チェルノブイリ事故基本法

ウクライナでの事故への法的取り組み  オレグ・ナスビット,

*今中哲二ウクライナ科学アカデミー・

水圏生物学研究所(ウクライナ)*京都大学原子炉実験

■チェルノブイリ事故に関する基本法
■基本概念

 チェルノブイリ原発事故がもたらした問題に関するウクライナの法制度の記述は,まず基本概念文書「チェルノブイリ原発事故によって放射能に汚染されたウクライナSSR(ソビエト社会主義共和国)の領域での人々の生活に関する概念」の引用から始めるのが適切であろう.この短い文書は,チェルノブイリ事故が人々の健康にもたらす影響を軽減するための基本概念として,1991年2月27日,ウクライナSSR最高会議によって採択された.

 この概念の基本目標はつぎのようなものである.すなわち,最も影響をうけやすい人々,つまり1986年に生まれた子供たちに対するチェルノブイリ事故による被曝量を,どのような環境のもとでも年間1ミリシーベルト以下に,言い換えれば一生の被曝量を70ミリシーベルト以下に抑える,というものである.

 基本概念文書によると,「放射能汚染地域の現状は,人々への健康影響を軽減するためにとられている対策の有効性が小さいことを示している.」それゆえ,「これらの汚染地域から人々を移住させることが最も重要である.」基本概念では,(個々人の被曝量が決定されるまでは)土壌の汚染レベルが移住を決定するための暫定指標として採用されている.一度に大量の住民を移住させることは不可能なので,基本概念では,つぎのような“順次移住の原則”が採用されている.

 第1ステージ(強制・義務的移住の実施):セシウム137の土壌汚染レベルが555kBq/m2以上,ストロンチウム90が111kBq/m2以上,またはプルトニウムが3.7kBq/m2以上の地域.住民の被曝量は年間5ミリシーベルトを越えると想定され,健康にとって危険である.
第2ステージ(希望移住の実施):セシウム137の汚染レベルが185~555kBq/m2,ストロンチウム90が5.55~111kBq/m2,またはプルトニウムが0.37~3.7kBq/m2の地域.年間被曝量は1ミリシーベルトを越えると想定され,健康にとって危険である.
さらに,汚染地域で“クリーン”な作物の栽培が可能かどうかに関連して,移住に関する他の指標もいくつか定められている.

 基本概念の重要な記述の1つは,「チェルノブイリ事故後,放射線被曝と同時に,放射線以外の要因も加わった複合的な影響が生じている.この複合効果は,低レベル被曝にともなう人々の健康悪化を,とくに子供たちに対し,増幅させる.こうした条件下では,放射能汚染対策を決定するにあたって複合効果がその重要な指標となる.」

 セシウム137汚染レベルが185kBq/m2以下,ストロンチウム90が5.55kBq/m2以下,プルトニウムが0.37kBq/m2以下の地域では,厳重な放射能汚染対策が実施され,事故にともなう被曝量が年間1ミリシーベルト以下という条件で居住が認められる.この条件が充たされなければ,住民に“クリーン”地域への移住の権利が認められる.

 こうした基本概念の実施のため,つぎの2つのウクライナの法律,「チェルノブイリ事故による放射能汚染地域の法的扱いについて」および「チェルノブイリ原発事故被災者の定義と社会的保護について」が制定された.

■事故影響軽減のための基本法

 法律「チェルノブイリ事故による放射能汚染地域の法的扱いについて」は,ウクライナSSR最高会議において,1991年2月27日に採択され,1991年7月1日から施行された.その後,1991年12月17日,1992年7月1日,1995年4月28日,12月22日,1996年12月17日,1997年4月4日のウクライナ議会(ベルホーブナ・ラーダ)の法律と,1992年12月26日のウクライナ閣僚会議政令によって,変更・修正された.

 法の基本的な目的は,「汚染レベルに基づく地域の分類,汚染地域の利用と安全確保,汚染地域での住民の居住条件,汚染地域での生産,研究その他の活動」の規制と調整である.

法は以下の6つの章から構成されている.

Ⅰ.一般原則

Ⅱ.特別規制ゾーンと移住強制ゾーンの法的扱い

Ⅲ.移住権利ゾーンの法的扱い

Ⅳ.放射能管理強化ゾーンの法的扱い

Ⅴ.チェルノブイリ事故による放射能汚染地域の法的扱いと管理

Ⅵ.チェルノブイリ事故による放射能汚染地域での法的違反に対する罰則

 法の第1条は,チェルノブイリ事故による放射能汚染地域をつぎのように定義している.「事故前に比べた現在の環境中放射性物質の増加が…住民に年間1ミリシーベルト以上の被曝をもたらし得る」領域が汚染地域である.こうした地域では,住民に対し放射能防護と正常な生活を保障するための対策が実施されねばならない.

 第2条では,汚染地域のゾーン区分を定義しており,表1はその基準をまとめたものである.表1からわかるように,汚染地域の定義に関して,第1条と第2条で矛盾がある.第1条では,被曝量が年間1ミリシーベルトを越える可能性のある領域が汚染地域と定義されているが,第2条のゾーン区分では,年間1ミリシーベルト以下の領域が(0.5ミリシーベルト以上の)放射能管理強化の第4ゾーンに含まれている.

