福島県内の被災とレスキュー活動

 福島県内の美術館、博物館においては、施設そのもの、また所蔵する文化財が地震、あるいは津波による重大なダメージを受けずに済んだことは不幸中の幸いであったといえる。震災後、福島県立美術館は施設の補修とメンテナンスを経て約一か月後に再開したのをはじめ、いわき市立美術館、南相馬市博物館など震源に近い浜通り地域の施設においても概ね半年後までに活動を再開することができた。


 しかし館の再開後むしろ表面化したのは放射能汚染の問題であった。震災以降、海外巡回展の中止、出品停止などが相次いだことから、外部に向けて安全性を発信する必要もあり敷地内の放射線測定を開始、現在もなお継続している。福島市の場合、屋内(特に展示室や収蔵庫)の線量はほぼ平常値を示しており、屋外についても2014(平成26)年度までに除染作業が完了したことから空間線量は0.1μSv以下まで低下している状況である。

 震災後もっとも深刻な事態となったのは、原発事故による警戒区域に指定された富岡町、大熊町、双葉町、楢葉町、南相馬市の一部である。圏内の資料館、学校、寺社には文化財が置き去りにされ、救出もままならない状態が続いた。ようやく救援活動が本格化したのは、震災から一年以上が経過した2012(平成24)年度からで、「福島県被災文化財等救援本部」が救援活動の拠点となった。県文化財課を事務局として、各市町村の教育委員会、県内の博物館、大学等により組織され、文化庁や国立文化財機構の指導を受けながら、活動にあたっている。全国美術館会議加盟館としては2013(平成25)年4月より福島県立美術館が参加、取り残された文化財を放射線量の低い警戒区域外の保管場所へと移送を最優先に活動している

各年度ごとの活動概要は以下の通りである。

2012(平成24)年度: 大熊町、富岡町、双葉町 計23回のベ323名参加

2013(平成25)年度: 富岡町、浪江町、双葉町、南相馬市 計27回のベ107名参加

2014(平成26)年度: 浪江町、楢葉町、双葉町、南相馬市 計13回のベ127名参加 

 2014年産までに救出対象とされた主要な資料の移送はほぼ完了しているが、圏内には個人所蔵などいまだ多くの文化財が残されており、2016(平成28)年度現在もなお救援活動は継続している。

 これら救出資料は現在、白河市や相馬市、会津若松市など県内数か所で保管されているものの、「一時保管」されているこれらの資料が今後どのように取り扱われるべきなのか、被災地域の復興計画との兼ね合いからも幅広い議論が求められている。

宮武弘(福島県立芙術館)