ウイルスVS人類2

■「ウイルスVS人類2 カギを握るワクチンと治療薬」

 新型コロナのパンデミック終息のカギはワクチンと治療薬の開発。第一線の専門家が集結!最新情報をもとに徹底討論!
 ▽ウイルス学の世界的権威が挑む新ワクチン
 ▽日本の感染症治療の最前線で闘う医師が期待する薬とは?
 ▽国の感染症対策のキーマンが語る課題▽聞き手は薬学博士で作家の瀬名秀明
 ▽WHOやビル・ゲイツもワクチン開発には12-18か月かかると見る中、世界中で続く競争
 ▽人類は連携してこの危機を乗り越えられるか

山中伸弥による新型コロナウイルス情報発信

▶︎2つの顔を使い分ける狡猾なウイルス

 新型コロナウイルスに感染しても、多くの場合は症状が出ないようです。症状が出る場合も大半の人では咳や発熱などの軽症で終わります。そのため、多くの人は新型コロナウイルスに感染しても気づきません。そのため、感染が急速に広がる恐れがあります。

 一方で、一部の患者さん、特に高齢者や糖尿病などの持病をお持ちの方には、同じウイルスが牙をむいて襲い掛かります。肺炎が急速に悪化し、多くの場合、人工呼吸が必要となります。70歳以上の感染者では感染者のうち10%近い方が、数週間以内に亡くなっています。中国の報告では、20代30代であっても感染すると500人に1人くらいは亡くなっています。普段は鳴りを潜めて多くの人に感染し、ところどころで牙をむく、非常に狡猾なウイルスです。しかし、ウイルスにも弱点があります。ウイルスは人の力を借りてのみ猛威を振るいます。人が一致団結し、賢く行動すれば、ウイルスは勢いを失います。

▶︎インフルエンザとは違う恐ろしさ

 新型コロナウイルスでは、元気な方でも急激に悪化し亡くなることがあります

 ワクチンがなく、誰もが感染する可能性あります。中国らの報告では、感染すると、20%程度の方は重症化します。息切れ、激しい咳、高熱が続きます。有効な薬はないため、患者さんは耐えるしかありません。5%くらいの方では、1~2週間で呼吸困難となり、人工呼吸器が唯一の治療法となります。人工呼吸器が不足すると助かる命が助かりません。80歳以上では15%くらいの致死率です。20代、30代であっても、感染者500人に一人くらいが死亡しています。日本のデーターでも感染者の4%くらいは、集中治療室での治療や人工呼吸器が必要となり、その半分は亡くなっています。発症してから数週間で急激に亡くなるのが特徴です。感染が急速に広がると病院の対応能力が限界に達し、心筋梗塞や交通事故など他の救急患者さんも救えなくなります。医療崩壊です。イタリヤ、スペイン、武漢では、実際に人工呼吸器の不足、医療崩壊が起こっています。

患者(Tara Jane Langstonさん)が、集中治療室から、呼吸できない辛さを訴えておられます。https://www.youtube.com/watch?v=iFLSG-7K3Tc

▶︎ 季節性インフルエンザ

 ワクチンがあり、ある程度の予防が可能です。多くの治療薬が開発されています。インフルエンザがきっかけで、1000人に1人くらいが亡くなると考えられています。しかし新型コロナウイルス肺炎のように急激に悪化し亡くなる方は少ないです。高齢者や免疫力の弱っている方がインフルエンザに感染すると、それがきっかけで細菌性の肺炎になったり、持病が悪化して亡くなることがあります。毎冬、日本だけで1千万人くらいの患者が発生し、インフルエンザがきっかけで1万人程度が亡くなっていると考えらていますが、人工呼吸器が不足したり、医療崩壊が起こったことはありません。

▶︎ 年齢別の患者数と致死率(中国のデータ)

 60歳以上で致死率が急上昇します。MARS並みです。20歳未満の患者数は非常に少ないですが、これは無症状や軽症の感染者が表に出ていない可能性があります。20代、30代であっても、500人に1人くらいは亡くなっています。若い人にとってもこの新型コロナウイルスは大きな脅威です。もし、500回に1回の確率で死亡事故を起こす乗り物があったとして、あなたは乗ることが出来ますか?新型コロナウイルスは、あなたにとって、そして周囲の人にとって、大きな脅威です。

▶︎ 致死率と感染性

 致死率も感染性も季節性インフルエンザや2009年の新型インフルエンザより高いことが、今回のパンデミックにつながっています。

▶︎ 集団感染(クラスター)とは?