表1 法に基づく放射能汚染ゾーンの定義

No
ゾーン名
土壌汚染密度, kBq/m2 (Ci/km2)
年間被曝量
ミリシーベルト/年
セシウム137
ストロンチウム90
プルトニウム
1
避難(特別規制)
n.d.
n.d.
n.d.
n.d.
2
移住義務
555 以上
(15 以上)
111 以上
(3 以上)
3.7 以上
(0.1 以上)
以上
3
移住権利
185555
(515)
5.55111
(0.153)
0.373.7
(0.010.1)
以上
4
放射能管理強化
37185
(15)
0.745.55 (0.020.15)
0.1850.37 (0.0050.01)
0.5 以上

(注)避難ゾーン:1986年に住民が避難した地域.n.d.:定義なし.

 汚染ゾーン指定のための基準は,ウクライナ放射線防護委員会(NCRPU)が決定したものである.ゾーン境界の指定は,NCRPU,科学アカデミー(NASU),保健省,チェルノブイリ省,農業省,環境安全省,水理気象委員会,各州執行委員会などの意見を基に,ウクライナ閣僚会議が行なう.1996年のベルホーブナ・ラーダ(ウクライナ国会)の決定により,ベルホーブナ・ラーダの承認なしに,ゾーン境界を変更することはできなくなった.

 最初に採択されたときの第7条では,移住権利ゾーンと放射能管理強化ゾーンの企業,団体,農場に対し,地方税以外の税金を免除すると定めていた.1992年の終わりに所得税免除の規定は廃止され,1996年1月からは関税や物品税免除の特典も廃止された.

以下に引用する条項は,チェルノブイリ事故の科学的研究に関係している人々にとって興味深いものであろう.

「第11条(チェルノブイリ事故に関する科学的研究結果の所有権について).汚染地域で実施される科学的研究から得られる情報と結果のすべては,ウクライナ国家の財産であり,その利用にはウクライナ閣僚会議の承認が必要である.」

放射能汚染およびその他の毒性物質による人々へ影響を軽減し,また放射能汚染のゾーン外への拡大を抑えるため,法は各種の経済活動を制限することを定めている.

住民の健康確保という観点からは,疾病の危険性を軽減するための対策が重要である.法に従い,政府は以下の方策を実施せねばならない.

汚染地域住民の毎年の健康診断と早期の病気予防,
住民への十分な量の,医薬品,飲料水,クリーンな食料の供給,
居住区へのガスの供給,舗装道路の整備,等々.
法の第21条は,表2にまとめてあるように,放射能モニタリングに関する全体的なシステムやそのデータの管理について,各省庁の責任分担を定めている.

表2 放射線モニタリングに関する各省庁の責任分担

活動の内容
責任省庁
被曝量の予測評価と放射線安全基準の策定
保健省
汚染ゾーンの放射能状況の総合的評価,放射能モニタリング,放射能状況に関する研究の統括
チェルノブイリ省
以下に関する放射能汚染の管理:
農地
水資源
地下水と地下資源
汚染地域の大気
農産物と食品
車およびその部品
汚染地域外への移住の際の家財,資材,建築材
移住の際の家畜
 農業食品省国家水資源委員会
国家地質学委員会
国家水理気象委員会
農業食品省
運輸省と内務省
国家衛生管理局,民間防衛隊
国家家畜管理局
放射能管理データの信頼性管理
国家衛生管理局
放射能管理方法の策定
国家標準委員会
工業製品の汚染管理
各企業体,団体,製造者

 法律「チェルノブイリ原発事故被災者の定義と社会的保護について」は,ウクライナSSR最高会議により1991年2月28日に採択され,1991年7月1日より施行された.(ベルホーブナ・ラーダによる)法律により1991年12月19日,1992年7月1日,1993年5月5日,6月17日,1995年4月6日,12月27日,1996年3月22日,6月6日,12月11日,1997年6月27日に,およびウクライナ閣僚会議政令により1993年3月26日,4月30日に変更・修正が行なわれた.

「法の目的は,チェルノブイリ原発事故に被災した市民を保護し,あわせて事故によって被災者にもたらされた医療的な問題の解決に取り組むことである」(第1条).

法は,以下の10章から構成されている.

Ⅰ.一般原則

Ⅱ.チェルノブイリ原発事故被災者の定義

Ⅲ.被災者の登録と医学的支援に関する統一的制度

Ⅳ.被災者に対する社会保障:補償と特典

Ⅴ.子供の被災者に対する保護措置

Ⅵ.被災者一般に対する保護措置

Ⅶ.汚染地域で働く市民に関する労働規制

Ⅷ.第Ⅰ~第Ⅳカテゴリーの被災者に対する年金と補償

Ⅸ.チェルノブイリ事故被災者の社会的立場

Ⅹ.結語

 法の第2条で汚染地域の定義がされ(内容は,前述の法の第2条と同じ),第3条では「放射線環境について,なんらの規制なしに居住または労働できる条件とは,汚染による被曝量が年間1ミリシーベルトを越えないこととする」と述べている.かくして,前の法の第1条と第2条の間に認められたのと同じ矛盾がここにも現われている.

