緊急事態条項

■3氏が意見 衆院憲法審

 衆院憲法審査会は23日、参政権の保障をテーマに、憲法学者の木村草太(そうた)・首都大学東京教授、弁護士の永井幸寿(こうじゅ)氏、松浦一夫・防衛大教授の3人の参考人から意見を聞いた。

 前回の審査会でも論点となった、大規模自然災害など緊急事態時の国会議員の任期延長を憲法に盛り込むべきかについては、永井氏が、衆院解散中でも参院の緊急集会が開ける現行憲法の規定などを理由に反対を表明。松浦氏は「緊急集会だけで長期間、国会の意思を代弁させるのは不適切」と憲法改正を主張した。木村氏は任期延長を憲法で規定する場合は乱用の歯止めが必要とした。参考人の主な意見は以下の通り。

■衆院憲法審査会での参考人の発言要旨(参考人の写真は、衆議院インターネット審議中継から)

写真・図版◇首都大学東京教授・木村草太氏 

【緊急事態条項】危険性否定できない

 

 (自民党改憲草案の)緊急事態条項には、国民の権利を抑えるような規定があり、緊急事態条項の導入に賛成する方から見ても大変危険なものであることは否定できない。文言の意味を詰めないと、そもそも議論できない条項だ。自民党内でもっと議論して欲しい

緊急時の衆院議員の任期延長】事前に法律の工夫を

 大規模災害で、一斉に選挙ができなくても、即座に憲法違反の疑いが生じるわけではない。それより法律を工夫し選挙の時期や方法を事前に整えておくことが重要だ。憲法改正で任期延長をするというのなら、不当な乱用への具体的な歯止めも提案していただきたい

【首相の衆院解散権】何らかの制限、合理的

 与党に有利なタイミングを選ぶといった党利党略での解散を抑制するためには、解散権に何らかの制限をかけることが合理的だ。現憲法のまま、解散理由を国会で審議するなどの解散手続きを法律で定める方法と、憲法を改正して解散の条件を明記する方法がある

写真・図版◇弁護士・永井幸寿氏

【緊急事態条項】デモなども追加可能

 災害を理由に憲法に条項を創設することは反対だ。最初、憲法に「大規模災害の場合」と規定しても、その後、国会の過半数の議決によって戦争やテロ、デモを追加することも可能になる。想定外の事態には憲法ではなく、事前に法律で対処しておくべきだ

【緊急時の衆院議員の任期延長】参院緊急集会で対応

 憲法改正で任期を延長することに反対だ。緊急事態が戦時体制になった過去の教訓からしても任期延長は危険と考える。衆院解散中に緊急事態となっても、参院の緊急集会や災害対策基本法による緊急政令、(被災地だけ選挙を遅らせる)繰り延べ選挙で対応できる

【首相の衆院解散権】災害時、解散は不適切

 解散権は、政府と国会との関係をどう考えるかという、深い問題だ。ただ、災害時には、被災者支援に予算や人員を集中すべきで、解散して選挙をするのは不適切で、自制するだろう。もし解散権を行使すれば、そのような政権に国民の意思が示されることになる

写真・図版◇防衛大学校教授・松浦一夫氏

【緊急事態条項】例外認める改正必要

 日本ほど大災害が多発する国はまれ。大地震が周期的に発生するわが国では、災害緊急事態条項の必要が認められる。大地震など想定外の事態に備えて法律を整備することとは別に、憲法の通常のルールでは対応できない場合に例外を認めるための憲法改正は必要だ

【緊急時の衆院議員の任期延長】両院で政府監視、安全

 緊急事態時には任期を延長し、衆参両院で政府を監視できる方がよほど安全ではないか。参院の緊急集会だけで長期間、国会の意思を代弁させるのは不適切だ。緊急事態宣言の間、議会の同意の上で任期が延長されれば、乱用の危険性もないだろう

【首相の衆院解散権】非常時は禁じた方が

 解散権は単に制約すれば良いものではない。民意を問う制度が過度に制約されることは問題だ。ドイツでは解散権も制約されているが、首相の不信任案も制限され、バランスが取れている。ただ、非常時は、緊急事態条項で解散を禁じて政府を監視した方が安全だ