太田市美術館・図書館

■太田市美術館・図書館

■施設概要・・・コンセプト

(1)基本理念・・・創造的太田人

▶︎まちに創造性をもたらす、知と感性のプラットフォーム

 太田市美術館・図書館は、まちに創造性をもたらす、知と感性のプラットフォームです。 近代以降、太田市は「ものづくり」を中心に発展してきました。ものづくりを通して培われてきた市民ひとりひとりの英知は、いまも太田市の活力の源泉となっています。

 一方で太田市は、中心市街地の衰退、人口減少と高齢化への対応など、様々な都市課題を抱えてもいます。今後太田市が「人と自然にやさしい、笑顔で暮らせるまち」であり続けるためには、「まちづくり」に対する市民の参画と協働をこれまで以上に推進していくことが重要になります。

 こうした認識を踏まえ、太田市美術館・図書館は、「ものづくり」を通して育まれてきた太田市民の創造性を、これからの「まちづくり」に生かしていくための拠点となることを目指します。

 太田市美術館・図書館は、斬新な発想により人々の感性を刺激する多彩な美術作品と、創造的発想の源泉となる広範な知識を提供する図書資料を、同時に閲覧できる場所を提供します。そのことにより太田市民に内在する創造性を開花させるとともに、創造性あふれる市民とともに、まちに広がり、中心市街地に賑わいをもたらすプロジェクトを多彩に展開していきます。太田市美術館・図書館は、太田市の未来を担う「創造的太田人」を育成します。

(2)美術館・図書館事業の目的

▶︎太田市に蓄積されてきた創造の遺伝子の収集と調査研究

 太田市ゆかりの美術品や工芸品、郷土の歴史に関する資料や近代産業関連資料などを収集し、その調査研究を推進することで、太田に蓄積されてきた創造の遺伝子の価値を顕在化させる。

▶︎世界の最先端の感性やクリエイティビティに触れる機会の提供

 現代において世界最先端の評価を受ける表現や知識に触れる機会を提供する。太田市民による創造的取り組みの一助なることを目指す。美術館事業、図書館事業を同時に推進することで、感性と知性の双方を刺激する。

▶︎次代を担う人材、プロジェクトの育成

本施設を拠点として、まちに広がるプロジェクトを多彩に展開するととともに、次代を担う子どもたちの創造性の育成に取り組む。事業計画、運営に市民が主体的に参加し、市民とともに本施設を運営する。

■建築

建築家 平田晃久

 太田駅北口にこの美術館図書館がつくられることになったのには切実な理由があります。太田市は人口20 万を超える豊かな市であり、太田駅はその中心に位置する、一日の乗降者数が1 万人を越える駅です。しかしながら現在駅前は閑散としています。多くの人々が車中心の生活をし、郊外のショッピングモールで買い物をするようになった結果、街の血液である歩行者が少なくなり、駅前の魅力ある街並みが喪われつつあるのです。この建物は、人々の流れをもう一度駅前に呼び戻し、駅前の街並みを歩いて楽しい魅力あるものに育てていくためのきっかけとして構想されました。私たちはその構想に応えるようにして、建物の基本的な考え方をつくりました。

外観

内外や裏表のない建物

この建築は、周囲の建物と同じようなスケールをもった5 個の鉄筋コンクリート構造の箱と、その周りをぐるぐる回る鉄骨構造のスロープによってできています。箱の上にはたっぷりと土を入れ、緑を植えます。その結果全体としては建物と緑、人工と自然が混ざり合う丘のような風景が生まれます。それはどこか、金山や天神山古墳といった太田に点在する丘のようでもあります。

見取り図

航空写真

建物の東、南、西面に3 つの入り口があり、様々な方向から気軽に入り、通り抜けることができます。3 階建てですが、全体が緩やかなスロープによって連続的に結ばれているので、街の中を歩くように自然に上の階に至ることができます。すべての場所が街とつながっています。人々は街からやってきて、この場所を通り、また街へと帰っていきます。これはそんな結び目のような建築です。

イメージ図 各階イメージ

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▶︎街を歩くような経験

 ここにはそれぞれ違った魅力を持ったいくつかの箱があります。それはギャラリーだったり、カフェだったり、雑誌や新聞が読める場所だったり、子どもたちのための読書室だったり、勉強ができるような静かな場所だったり、いろいろです。訪れた人は、それぞれ自分が居心地良く感じる場所を見つけて、それぞれの時間を過ごすことができるでしょう。特徴を持ったいくつかの箱の間を抜けるように歩くのは、街の中を歩くのと連続した楽しい経験です。

 こうした散策の中で、人は興味のある本や、驚きを与えてくれるアートや、太田に関する新しい情報や、様々な友人達に出会うことができます。内部は様々な方向に視線が抜け、行ってみたくなる場所がかいま見えるようになっています。たとえば図書館にいながら美術館でのワークショップが、カフェから図書館の本棚が、駅から図書館のスロープを行き交う人々の活気がかいま見えます。従来の「図書館」とか「美術館」というかたい殻を脱ぎすてた、自由で活気のある、街の中のような場所が生まれます。

太田駅からオープンテラスを望む太田駅からオープンテラスを望む

2階東側の閲覧エリア2階東側の閲覧エリア

美術館と図書館のつながり イベントスペース
美術館と図書館のつながり           イベントスペース

視聴覚ホール
視聴覚ホール               児童書コーナー

▶︎環境に開かれた場所

 外部には本が読めるテラスがあります。箱の屋上は緑化されていて、心地よい木漏れ日や草原の中で、リラックスした時間を過ごすことができるでしょう。高い場所に登れば、周囲の街や金山を望むこともできます。飛行機のプロペラを思わせるような全体形状は、建物の中に流れを招き入れるような雰囲気を持っています。これによって人々が入りやすい雰囲気が生まれるだけでなく、風の流れも内部に導くことができます。太田はとても強い風が吹くことで有名ですが、この風を適切に取り入れることによって、内部に心地よい気流の動きをつくり出すことができ、省エネルギーにも寄与します。