 つぎに,汚染地域での長期的な居住に関する規制と,住民の移住に関して必要な条件が定められている.(当局による移住準備が整う前の)自主的な移住にの権利が,一生の間の被曝量が70ミリシーベルトを越える人々に認められている.しかし現実には,その権利は,しかるべき当局が将来にわたる被曝量評価の方法を有していないので,これまでの被曝量が70ミリシーベルトに達していると認められた人にのみ適用せれている.さらに,非常に重要ながら,議論のある記述として,「移住強制ゾーンの住民は,例外なく移住しなければならない」と定められている.

 さらにこの法律は,食品や農産物中の放射能の許容濃度は,ウクライナ放射線防護委員会の諮問に基づいて,ウクライナ保健省が決定しそれを監督すると定めている.

 ウクライナ閣僚会議は,環境中の放射能汚染レベルに関する情報の信頼性,適切性および適時性,ならびに放射線安全に関する条件とその実施についての責任を有する.

 この法で定めているチェルノブイリ事故被災者は,事故処理作業に従事した人々と子供を含む被災住民であるが,さらに,表3に示すような,4つのカテゴリーに分類されている.すべての補償や特典は,被災者カテゴリーと居住または労働地域のゾーン区分に従って決定される.

表3 チェルノブイリ被災者の各カテゴリーの定義

カテゴリー
定義
I
リクビダートルと被災住民のうち,チェルノブイリ事故とその障害との因果関係が認定された疾病障害者.チェルノブイリ事故により放射線障害が生じた人.
II
下記の期間に作業に従事したリクビダートル:- 避難ゾーンで198671日以前:作業日数に関係なし;– 避難ゾーンで198671日から19861231日の間:5日間以上;
– 避難ゾーンで1987年:14日間以上;
被災住民:
– 1986年に避難ゾーンから避難した住民;
– 移住強制ゾーンに事故のときから移住決定まで住み続けた住民
III
以下の期間に作業に従事したリクビダートル:– 避難ゾーンで198671日から19861231日の間に5日間以内;– 避難ゾーンで1987年に14日間以内;
– 避難ゾーンで1988-1990年に30日間以上;
– 人々の衛生管理,機器の除染作業,また建設作業に従事した人;
被災住民(第Ⅱカテゴリーを除いて):
– 事故の時に移住強制ゾーンまたは移住権利ゾーンに住んでいて,199311日までに,移住強制ゾーンに2年以上または移住権利ゾーンに3年以上住んだ後にそこから移住した住民;
– 移住強制ゾーンもしくは移住権利ゾーンに居住,労働または通学していて,199311日までに,移住強制ゾーンに2年以上,移住権利ゾーンに3年以上過ごした住民.
IV
放射能管理強化ゾーンにおいて居住,労働または通学し,199311日までに4年以上過ごした住民.

 

 政府は,以下の事項について補償せねばならない.

チェルノブイリ事故に起因する健康被害と労働能力の喪失,
チェルノブイリ事故によって親が死亡した子供,
チェルノブイリ事故による人々への物質的損害.
政府はまた,チェルノブイリ事故被災者の健康診断を実施する責任がある.特に注目すべき記述として「被災者の労働能力の喪失とチェルノブイリ事故との関係については,(被曝量に関する記録の有無にかかわらず)相互の関係を否定できるとしかるべき医療当局が確認できなければ,因果関係があるものと認定される」と法は述べている.

 法は,チェルノブイリ事故被災者への補償と特典の内容について定めている.補償と特典のリストは11ページにもおよんでいる.補償と特典には,一時的なもの(住居の提供や,家,車,家畜,果樹といった損失財産の補償)と継続的なもの(無償医療,無償療養,食品購入手当,年金増額,無償の交通機関,早期年金など)がある.

 さらに法は,チェルノブイリ事故被災者は,仕事に応募したり,企業や組織のリストラの際に優遇されると定めている.この規定は,より熟練したり有能な労働者の不満や怒りを引き起こしている.法はまた,地方の執行委員会は年間に建設される住居の15%をチェルノブイリ法の実施に供するよう定めている.特別な資金配分があるものの,住居には常に長い順番があり,このことも問題の種になっている.

 さらに奇妙なのは,法のつぎの一節である.「チェルノブイリ事故対策関連の計画において建設作業に携わっている企業,団体,機関の労働者の給料は,標準俸給表の20%増しとする.」

 法は,子供の被災者についても定義を行ない,その子供と親に対してつぎのような補償・特典を定めている.就学年齢までの養育の政府による完全保障,年間2カ月までのサナトリウムまたは保養地での無償療養,両親どちらかの給与割り増し,年間180日までの母親の有給育児休暇,などである.

法の実施に必要な資金は国家財政から提供され,ウクライナ閣僚会議は,その実施に対して責任を負っている.

