中間貯蔵施設容認

汚染土、搬入へ一歩 

福島知事、中間貯蔵施設を容認 要請から3年、動き出す

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 「ここに住み、育って100年の方もいる。今後の交渉の中で非常につらい、さびしい思いも出てくると思う」。30日、福島県の佐藤雄平知事は、建設受け入れに至った苦しい胸のうちを明らかにした。決断の裏で、県はこれまで政府と大熊、双葉両町との間に挟まれ、厳しい立場にあった。

 「やあ偶然ですね。別の仕事がたまたまあって」
8月上旬、福島県会津若松市の居酒屋。視察にきた小泉進次郎復興政務官をねぎらう大熊町幹部に、予告なく入ってきた長身の男性が声をかけた。政府との交渉の陣頭指揮をとる福島県の内堀雅雄副知事だった。町幹部の隣に座ると「いざとなれば県が差額を負担しますから」と耳打ちした。

 内堀氏が示唆したのは、政府との交渉で最後の焦点となっていた、用地の地権者からの買い取り価格だ。原発事故前の価格を求める地権者に対し、政府は大幅に下落した現在の評価額による買い取りを譲らず、交渉は平行線をたどっていた。この差額を県が埋めてもいいというのだ。「これならいけるかも」。町幹部は手応えを感じた。
県と2町は「一枚岩」で政府に臨んでいた。だが、関係者によると、6月ごろから県は中間貯蔵と直接関係のないお金まで政府に要求し始めたという。新たな風評被害への対策など、収束しない原発事故によるトラブルや復興ニーズへの対応を迫られた時に使える資金を確保したいためだ。

 県はこの要求を2町に相談なく政府との交渉に持ち出したため、2町は「スタンドプレーだ」と反発。政府からも「できれば2町と直接交渉したい」と嘆く声が上がり、交渉は足踏み状態が続いた。

 これに対し、2町以外の県内自治体からは「施設を造り、搬入を進めないと大変な問題になる」(同県泉崎村の久保木正大村長)など、早期建設を求める声も強まり、県が自腹を切って交渉にめどをつけざるを得なくなった。
施設の受け入れ容認を、住民はどう受け止めたのか。地権者の間には「仕方がない」という声が多い。大熊町から会津若松市に避難中の根本友子さん(67)は「復興には必要な施設。他に持って行く所がないのは事実だから……」。
一方で、双葉町の遠藤浩幸さん(48)は「政府と地権者の信頼関係がない状態で、なぜ県が勝手に受け入れるのか」と憤る。(根岸拓朗、伊藤嘉孝)

■用地交渉や輸送が課題

 国側を次に待ち受けるのは、用地交渉や輸送といった問題だ。
16平方キロの候補地には、2千人以上の地権者がいるとされる。政府は双葉、大熊両町の協力を得て、来月にも地権者向け説明会を開く。環境省幹部は「『土地を使わせない』と言う方もいて、一筋縄ではいかないだろう」と身構える。
地元には何代も前の所有者の名義のままだったり、相続人が行方不明だったりする土地が多い。交渉する地権者の特定にも時間がかかりそうだ。
運び込む福島県内で出た除染廃棄物は、燃やして分量を減らしても、最大で東京ドーム18倍にあたる2200万立方メートルに上るとされる。これらが、100キロ程度離れた会津地方も含めて県内の43市町村から集まってくる。環境省の試算では、3年間で運び終えるとすると10トンダンプカーが1日約2千台分必要という。今後、輸送の考え方をまとめた基本計画や具体的な搬入路を示す実施計画をまとめなければならない。周辺市町村と協議も必要だ。
来年1月までに汚染土を運び込み始めたい考えだが、「大変厳しい日程」(石原伸晃環境相)と認める。「早く搬入目標を撤回する方がいい」(復興庁幹部)という声もある。最後に残る大きな課題は、汚染物の最終処分だ。
政府は、どのように実現するかについては、汚染土の中から放射能を分離して、大部分を土木資材として再利用、最終処分量を少なくした上で処分地を探す「八つのステップ」を示している。だが、汚染土から放射能を分離する技術が進むという将来への期待が前提で、どう候補地を見つけるかの見通しはない。福島県外で最終処分を受け入れる場所が見つかるのか、疑問視する声は根強い。(奥村輝、中村信義)

◆キーワード

<中間貯蔵施設>

 福島県内の除染で出た汚染土や高い放射能濃度の焼却灰などを最長30年間保管する施設。敷地内には、廃棄物を分別したり、焼却して体積を減らしたりする施設もできる。建設費用は1兆1千億円程度。今年度予算には、用地の買収や施設整備のための事業費1012億円が計上された。
福島県外の除染などで出た廃棄物は、国が各都県内で最終処分する。特に量が多い宮城、栃木、群馬、茨城、千葉の5県では国がそれぞれ1カ所処分場を新設する方針で、候補地の選定が進む。