高校「情報科」教員不足

■高校「情報科」、教員足りない 

▶︎採用試験なし18道府県 「免許外」で補う

自分たちの学校の「お気に入り」をサイトでどう表現するかを話し合う生徒たち=都立町田高校

 政府が人工知能(AI)の時代に対応できる人材の育成を目指すなか、高校の情報科が注目を集めている。2022年度からの新しい指導要領で必修科目「情報I」が新設され、大学入学共通テストで出題する検討も進む。だが、専門の教員が足りないなど学校現場での課題は山積みだ。

 「高校に来る人に、自分たちの『お気ログイン前の続きに入り』を知ってもらうサイトをつくろう」。東京都立町田高校で8月末にあった情報科の授業だ。

 「町田高校のPRじゃなくて、自分たちをわかってもらうのが目的だよ」「著作権に気をつけて。自分の撮った写真を使おう」。小原格(おはらつとむ)指導教諭が指示し、生徒たちは4人1組で取り組んだ。「身の回りにAIが入ってくると、情報を受けるだけでなく、どう表現し発信するかを学ぶことは欠かせない」と小原指導教諭。

 情報科は、2003年度実施の学習指導要領から始まった。13年度からのいまの指導要領では、生徒は「情報の科学」「社会と情報」のいずれか1科目を学んでいる「情報の科学」はコンピューターの活用など、「社会と情報」は情報が社会に及ぼす影響などを学習する。

 これに対し、文部科学省が今年3月に改訂した次の指導要領では科目を再編し、「情報1」を必修とした。プログラミングやデータ活用の基礎などを、全員が学ぶ。

 この動きに加え、政府の成長戦略「未来投資戦略2018」は6月、24年度の大学入学共通テストから「情報1」を出題科目とすることについて「本年度中に検討を開始」とした。

 大学入試センターも、情報科をコンピューターで試験するための問題素案を大学や高校の教員から募集した。素案をもとにモデル問題をつくり、20年には10校程度で試行問題案の検証をする予定だ。

 だが、情報科は専任教員が不足している情報の一種免許状は全国の200以上の大学で取れるが、教員の採用数は少ない。

 背景にあるのは、情報科の必修の単位数が2単位と少なく、生徒数の少ない高校だと専任教員を配置しにくいことだ。

 ただ文科省が、17年実施の採用試験での公立高校教員の採用予定者数を調べた結果では、情報科と同様に必修を2単位で実施している学校の多い家庭科が91人なのに対し、情報科は18人に過ぎない。

 中野由章・大阪電気通信大客員准教授と中山泰一・電気通信大准教授の調査では、05年度から14年度の10年間に情報科の採用試験を実施したのは29都府県で、実施していなかったのは北海道、栃木県、佐賀県や京都府など18道府県だった。

 教員不足を補うのは、免許状を持つ教員が採用できない場合、1年以内で認められる「免許外教科担任」だ。文科省の17年の調査によると、免許外教科担任3077人のうち、情報科は1148人と全体の37・3%に上り、次いで多い公民(355人)の3倍以上だった。「教員のレベルの都道府県格差が生徒の学ぶレベルの格差に結びついている。採用方針や教員配置を見直すべきだ」と中山准教授は話す。

■「技術者以外は不要、と誤解」

 情報科はこれまで大学入試でなかなか出題されてこなかった。中野客員准教授が調べたところ、18年度入試で情報科が一般入試科目にあるのは15大学にとどまった。こうした状況について、久野靖・電気通信大教授は「問題の根源は、教育行政や社会の無理解だ。情報科は技術者にならない生徒には不要だという誤解が、なおある」と話す。

 関係者が手をこまねいていたわけではない。情報処理学会のワーキンググループは「大学情報入試全国模擬試験」を13年から16年まで4回実施。のべ約4千人の高校生が受験した。

 文科省も16年、自治体に対して、免許を持つ学生を教員に採用し、計画的に配置するよう通知した。新指導要領に向け、今年度中に研修資料をつくる方針だ。

 筧捷彦(かけひかつひこ)・早稲田大名誉教授は「情報科の知識や技能はIT人材になりたい生徒だけでなく、どの生徒にも身に着けてもらいたい。指導要領の実施を契機に、自治体も大学も変わってほしい」としている。(編集委員・氏岡真弓)