■Ⅱ.放射線防護のための法令

 ソ連時代における放射線防護に関する基本的な文書は,「放射線安全基準SRS-76/87」であり,この文書はウクライナでは1997年末まで有効であった.SRS-76/87によると,人々は以下の3つのカテゴリーに分類される.

カテゴリーA:放射線線源を用いる作業の従事者.
カテゴリーB:放射線作業には直接従事しないが,居住条件(ここが国際基準とは異なっている!)または労働場所に関連して,放射線にさらされる可能性のある人々.
カテゴリーC:一般住民.

 カテゴリーAとBに対する年間被曝量限度は,それぞれ50ミリシーベルトと5ミリシーベルトであった.しかし,カテゴリーCに対する被曝量限度は定められていなかった.ただ,一般市民に対する被曝を制限する措置を講ずる,とだけ述べられていた.放射線事故に際しては,「事故の内容と規模により,保健省が市民に対する暫定被曝限度と許容基準を設定する.」

 1997年,ウクライナ保健省は,国際基準1に準拠して新しく「ウクライナ放射線安全基準SRSU-97」を採用した.SRSU-97は1998年から施行される.

SRSU-97には,以下の4つのカテゴリーに関する規則が含まれている.

第1カテゴリー:放射線取り扱い作業を規制するための規則.被曝量限度と誘導レベル(許容濃度と管理濃度)の値.
第2カテゴリー:医療被曝を規制するための規則.勧告レベルの値.
第3カテゴリー:放射線事故の際の規制と基準.防護対策によって低減される被曝量に基づく介入レベルと行動レベルの値.
第4カテゴリー:人為的な行為により増加する自然放射線被曝の規制.介入レベルと行動レベルの値.
第1カテゴリーの規制に関連する被曝量限度を表4に示した.SRSU-97の被曝カテゴリーBは,SRS-76/87とは異なっている.すなわち「カテゴリーB:直接放射線作業には従事しないが,放射線被曝の可能性がある事業所で働く労働者」である.第1カテゴリーの規制での誘導限度には,(カテゴリーAとカテゴリーBの人々に対する)作業環境における空気中の許容濃度,および(カテゴリーCの一般市民に対する)空気中と飲料水中の許容濃度が含まれている.それらの値は,各放射能の標準的な取り込み条件を考慮して算出されている.

表4 SRSU-97による新しい被曝限度  ミリシーベルト/年

被曝限度
被曝をうける人のカテゴリー*
A
B
C
実効線量当量
20**
2
1
線量当量:
眼の水晶体
150
15
15
皮フ
500
50
50
手足
500
50

*:本文参照.**:いずれの年も50ミリシーベルトを越えないという条件での連続する5年間の平均

 放射線事故に対しては,一連の緊急対策と長期的対策が想定されている.SRSU-97では,防護対策を実施することによって低減できる被曝量に基づいて,2つの基準,すなわち“対策の実施が正当化できる最低レベル(最低レベル)”と“対策を無条件に実施すべきレベル(無条件レベル)”が決められている.表5に,緊急対策に関する2つの基準値を示してある.防護対策によって低減できる被曝量が2つのレベルの間にある場合は,対策の実施は,地域的,社会的な状況を考慮して決定されることになる.表6は,暫定移住と移住に関する指標である.SRSU-97はさらに汚染食品の摂取制限についての指標も定めている.

表5 放射線事故時に緊急対策を発動させるための指標

(実施が正当化できる最低レベルと無条件実施レベル)

対策
対策により初めの2週間に低減が予測される被曝量t
最低レベル
無条件レベル
ミリシーベルト
ミリグレイ
ミリシーベルト
ミリグレイ
全身被曝
甲状腺
皮フ
全身被曝
甲状腺
皮フ
屋外滞在の制限; 子供大人
1
2
20
100
50
200
10
20
100
300
300
1000
屋内退避
5
50
100
50
300
500
避難
50
300
500
500
1000
3000
ヨウ素予防措置; 子供大人
50
200
200
500
表6 放射線事故時に暫定移住および移住を実施するための指標
(実施が正当化できる最低レベルと無条件実施レベル)
<暫定移住>
指標
指標値
最低レベル
無条件レベル
暫定移住により低減される被曝量,シーベルト
0.1
1
移住期間中月当りに低減される被曝量,ミリシーベルト/月
5
30
野外空間線量率,ミリグレイ/時
0.01
0.1
<移住>
指標
指標値
最低レベル
無条件レベル
移住により低減される被曝量,シーベルト
0.2
1
移住後12カ月間に低減される被曝量,シーベルト
0.05
0.5
土壌汚染密度(kBq/m2):     セシウム137
               ストロンチウム90
               アルファ放射能
400
80
0.5
4000
400
4
野外空間線量率(ミリグレイ/時): セシウム137のみより
                全放射能により
0.001
0.18
0.01
1.8
 

 筆者らが本報告をまとめている最中の1998年1月14日,ベルホーブナ・ラーダはウクライナの新しい法律「電離放射線の影響からの人々の防護について」を採択した.この法は6章24条で構成されている.各章のタイトルは以下の通りである.

