄うことが出来る損害保険制度を作るべきである。その保険料は巨額に上るだろうし、そのために原発の費用も「正当な」費用計上となるだろう。

 「東電委員会」では福島第一原発や事故処理にかかる費用以外の、他電力が保有する原発を含む廃炉費用を、原則として、すべての電力利用者に負担させる素案が事務局(経産省)から示されている。当初約束になかった損害額の請求など一般には認められるわけがない。

 二つ合わせれば、原発の廃炉費用は「新電力が送電線を使う際の利用料に廃炉費用を上乗せし、大手が回収する案を提示」して「新電力が上乗せ分を電気料金に転嫁すれば、負担は利用者に回る。」ことになるし「福島第一原発の廃炉対策もあわせて議論する。」という。(「」内は毎日新聞9/28記事より引用)

 これでは原発が安いどころではない永遠に原発のツケを消費者や納税者に追わせる仕組みであり、原発政策失敗の責任を転嫁する政府、官僚と、原発にしがみつき永遠に「改革」などする気のない既存の電力会社の性根が露骨に表れている。断固として阻止しなければならないが、付け加えるならば、これほど酷い案を公表し、非難を浴びることを承知でやっている。小委員会でも有識者会議でも批判された後に、そのうえで次に出てくる提案こそが本命だろうから、警戒を強めなければなるまい。

▶分社化で逃げろ?

 10月25日、東電委員会では経産省が「東電原発分社化案」を示した。現在東電ホールディングスが保有する福島第一、第二、柏崎刈羽原発のうち、再稼動可能な柏崎刈羽原発(ただし案では、原発の名を具体的に示してはいない)を東電から切り離す作戦である。

 柏崎刈羽原発再稼動の最大の障壁が「フクイチ事故検証」「東電への不信感」だと分析したのかも知れないが、これほどまでに市民を嘲ける案もないだろうと怒りが湧く。

 この分社化実には先があり、例えば東北電力も原発部門を分社化し、地震や津波で被災したうえ地元の強い反対(特に女川の場合)があり再稼動が困難な女川、東通既原発を東電の分社化後の会社とくっつけようと経産省は画策しているようだ。さらに稼働可能な原発がなくなった日本原子力発電も統合する有力候補だ。

 東電と中部電で燃料調達用に合弁子会社を作った経緯もあるので、電力各社の収益を圧迫する原発部門を切り離し、集中を図ることで生き残り戦略を構築するとの発想だろう。ただし東北電は全く乗り気ではない。「他の電力会社の原子力発電事業に関与・連携することは全く念頭にない」と原田宏哉東北電力社長は10月27日の記者会見で否定して見せた。

 新潟県は東北電力のエリアである。電力自由化時代にまるで時代に逆行するような話だが「供給エリアの会社」には一定の信頼関係があるだろうというのが経産省の考え方だ。

 しかしここにはとんでもない大問題がある。 原発会社は分社化後におそらく株式非公開会社になるであろう。東電など元の会社が株式を出資割合で持ち合う。

 東電など電力会社から切り離されるから、例えば東電株主総会でいくら質問をしても「他の会社のことだから答えられない」となる。東電など各電力会社に対する、規制当局の制御も効かない。ただ原発保有会社と規制当局の関係だけが新たに作られる。

 原子炉等規制法にも抵触するが、原発推進を掲げる政府なので、お手盛りで法改正をして「問題なし」とするのは当然。結果として重要な情報は何も公表されず、ただ規制委員会に出された審議資料が「黒塗り」や「白抜き」状態で部分開示されるだけになることは火を見るよりも明らかだ。

 分社化下での原発推進は現在よりも遥かに情報は閉ぎされ、もっと危険な状況を作り出すのである。