三春町

 ■《震災5年・被曝》 放射線の影響 見極める

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東京電力福島第一原発事故では、飛散した放射性物質により多くの人が被曝(ひばく)を余儀なくされた。チェルノブイリ原発事故に比べて住民の被曝量は大幅に少ないものの、健康への影響を見極めるため、内部被曝や甲状腺がんの検査が続けられている。一方、原発敷地内では汚染水対策や40年とも言われる廃炉に向けた作業で、被曝する作業員の数がこれからも増え続ける。原発作業員の被曝 昨年末までに4.6万人

■小中学生、毎年セシウム検査

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 被曝には、体の外から放射線を浴びる「外部被曝」と、放射性物質を呼吸や食事と一緒に取り込んで起きる「内部被曝」がある。

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 原発事故で降り注いだセシウムによる内部被曝は起きていないのか。福島県では現在も各地で、ホールボディーカウンター(WBC)と呼ばれる装置を使った検査が続けられている。

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 福島県三春町にある計八つの小中学校夏から秋にかけて、児童や生徒らを乗せたバスが、ひらた中央病院(平田村)へと向かう。

 町では、原発事故後、子どもの内部被曝をどう調べるかを検討した結果、町内の小・中学生全員を対象に検査の実施を決めた。事故が起きた2011年から毎年、1500人近くが継続して検査を受けている。強制ではなく、希望者を募って進めてきたという。

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 WBCでは、体の前に検出器を置いて体内からの放射線をとらえる。最終的に放射性セシウムがどれだけ体内にあるのか、放射性物質の量を表す単位ベクレルで評価する。東京大の早野龍五教授(原子核物理学)らの分析では、セシウム137は全身で300ベクレルが検出限界で、それより少ないと「検出されず」としている。

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 12~15年度に検出された児童・生徒はいなかった。事故が起きた11年の秋の検査では1494人中54人から検出されたものの、内部被曝ではなく、服に付いた泥などに含まれていたセシウムを検出した可能性があるという。翌年度からは検査着に着替えて検査してきた。町の担当者は取り組みについて「確認のために継続している状況」と説明する。

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 同病院ではほかに、希望する住民らを対象に検査を実施。1月末現在、大人を含めて福島県内外の4万9774人が受けた。

 早野教授によると、12年夏に全身で数千ベクレルを超える住民が4人いた。市場に流通している農作物は検査され、基準を超えたものが出回ることはない。聞き取りをすると、天然のキノコやイノシシ、川魚を検査せず食べていたといい、これが原因と考えられるという。秋に再検査すると値は半分以下になっていた。

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 今のところ、検出がある住民はほぼいない状況。早野教授は「多くの住民を調べた結果を見ると、心配しなくていいということが言えると思う」と話す。

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 さらに同病院を含め県内3カ所には、新生児から小学校低学年の児童が検査を受けられるWBC装置もある。15年3月までに検査を受けた2707人では、検出された子どもはいないという。(木村俊介)

■甲状腺がん 地域差見られず

 福島県では、事故当時18歳以下だった約38万人を対象に2011年秋から甲状腺検査が続けられている。

 事故から4~5年後に甲状腺がんが急増したチェルノブイリ原発事故の経験や、一般的な甲状腺がんの成長速度などから、被曝からがんが見つかるまでには数年の潜伏期間があるという想定のもと、13年度末までの1巡目検査(先行検査)では「事故前にできたがん」を見つけていると県はみる。14年度からの2巡目以降の検査(本格検査)で見つかるがんの発生率と比べて、被曝の影響を判断する方針だ。

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 1巡目検査でがんの疑いがあるとされたのは昨年末現在で116人。101人が手術を受け、1人が良性腫瘍(しゅよう)、100人ががんと診断された。県は「原発に近い地域で多発しているわけではなく、地域ごとの発生率はほぼ同等」と分析している。

 2巡目検査でがんの疑いがあるとされたのは51人16人が手術を受け、がんと診断された。2巡目検査は今年度末まで続く。被曝の影響を指摘する専門家もいるが、県の検討委員会は「現時点では被曝の影響は考えにくい」とする。

 チェルノブイリでは、本来、甲状腺がんがほとんどできないはずの5歳以下の乳幼児に多発した。

 一方、福島県でこれまでにがんと診断された計116人(1巡目検査の100人と2巡目検査の16人)に事故当時5歳以下の乳幼児はいない。人数は年齢が上がるにつれ多くなる。一般的に甲状腺がんの発生率は年齢とともに増えるとされ、状況と合致する。18歳で減っているのは、進学や就職で福島を離れ、受診者数が減った可能性がある。

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