Ⅰ.一般原則

Ⅱ.基本的な被曝限度と介入レベル

Ⅲ.放射線影響からの人々の防護の確保

Ⅳ.損害に対する補償

Ⅴ.放射線防護の分野での国際協力

Ⅵ.結語

 この法での用語の定義は,SRSU-97とは若干異なっている.たとえば,介入レベルは「対策の実施を必要とされる予測被曝量」に基づいて決定される.一方,SRSU-97の介入レベルは「対策の実施によって低減可能な被曝量」によって決められており,低減される被曝量に基づいて防護対策の実施が正当化されている.法による介入レベルは,たとえば,遮蔽強化については「始めの10日間に5ミリシーベルト」,暫定的避難については「1週間に50ミリシーベルト」と,SRUSU-97の数値は似ているが,その考え方はまったく異なっている.

 基本的な被曝限度については,一般公衆に対し「年間1ミリシーベルト」,放射線作業者に対しては「年間20ミリシーベルト,ただし,場合によっては,連続する5年間の平均被曝量が年間20ミリシーベルトを越えないという条件のもとで,年間50ミリシーベルト」と定めている.下線部については,SRSU-97の条文より若干規制が甘いニュアンスを含んでいる.

 興味深いのは,基本的被曝限度を越えた場合の被曝に対して補償額を定めていることである.被曝限度を越える被曝の“値段”は,(現在の交換レートで)1ミリシーベルト当り約10米ドルに設定されている.これは,不当な医療被曝の場合にも適用される.この条項は2000年1月1日から施行されることになっている.条文を読む限りでは,これがチェルノブイリ事故にも適用されるかどうかは定かでない.

■2.食品,水,空気に関する放射能基準

 ソ連時代のSRS-76/87では,カテゴリーBの人々を対象に,各放射能の飲料水と空気中の許容濃度(PCB)が定められていた.その値は,PCB濃度の放射能を定常的に経口摂取または呼吸すると仮定した場合,それぞれの放射能による被曝量が年間5ミリシーベルトとなるように決められている.経口摂取と呼吸による取り込みが両方ともあるような環境条件では,それぞれの寄与割合を考慮しながら,誘導許容濃度の値が決められる.

 チェルノブイリ事故が起きると,ソ連保健省はソ連の法令に従い,食品と飲料水に関する暫定許容レベル(TAL)を1986年,1988年,1991年に定めている2,3.1993年はウクライナ放射線防護委員会(NCRPU)はTAL-93を発表した.しかし,ウクライナ政府の各省はその数値に同意せず,いまだ保健省によって承認されていない.したがって,ウクライナにおいてはTAL-91が1997年の末まで有効であった.TAL-93の主な問題点は,その数値に明確な根拠がないことである.しかしながら,汚染地域の地方当局は,1994年以降, TAL-93の数値に基づいて,各地の条件を考慮しながら食品と農産物に関する地方管理レベル(LCL)を設定し実施している(表7).地方の条例により,LCLを越えると調査が実施され,必要に応じて対策が実施されることになる.1995-1996年にLCLの値を越えた農産物は,集団農場ではほんの数%であった.しかし,自営農地では,この割合はもっと大きい.

表7 1994年よりいくつかの州で実施されている農産物・食品中セシウム137の地方管理レベル

Bq/l, Bq/kg

食品名
キエフ
ボリンスク
ジトーミル
飲料水
4
4
ミルク
74
74
74
ミルク製品
74148
74
75
粉ミルク
185
豚肉,牛肉,羊肉,鶏肉
74148
276
740
185296
296
ジャガイモ
60
根菜
60
葉菜,果物,イチゴ
60
185
パン,穀類製品
185
キノコ(生)
740
740
キノコ(乾燥)
1850
1850
74
296
幼児食品
37
表8 食品・飲料水中のセシウム137とストロンチウム90の許容濃度(AL-97),Bq/kg, Bq/l
品名
セシウム137
ストロンチウム90
パン・パン製品
20
5
ジャガイモ
60
20
野菜(根菜,葉菜)
40
20
果物
70
10
肉・肉製品
200
20
魚・魚製品
150
35
ミルク・乳製品
100
20
卵(1ヶ当り)
6
2
飲料水
2
2*)
コンデンスミルク
300
60
粉ミルク
500
100
野生イチゴ・キノコ(生)
500
50
野生イチゴ・キノコ(乾燥)
2500
250
薬草s
600
200
その他
600
200
幼児食品
40
5

*) 199111日までは4 Bq/l

■Ⅲ チェルノブイリ被災者国家登録

 チェルノブイリ事故の直後,ソ連保健省は全ソ放射線被災者登録の計画を始めた.ソ連の崩壊にともない,ウクライナはその全ソ登録を部分的に引き継ぎ,チェルノブイリ事故被災者に対する医学的・社会的援助を効果的に進めるため独自の登録システムに取り組むこととなった.ウクライナの法律「チェルノブイリ原発事故被災者の定義と社会的保護について」の第16条(チェルノブイリ事故被災者の国家登録とその組織について)に基づいて,保健省は国家登録実施の責任を負っている.国家登録は,形の上では存在しているものの,全体の調整不足や資金不足のため,総合的な登録システムとしては現実には機能を果たしていない.こうした状況は,閣僚会議により「ウクライナにおけるチェルノブイリ事故被災者国家登録の機能と組織に関する規約」(1997年6月9日,政令No.571)が承認されたことにともない,今後改善されると期待される.

