県外最終処分もあて無し

地権者2000人、交渉これから 中間貯蔵、課題は山積 県外最終処分もあて無し

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福島県内の除染で出た汚染土などの搬入を地元が認めたことで、中間貯蔵施設の計画がついに動き出すことになった。ただ、2千人を超える地権者との交渉は進んでおらず、放射線量が高い場所での建設作業も待ち受ける。将来の県外最終処分の約束については、果たせるあてがない。

 政府が3月11日までの開始を掲げた中間貯蔵施設への搬入は、3月1日の常磐道全線開通と合わせ、政府が安倍晋三首相の現地視察まで検討した「復旧・復興の象徴の一つ」(環境省幹部)だ。しかし搬入開始後も、難題が横たわる。

 まず進めなければならないのは、用地の確保だ。

 東京都渋谷区の広さに匹敵する予定地の地権者の数を、環境省は登記簿調査で2365人と見積もる。

 昨年10月に始めた地権者との交渉は難航している。最初に手を付けたのは、2町にそれぞれある工業団地の企業の土地。ただ、売却意向を示す企業全社の土地を足しても予定地全体の広さの2%にしかならない。

 団地のある企業の担当者は「買収額を算定するだけで1年近くかかると政府に言われた」と明かす。契約はさらにその後になる見通しだ。環境省幹部は「1件の契約を結ぶのにも相当の時間がかかる。途方もない作業だ」と漏らす。

 土地への思い入れが強い個人の地権者との交渉はさらに難しそうだ。家族との思い出のある土地を「売るとか貸すとか考えられない」との思いを抱える人もいる。交渉に応じる地権者にも「買収額への不満や国への不信など、納得してもらうための壁は多い」(同省幹部)のが現実だ。

 福島県と2町の求めで法制化された、搬入した汚染土を県外で最終処分するための土地の選定は、困難を極める。「政府を挙げて全力で取り組む」「全国民の理解を図りたい」(望月義夫環境相)以上のことは、何も決まっていない。

 環境省は、保管期限の30年後には汚染土の放射能濃度が現在の約4割まで自然減衰し、土木資材などに再利用できるため、最終処分が必要な量は多くないと説明する。しかし、30年後も減容化などにより高濃度の放射能汚染土は残る。省内には「搬入作業が落ち着き始めたら、表面化してくるはずだ」との緊張感が漂っている。

■なお高線量、防護服で工事

 2月中旬、大熊町の施設建設予定地に、記者が入った。丘と谷が入り組んだ地形が広がる予定地の南端には川が流れ、ハクチョウが羽を休める。事故前と変わらないと思われる光景もあった。

 住民は避難し、生活音は何ひとつ聞こえない。小高い土地に立つと、たくさんのクレーンが見える。廃炉作業が続く第一原発だ。

 中間貯蔵施設は約16平方キロメートルを使い、県内の除染で出た汚染土や高濃度の放射能で汚染された廃棄物を最大で2200万立方メートル保管する。東京ドーム18杯分にも及ぶ量だ。

 今後、汚染土を入れるダムのような施設や、廃棄物を入れる倉庫のような施設を整備していく。廃棄物の体積を減らす焼却炉や処理施設、廃棄物リサイクルの研究施設などもつくる。

 川から車で北に5分ほど、せわしなくショベルカーが動く一角があった。原発の南に広がる大熊東工業団地。汚染土などを一時的に置く「保管場」の工事が始まったところだ。

 団地前の道路では、線量計は毎時16・5マイクロシーベルトの放射線量を示した。町内で除染が終わった場所の平均値の14倍以上だ。マスクをした白い防護服の作業員たちが、土を黒い袋に詰め込んでいく。

 工事では、まず除染をして周辺の線量を下げてから、建設作業にかかる。

 後で話を聴いた工事の関係者は「作業員の被曝(ひばく)を管理しながらの仕事は、普通の工事ほどスムーズには進められない」と漏らした。

 (根岸拓朗、伊藤嘉孝、奥村輝)

■福島知事「復興のため容認」

 「一日も早い環境回復と復興のため、受け入れを容認することとします」

 25日夜、福島県の内堀雅雄知事はそう述べて施設への汚染土搬入を容認した。大熊町の渡辺利綱町長は「苦渋の決断だがやむを得ない」、双葉町の伊沢史朗町長は「地元の感情を逆なでする強引な進め方をしないでほしい」と政府側にクギを刺した。

 望月義夫環境相が「重い決断に心から敬意を表する」と応じた後、安全協定の文書がそれぞれに配られ、協定は結ばれた。

 その後、2町長は望月環境相に対し、政府が搬入開始の目標とする3月11日までの搬入を見送るよう求めた。伊沢町長は「県全体にとって鎮魂の日であり、11日以降の搬入をお願いしたい」などと述べた。

■中間貯蔵施設をめぐる交渉の経緯

<2011年>

 8月 菅直人首相が福島県内につくる必要性を表明

<12年>

 3月 環境省が双葉、大熊、楢葉の3町に分散設置を提案

<13年>

12月 石原伸晃環境相が建設受け入れ要請

<14年>

 2月 県が楢葉町を候補地から外すよう政府に要望

 3月 環境省と復興庁が、大熊、双葉2町に集約する案を容認

 4月 環境省と復興庁が、自由度の高い交付金の創設案などを示し、住民説明会の開催受け入れを求める

 6月 石原環境相が「最後は金目(かねめ)でしょ」と発言。1週間後に謝罪

 9月 佐藤雄平知事が建設容認を国に伝達。汚染土搬入にあたっての5条件を示す

11月 汚染土を搬入開始から30年以内に県外に持ち出して最終処分することを定めた法律が成立

<15年>

1月16日 望月義夫環境相が1月中としていた政府の搬入開始目標断念を発表。「3月11日までに」の新目標を示す

2月3日 大熊、双葉の両町内で、施設の一部にあたる汚染土の保管場着工

2月8日 望月環境相と竹下亘復興相が内堀雅雄知事に5条件への考え方を示し、搬入容認を要請