 新型コロナウイルスでは、クラスターと呼ばれる集団感染が問題となっています。クラスターの場所になりやすい条件としては、換気の悪いところ(密閉)に、多くの人が集まり(密集)、近くで会話したり、声を出すこと(密接)が考えられています。屋外のイベントであっても、大勢がトイレや休憩場所などを共有すると3つの密が重なり集団完成を引い起す可能性があります。このような場所を作らない、行かないことが、感染の急速感染を抑えるために重要です。いくら手を消毒してマスクを着用しても、3つの密が揃うと感染が広がる可能性あります。

▶︎ 対策のゴール

 急激に感染者が増加すると、病院機能が麻痺し、医療崩壊につながる恐れがあります。最も深刻なのは、人工呼吸器の不足です。助かる命が助からなくなります。また現在は、無症状や軽症であっても、感染病棟に入院することが多く、重症者を受けいる余裕がなくなっている地域もあります。院内感染等で病院が休止されると、救命治療にも影響が及び、心筋梗塞や交通事故など、ウイルスと関係のない患者さんの対応にも影響が及びます。感染拡大のスピードを遅くし、医療体制を整備する必要があります。

▶︎ パンデミックに関するNHKの解説

 1年前の解説ですが、パンデミックのことが良く分かります。パンデミックと言えばインフルエンザだったので、新型コロナウイルスによるパンデミックを予測していた科学者は少ないと思います。
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/700/319587.html

■「新型インフルエンザから10年いまパンデミックが起きたら」

中村 幸司  解説委員

 2009年に新型インフルエンザの感染が世界中に広がりました。当時、毎日マスクをして外出したのを覚えている人も多いと思います。
新型インフルエンザは、2009年の4月頃から世界に広がり始めて、5月に日本で最初の感染者が見つかりました。それからちょうど10年になります。

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10年前とは別の新型インフルエンザが今後、流行するという脅威は今も続いています。それがいつ発生するのかは、わかりませんが、次のパンデミック=つまり世界的流行が、仮にいま起きたら、どうなるのか、どうしたらいいのか考えてみます。

◇過去の新型インフルエンザと次の被害想定

 下の図は、過去に起きた新型インフルエンザのパンデミックを示したものです。

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 1918年のパンデミックは「スペインかぜ」として知られています。「かぜ」と呼んでいますが、スペインかぜも当時の新型インフルエンザだったのです。2009年までの間、パンデミックは10年から40年くらいの間隔で起きています。何度も繰り返されていて、次も起こると考えておく必要があります。

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 2009年のとき、日本ではおよそ200人が死亡し、2000万人以上が感染したとされています。次のパンデミックについては、国の被害想定があります。日本だけで、17万人から64万人が死亡し、3200万人つまり国民の4人に1人が感染すると想定されています。

▶︎なぜ、これほど違うのでしょうか。

 2009年は、重症になる人が比較的少ないタイプのウイルスだったことなどから、こうした規模だったと考えられています。次のパンデミック(世界的流行)は、想定より被害が少ないこともあり得ますが、1900年代の被害をみると、ここまで想定する必要があるのです。

◇新型インフルエンザの脅威とは

 新型インフルエンザは、誰も感染したことがないので、世界中の人=人類は免疫を持っていません。このため、ひとたび人の間で感染するようになると、世界中に爆発的に広がるパンデミックになると考えられています。また重症化しやすく、多くの死者を出してしまうのです。このため、警戒が必要なのです。

◇患者が確認されたらどうするか

 仮に日本で、いま新型インフルエンザの患者が確認されたら、私たちはどうしたらいいのでしょう。

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 基本は、人混みに行かない、手洗いの徹底、咳をするときは手で覆わすにハンカチなどで口を覆う「せきエチケット」を行うといったことになります。毎年の冬のインフルエンザのときと同じです。
基本はこうなりますが、国内で感染が拡大するような状況になると、総理大臣が「緊急事態宣言」を発表します。

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国民に対して、様々なことが求められます。

具体的には、
▽不要不急の外出の自粛の要請、
▽催し物の中止などの要請、
▽生活物資の価格が買い占めなどによって高騰しないようにしないといけません。高騰していないか国や自治体が監視することになっています。
さらに、
▽学校閉鎖などの措置も広い地域でとられることが考えられます。
国の想定では、会社など仕事を休む人は、一時的に最大40%程度になるとされています。