 国家登録に含まれている基本的集団の大きさを表9に示す4.1996年1月時点で合計47万4095人が登録されている.国家登録には,「医学登録」,「被曝登録」および「社会状況登録」という3つのサブ登録がある.「医学登録」は被災者の健康検査と治療に関するデータベースで,「被曝登録」は被曝量の測定値と推定値のデータベース,「社会登録」は国家登録に含まれている被災者を各被災カテゴリーに分けたデータベースである.ウクライナ国防省,内務省および保安委員会によって管轄されている「ウクライナ軍人登録」も,国家登録の一部となっている.

表9 ウクライナのチェルノブイリ国家登録の登録人数(人,1996年1月1日時点)

グループA
グループB
グループC
グループD
合計
リクビダートル
避難・移住住民
汚染ゾーン居住民
A-Cグループから生まれた子供
大人
184,672
53,866
161,611
400,149
子供
8,845
27,907
37,194
73,946
合計
184,672
62,711
189,518
37,194
474,095

 国家登録を維持管理するための組織は以下のようなレベルに分かれている.

 国レベル:ウクライナ保健省の医学情報技術・国家登録センター,および国防省,内務省,保安委員会の各担当部局.さらに,医学アカデミーと科学アカデミーの特別部局.
州と市レベル:州病院と市病院
地区レベル:地区病院

 上記のシステムの中で,地区病院が医学データを収集する基本単位となる.原則的には,データの収集を適切に行なうようマニュアルが定められている.しかしながら,国際的な医療専門家の見解によると,データ収集に関する実際的な知識の不足と,死亡率やガン死率といった基本的な疫学統計データの質に問題があるため,ウクライナでの疫学研究は国際的に通用するレベルには達していない.

■Ⅳ おわりに

 1.ウクライナのチェルノブイリに関する法制度は,科学的に正当化されたものというより,事故被災者を救済しようというウクライナ当局の善意が反映したものである.初期の段階(1991年)には,法の実施に必要な資金はソ連の財政から支出されると期待されていた.しかし,ソ連が崩壊してしまうと,法で定められた社会保障や補償の実施は,独立ウクライナの経済状態を考えると,負担過剰であることが明らかとなった.法を実施するためのチェルノブイリ基金の収入は,必要な額に比べ毎年その70~80%にとどまった.

 チェルノブイリ法がたび重ねて修正されてきたことは,ベルホーブナ・ラーダの議員たちや一般の人々のチェルノブイリ問題への並々ならぬ関心を示している.とりわけ,政治家にとってのチェルノブイリ問題は,現実的対策派と大衆迎合派の間での闘いの場であった.そして放射能対策という問題は脇に置かれてしまった.

 ウクライナの放射能モニタリングシステムは,汚染地域の各居住区住民の年間被曝量について必要な情報を提供している.大部分の汚染地域において,被曝量の明白な減少が観察されているにもかかわらず,各居住区の汚染ゾーン指定は1991年以来見直されていない.モニタリングのデータに基づくと,現状では約50%の居住区の被曝量が,指定されたゾーンの基準値に達していない.

 現状でまず必要なことは,(事故から11年を経てナンセンスとなっている)強制的な移住を中止し,その資金を汚染地域の人々の生活再建に振り向けることである.また,汚染農産物の生産に対して補償を支払うことをやめ,替わりに,汚染地域でクリーンな農産物を作っている人々を奨励するような制度を導入すべきである.

 チェルノブイリ問題に対するこのような新しいアプローチは,他の多くの提言とともに,チェルノブイリ省と放射線防護委員会が共同で立案した「チェルノブイリ事故被害から人々を防護するための概念」に示されている.その文書は,1997年秋,閣僚会議により承認され,ベルホーブナ・ラーダでの採択を待って,チェルノブイリ法を見直すための基礎となるものである.

 2.放射線防護のためのウクライナの法制度は,国際的な安全基準に達する途上にある.しかしながら,チェルノブイリ事故のような(とくに長期的な観点からの)大規模な放射線被害を経験した例は世界にほかにない.ウクライナ国民の一部は永久的に汚染地域で暮らさねばならないという状況を考えるなら,放射能汚染は,“事故”というよりもはや自然放射線のような“環境的”事象と考えるべきであろう(人々は事故的状況のなかで永久に暮らすことは不可能である).こうした考え方の違いが,食品中の許容濃度の設定に関して,ウクライナのAL-97と国際的勧告値5の違いに現れている.