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▶︎みんなで北口をつくる

これは太田の駅前に人々の活気を取り戻すための建築です。建物が完成しても、本当に完成したことにはなりません。たくさんの人々が歩き、思い思いの時間を楽しむ、生きた場所になる必要があるのです。設計のプロセスはこうした考え方を反映しています。太田市民の方々とワークショップをしながら、専門家も交えて議論し、たくさんの重要な決定を行いました。図書館と美術館がからみ合うようなゾーニングや、箱の個数にいたるまで、この話し合いの中で決めたのです。またこのプロセスの中で、この建物が太田にフィットしたものになるための、たくさんの手がかりも頂きました。実現されることになった設計案はこうして生まれたものです。

ワークショップ

ダイアグラム

意見

ワークショップ ワークショップ

ワークショップ

ワークショップ

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完成後、たくさんの太田市民に愛され、利用される、街の結び目になるような生きた建築になることを願っています。

平田晃久平田晃久建築設計事務所

建築状況

建築状況

平田 晃久(ひらた あきひさ )建築家,京都大学准教授

1971年大阪府に生まれる。
1994年京都大学工学部建築学科卒業。
1997年京都大学工学研究科修了。
伊東豊雄建築設計事務所勤務の後、2005年平田晃久建築設計事務所を設立。
2015年より京都大学准教授就任。

主な作品に「桝屋本店」(2006)、「sarugaku」(2008)、「alp」(2010)、「coil」「Bloomberg Pavilion」(2011)、「Kotoriku」(2014)等。第19回JIA新人賞(2008)、Elita Design Award(2012)、ベネチアビエンナーレ建築展金獅子賞(2012、伊東豊雄・畠山直哉・他2名との共働受賞)、LANXESSカラーコンクリートアワード(2015)等受賞多数。著書に『現代建築家コンセプト・シリーズ8 平田晃久 建築とは<からまりしろ>をつくることである』(LIXIL出版)等。また、バウハウス(ドイツ)、ハーバード大学(アメリカ合衆国)、ブリティッシュコロンビア大学(カナダ)、Architecture Foundation(イギリス)等で講演。そのほか、東京、ロンドン、ベルギーなどで個展を開催するだけでなく、ミラノサローネ、アートバーゼル、フリーズアートフェアなどにも多数出展している。


▶︎ロゴマーク・サイン計画

グラフィックデザイナー 平野 篤史

 太田市美術館・図書館のロゴマーク及び、サイン計画を手がけるに際し、本施設の建築を手がけられた平田晃久氏からこの建築に対する考え方・経緯についてお聞きした中で、以下の5つのキーワードが出てきました。「新しさ(他にない新しさを持ったデザイン)」「シンプル(単純で印象的なデザイン)」「調和(建物コンセプトと調和したデザイン)」「オリジナル(太田市ならではのデザイン)」「ボーダレス(お年寄りから子どもまで、そして英語圏の方にとっても使いやすいデザイン)」デザインはこのキーワードを軸に構成しています。今回、ある特定のマークを持たない。という事から、オジリナルのフォントを組んだものをマークとする事を目指しました。日本語、英語が4段組み合わさっている事は、この建物の特徴である、歩いて登っていける丘のような形状からイメージしています。また、グローバル、ボーダレスという考えを強調するためでもあります。ロゴタイプを罫線で囲っているデザインは、この建物自体に表裏が無い事を表現しています。線で囲ってしまう事によって、文字は文字という存在から記号化され、一種のマークになります。この建築物が360°表裏がなく、開かれた存在である。という事を意味しています。館内サイン、パンフレットなどでは、基本的にすべての書体をオリジナルで制作しています。

外観ロゴ

 また、大きなコンセプトとして「街を取り込む、街に溶け込む」ということがありました。そこで、サイン計画に街の中でのサインや看板のあり方を取り入れることで、このプロジェクトが目指す開かれた存在、人を呼び込む仕組みに変換できないかと考え、ネオンサイン、壁や柱に付随する書体など、街の中で実際に目にする、看板的な役割を取り入れたサイン計画をしています。名称、方向を指し示す役割としてのサインはもちろん、訪れる人がアートや本を楽しんでもらうことと同じように、サインも楽しんでもらえることを目指しました。

西側エントランスロゴ西側エントランス

絵本・児童書コーナーのサイン絵本・児童書コーナー

アートブックコーナーのサインアートブックコーナー

視聴覚ホールのサイン視聴覚ホール

カーブミラー型の案内表示カーブミラー型の案内表示

平野 篤史(ひらの・あつし) グラフィックデザイナー

1978年神奈川県生まれ。 2003年多摩美術大学美術学部グラフィックデザイン学科卒業。MAQ(マック)を経て、2004年株式会社ドラフト入社。2016年7月株式会社ドラフトを退社、2016年8月、AFFORDANCE設立。 企業ブランディング、CI、VI、プロダクトデザイン、パッケージデザイン、エディトリアルデザイン、ロゴデザインなどグラフィックデザインを基軸に活動。 主な受賞歴:TOKYO TYPE DIRECTORS CLUB TDC賞(2004)経済産業大臣賞(2011)JAGDA新人賞(2013)