◇生活への影響

 健康被害だけでなく、日常生活への影響も大きくなってきそうです。具体的に見てみます。

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 電気・水道・ガスといったライフラインの事業者は、供給を維持できるよう、あらかじめ計画を立てています。

 ただ、例えば鉄道などは、必要な人員を確保できなくなる恐れがあります。「状況によっては、在来線や新幹線の運行本数を減らすこともあり得る」と鉄道会社は話しています。会社員の人も、通勤の人混みを避けるということもあって、在宅勤務にするなどの対応を迫られるかもしれません。

 運送業は、ただでさえ人手不足なので、影響が大きくなる恐れがあります。

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 例えば、インターネットで購入した商品がなかなか届かない、あるいはコンビニに行っても商品が揃っていないということも考えられると指摘されています。新型インフルエンザによる経済的損失は、日本だけでおよそ20兆円に上るという試算もあります。

 ものが手に入りにくくなると、生活に困ってしまいます。
政府は、新型インフルエンザ対策として、食料や日用品など2週間分を備蓄しておくよう求めています。主なものがこちらです。

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 米、パン、レトルト食品。マスク、常備薬、トイレットペーパーなどがあります。災害用の備蓄と共通したものが多くなっています。電気・水道・ガスといったライフラインは使えるとみられますから、水やお湯を使う食品も含まれます。

◇感染したと思ったら・・・

 仮にいま、新型インフルエンザの感染が国内で報告されているとして、熱が出るなど「自分が感染したかもしれない」と思ったらどうすればいいのでしょうか。

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 国内の患者が少ないうちであれば、自治体に設置される「相談センター」などに電話して、感染の疑いがあれば、指定された医療機関で診察を受けます。感染が確認されれば、入院などの措置がとられます。
このとき国は、その患者と過去に接触した人を調べるなどします。感染した人全員を把握して、ウイルスが広がらないよう対策を進めます。
ただ、感染者の人数が増えてくると、こうした対応にも限界が出てきます。

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 感染者が多数になると、毎年の冬のインフルエンザの時のように、普段かかっている医療機関で、他の患者と違う入り口から入るような対応に切り替わっていきます。

◇治療や予防の体制

 新型インフルエンザに対する、治療や予防の体制はどうなるのでしょうか。

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 国は、新型インフルエンザに備えて、国民の45%分のインフルエンザ治療薬の備蓄を進めています。「新型」と言っても、同じインフルエンザなので、従来の治療薬でも一定の効果が期待できます。
さらに、予防のため、新型インフルエンザに対応したワクチンの開発・製造が急ピッチで進められます。発生後、半年で国民全員分のワクチンを作る体制を整えるとしています。

◇ワクチン接種

 新型インフルエンザが流行していることを考えると、ワクチンを求める人たちが殺到しそうですが、大丈夫でしょうか。

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 ワクチンは、優先順位を決めて接種されることになっています。患者に接する機会のある医師や看護師など医療関係者、警察官など治安維持に欠かせない人など、そして公共性の高い仕事をしている人も優先されます。
それ以外の人も、流行しているウイルスがある病気の人や高齢者が重症になりやすいといったことがわかれば、その病気の人や高齢者を優先するというように、よりリスクの高い人から接種されることになります。具体的な優先順位は、発生後に正式決定されます。
国民全員分もあると、接種すること自体に大変な手間がかかります。効率よく接種するため、学校や公民館などで、地域の人に集団接種が行われることになります。

◇正確な情報を得ること

 このように見てくると、国がどのようなことをしてくれるのか、正確な情報を入手することが大事になることがわかります。
10年前と大きく変わった点ですが、SNSなどの発達で情報が行き渡りやすくなった反面、デマや不正確な情報が飛び交い、混乱するのではないかということが心配されています。

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 パンデミックの時、国は記者会見を定期的に開くことにしているほか、ホームページなどで情報提供することにしています。こうした信頼できる情報に基づいて、行動することが求められます。

 今回は、仮に「いま新型インフルエンザが発生したら」ということをみてきました。いつ発生するかわからない、パンデミック・世界的大流行に冷静に対処するためには、新型インフルエンザの発生で、どのようなことが起こるのか、どう行動したらいいのか、考えておくことが大切です。

(中村 幸司 解説委員)