■文献

International basic safety standards for protection against ionizing radiation and for the safety of radiation sources. – Vienna : International Atomic Energy Agency, 1996. – (Safety series, №115. Safety standards). STI/PUB/996.
Matsko V. P., Imanaka T, “Legislation and Research Activity in Belarus about the Radiological Consequence3s of the Chernobyl Accident: Historical Review and Present Situation”, Journal of Health Physics, 32(1), 81-96 (1997).
Ryabtsev I. A., Imanaka T., “Legislation and Research Activity in Russia about the Radiological Consequences of the Chernobyl Accident”, Journal of Health Physics, 32(2), 211-225 (1997).
Ten years after the accident at the Chernobyl NPP: National report of Ukraine, MinChernobyl, 1996 (in Russian).
Derived intervention levels for radionuclides in food. Guidelines for application after widespread radioactive contamination resulting from a major radiation accident. World Health Organization. Geneva, 1988.

付録A チェルノブイリ問題に関する主な研究機関の概要

A.1 ウクライナ医学アカデミー・放射線医学科学センター

 放射線医学科学センター(SCRM, Scientific Center for Radiation Medicine)は,ウクライナ医学アカデミーとウクライナ保健省の下にあり,チェルノブイリ事故の医学的問題に関する中心的な研究所である.

 1995年1月1日現在,センターのスタッフ数は1254人で,そのうち研究者は236人(博士30人,博士候補90人)である.

 SCRMはつぎの3つの研究所から構成されている.

 300床のベッドを有する放射線臨床研究所
X線関連疫学予防学研究所
実験放射能学・被曝登録外来診療所
SCRMが実施している基礎研究と応用研究の主なものはつぎの通り.

 チェルノブイリ事故にともなう放射線および非放射線的影響の評価,ならびに他の放射線源による人々への健康影響の評価
チェルノブイリ事故被災者および他の放射線被曝者の健康状態に関する調査
チェルノブイリ事故および他の放射線線源による被曝からの人々の防護に関する医学的対策の研究
チェルノブイリ事故被災者の国家登録データに関する科学的研究
放射線被曝にともなう健康影響のメカニズム,および予防,診断,療養・リハビリ方法の開発に関する研究
SCRM放射線衛生・線量研究部(I・カイロ博士)では,12州とキエフ市でのチェルノブイリ事故による甲状腺被曝量評価を行なった.7州とキエフ市に関するデータは,保健省により了承されたのち,「甲状腺線量パスポート」として政府に提出された.緊急事態省(MEA)はこの研究を支援しており,1999年末までに全ウクライナに関する“パスポート”が作成される予定である.

 同じ部(V・レーピン,V・チュマク,V・ベルコフスキー,O・ボンダレンコ博士ら)において,チェルノブイリ事故直後の外部被曝と内部被曝の評価が,他の研究所と共同で行なわれている.この部の責任者はI・リフタリョフ教授である.

A.2 国立環境放射能地質化学科学センター

国立環境放射能地質化学科学センター(SSCER,State Scientific Center of environmental Radiogeochemistry)は,地質化学・鉱物学・鉱石研究所の2つの部局(環境地質化学部と金属製造学部)を基礎にして1996年に設立された.

センター設立の目的は以下の通りである.人工および自然放射能,また化学物質の環境中での挙動に関する研究,それらの研究に関するデータベースの構築,チェルノブイリ事故による特別規制ゾーンや他の人工,自然災害の影響をうけた地域の除染と復旧に関する研究,ウラン産業の開発・管理や深地層処分を含めた放射性廃棄物処理に関する研究である.

SSCERは以下の9つの研究部から構成されている.

地質化学・宇宙化学部(E・サバトービッチ)
放射能地質化学・環境部(G・ボンダレンコ)
環境地質部(V・ブハレフ)
人工地質化学部(B・ゴルリツキー)
宇宙環境・宇宙鉱物部(V・セメネンコ)
環境安全問題部(Ju・メリニク)
金属製造・鉱物資源部(Eu・クリシ)
ウラン・付随金属地質部(V・コバル)
ウラン鉱石関連問題部(B・ザンケビッチ)
研究所のスタッフは200人である.そのうち72人が研究者で,科学アカデミー会員1人,準会員3人,博士15人,博士候補47がいる.

主な研究テーマはつぎの通り

地球環境の形成に関する地質化学的基礎研究
汚染地域の環境安全と復旧
放射性および毒性廃棄物の(埋設を含む)処理・処分,管理
将来の環境予測
環境安全と緊急時に関する諸問題

A.3 チェルノブイリ科学技術国際研究センター

チェルノブイリ科学技術国際センター(ChSCIR, Chernobyl Scientific-Technical Center for International Research)は,科学企業体「プリピャチ」とチェルノブイリ国際研究センター(CheCIR)を母体として,1996年3月に設立された.CheCIRは,環境放射能に関する最新設備を有しており,1993-1995年にはCEC(ヨーロッパ委員会)とのECP-JSP共同研究プログラムに参加した.

ChSCIRの責任者はN・アルヒーポフ教授で,以下の7つの研究部を率いている.

研究組織統括部(A・マフノ)
放射能移行研究部(V・ナドボルスキー)
放射能・再耕作研究部(L・ロギノワ)
森林放射能生態学研究部(M・クチマ)
放射線生物・医学研究部(M・アレシナ)
国際分析研究部(V・リバン)
製造技術室(G・ミハイリュク)と実験農場(M・ノボパシェン)
ChSCIRのスタッフは159人で,うち専門家80名,博士4人,博士候補15人である.

主な研究テーマは以下の通り.

汚染地域での放射能モニタリングの実施とその手法の開発
環境および食物連鎖における放射能の移行,分布に関する分析と予測
地質化学および水理地質学的観測に基づく特別規制ゾーンでの放射能地質化学状況の研究
チェルノブイリ事故による放射線生物・医学生物的影響の研究
森林生態系における放射能汚染とその森林系への影響の研究
土壌から植物,農産物への放射能移行低減,ならびに汚染農地復旧のための対策の開発,試験,調査
(当初の放射性降下物を含め)放射能とその化合物の移行,性状変化に対する微生物薬剤の効果に関する研究
地質地理学的情報のモデル化に関する開発と実施
特別規制ゾーンの生態学的および放射能生態学的状況の予測
研究情報の整理,基本的資料の標準化,研究情報データバンクの統一化,技術文書・会議文書等の標準化などなど
ChSCIRは,最新機器を備えた実験室とともに,チェルノブイリ原発周辺3~15kmに野外実験ステーションを抱え,土壌,水,生物のサンプリング経験を積んでいる.その実験室,飼育室,温室,野外ステーションはさまざまな放射線生物学,放射線生態学の研究に利用されている.スペクトル分析や放射能化学の実験室,野外実験フィールド,養魚場を備えた原発冷却池,2000匹のラットやマウスを収容できる飼育室などが,そこで放射線生態学や放射線生物学の実験を希望する研究者にオープンされている.

付録B ウクライナの研究者による興味深い論文リスト

Evtushenko?N.Yu., Kuzmenko M.I., Sirenko L.A. et al.; “Hydroecological Consequences of the Chernobyl NPP Accident”.(1992), Naukova Dumka, Kyiv (in Russian).
Romanenko V.D., Kuzmenko M.I, Evtushenko N.Yu. et al.; “Radioactive and Chemical Pollution of Dnieper River and Its Reservoirs after the Chernobyl NPP Accident” (1992), Naukova Dumka, Kyiv (in Russian).
Romodanov A.P ed.; “Post-Accidental Encephalopathy: Experimental Studies and Clinical Observations” (1993), Ukr SRI Neurosurgery (in Ukrainian).
Serkiz Ya.I., Pinchuk V.G., Pinchuk L.B. et al.; “Radiobiological Aspects of Chernobyl NPP Accident” (1992), Naukova Dumka, Kyiv (in Russian).
Frantsevych L.I., Gaichenko V.A., Kryzhanovsky V.I.; “Animals in Radioactive Zone” (1991), Naukova Dumka, Kyiv (in Russian).
“Accident at Chernobyl NPP: Radiation Monitoring, Clinical Problems, Social-Psychological Aspects, Demographic Situation, Low Doses of Ionizing Radiation” (1992), Inform. Bull., Kyiv (in Russian).
“Medical Consequences of Chernobyl NPP Accident” (1991), Inform. Bull., Kyiv (in Russian).
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Health Ministry of UkrSSR, SCRM AMS USSR; “Problems of Radiation Medicine”, Repub. Cooper. Collect. Issue 2 (1989), Kyiv (in Russian).
“Actual Problems of Liquidation of Medical Consequences of Chernobyl NPP Accident: Collection” (1992), Kyiv (in Russian).
Kuchin O.V., Khalimonchuk V.A.; Neutron-Physical and Thermo-Physical Investigations on Unit 4 of ChNPP, Rep. NAS Ukraine (Doklady Akademii Nauk Ukraunskoi SSR), 1993, No.1. p.140. (in Russian)
“Chernobyl Accident: Events, Facts, Figures. April 1986 – March 1990” (1990), Civil Defense Headquarters of Ukrainian SSR, Kyiv (in Russian).
“Radiation Aspects of the Chernobyl Accident: Collection” Part 2 (1989), Kyiv (in Russian).
Dolin V.V., Bondarenko G.N., Sobotovich E.V.; Diffussional Mechanism of Migration of 137Cs and 90Sr of ChNPP Fuel Fall-outs, Doklady Akademii Nauk Ukraunskoi SSR Seria. B, 1992 No.12 p.6-10 (in Russian).
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Sobotovich E.V., Olkhovik Yu.A., Koromyslichenko T.I., Sokolik G.A.; Comparative Study of Migration Ability of Radionuclides in Bottom Sediments of Water-Bodies in Near Zone of ChNPP, Doklady Akademii Nauk Ukraunskoi SSR, 1990 No.8, p.12-18 (in Russian).
Sobotovich E.V., Chebanenko S.I.; Isotopic Composition of Uranium in Soils of Near Zone of ChNPP, Doklady Akademii Nauk SSSR, 1990 No.4, p.885-888 (in Russian).
Pinchuk L.B., Rodionova N.K., Serkiz Ya.I;. Changes of Hematological Indices, Frequency of Neoplasm Revealing and Lifetime of Experimental Animals During 6 Years after Chernobyl NPP Accident, Doklady Akademii Nauk Ukraunskoi SSR, 1993 No.1, p.148-153 (in Russian).
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