フクシマ原発事故避難計画

■原発事故時、国指示待たず避難 浪江町や南相馬町が計画
関根慎一、石川智也

 東京電力福島第一原発事故で全住民が避難している福島県浪江町は、再び事故が起きた場合、国が定めた避難指示を出す放射線量の値より低くても町の判断で避難指示できるとする避難計画案をまとめた。隣接する南相馬市も国の避難指示前に避難指示を出せる計画を作った。福島県も両自治体の意向を尊重する。国の指針通りの計画ではうまく避難できない可能性があると判断した。

■南相馬市地域防災計画 原子力災害対策編(素案)・原子力災害避難計画(素案) 

本市全域が避難指示対象となった場合の広域避難計画については、平成 25 年 3 月の県防災計画の改定において、県が広域避難計画を作成することとしているが、 現在のところ平成 26 年 2 月を目途としていることから、本市にあっては、先行して 東日本大震災による避難状況や災害時相互応援協定等に基づき、定めるものである。 このことから、本計画については、毎年検討を加え、「対策指針」、「県防災計画(広 域避難計画の作成含む)」等の見直し、又は市の体制、組織等の見直し等により修正の 必要があると認める場合には、適宜これを見直しするものとする。

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 福島の事故後、国は原子力災害対策指針を改定。福島第一、第二原発を含む各原発30キロ圏にある135市町村に対し、指針に基づいて新たに避難計画を作るよう求めた。

 指針は、原発で大事故が起きた場合の対応として、5キロ圏はすぐに避難する一方、浪江町のような5~30キロ圏は、まず屋内退避する。毎時500マイクロシーベルトに達したら数時間以内に避難し、毎時20マイクロシーベルトでも1日以上続いた場合は1週間以内に避難することを求めている。高齢者らは避難する方が体の負担になると考えるほか、原発により近い住民を早く逃がすため交通渋滞を防ぐ狙いがある。毎時500マイクロシーベルトは、事故時に福島第一原発5キロ圏外では計測されていないほど高い値。

 浪江町は、福島第一、第二原発の使用済み燃料の冷却が災害やテロでできなくなるなど、実際に事故が起きればこの値に達する前に住民が避難し始めて混乱すると考えた。町が責任を持って避難場所や手段を確保するため独自に避難指示を出せるようにする。

 実際、福島の事故では国からの情報提供が遅れ、事態の悪化に対応が追い付かず、避難は混乱した。

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 南相馬市も2013年12月に作った避難計画で、国の指示を待たずに市長が避難指示を出せると定めた。福島の事故で屋内退避指示が出た同市では、物流が途絶え食料などが不足し、約7万人のうち5万5千人が自主避難した。

 ログイン前の続き福島県は今月、県地域防災計画を改定し、被曝(ひばく)対策を「市町村の意向に配慮し実施する」とした。原発事故が起きた場合、国が市町村に住民避難を指示するのが基本だが、法律上は市町村長も独自の判断で避難指示を出せる。福島の事故でも、複数の自治体が独自に避難を指示した。

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 一方、原子力規制庁は「被曝のリスクが高い、原発により近い住民に安全に避難してもらう必要がある」とし、5キロ圏外の住民を国の指示前に避難させることには否定的な考えだ。

 広瀬弘忠東京女子大名誉教授

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(災害・リスク学・東京大学文学部心理学科卒。同大学院博士課程中退。文学博士(東京大学)。東京大学助手を経て東京女子大学文理学部助教授、教授。同大学を定年で2011年3月末退職(東京女子大学名誉教授)。フルブライト上級研究員、日本リスク研究学会学長等を経て、現在はJournal of Risk Research(Associate Editor)International Committee on Disaster(Board Member)、東京女子大学名誉教授、東京女子大学評議員、日本リスク研究学会名誉会員、京都大学防災研究所巨大災害研究センター運営協議委員、㈱安全・安心研究センター・代表取締役。)

は「国の考える段階的な避難は難しい。政府は30キロ圏の住民もすぐに避難できるように避難路の整備や避難先の確保を進めるべきだ」とする。(関根慎一、石川智也)

■記者の視点 現実に即した計画づくりを

 避難計画づくりのための国の指針に対し、福島県内の自治体から重い課題が突きつけられている。国は真摯(しんし)に向き合う必要がある。

 国の指針は国際機関の科学的基準を参考に住民の被曝(ひばく)のリスクを最小限に抑え、地域全体がスムーズに避難を進めるために設計された。そのために、原発から5~30キロ圏にはまず屋内退避を求める。だが、「避難しようとする人々の行動を抑えるのは無理」(広瀬弘忠・東京女子大名誉教授)との指摘は根強い。

 原発立地とその周辺の自治体も、避難先や移動手段の確保など、実効性のある避難計画作りに頭を悩ませている。住民からも不安の声が上がる。そうした中で、原発の再稼働が進んでいる。福島の事故の経験をさらに検証し、より現実に即した避難計画づくりを進めていくべきだ。(関根慎一)

■福島県・原子力安全対策課ホームページの「地域防災計画 原子力災害対策編(平成25年度修正


■資料

 国が2月19日、南相馬市小高区などの居住制限、避難指示解除準備両区域の4月解除方針を示した同市議会全員協議会。出席議員からは国の解除方針の実効性に疑問や批判の声が相次いだ。

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 復興庁は19日、東京電力福島第1原発事故で避難指示が出された川内村、飯舘村、双葉町を対象にした住民意向調査の結果を発表した。調査は川内村は全1294世帯、飯舘村は全2970世帯、双葉町は全3377世帯を対象に昨年12月7~28日に実施した。

 【川内村】避難者のうち、今後の生活の場を「村内」とした帰還希望者は42.7%で、前回調査を2.8ポイント下回った。一方で「村外」は21.2%で、特に30代以下の若い世代は「村外」が5割を超えた。現在の居住場所については、「震災発生当時の住居」が46.6%で、「震災発生当時の住居以外」は26.6%だった。

 避難者に複数回答で聞いた帰還しない理由は「住宅周辺の放射線量の高さ」が40.7%と最多だった。

 【飯舘村】避難指示解除後の帰還の意向については「戻りたいと考えている」は32.8%で最も割合が大きく、2015(平成27)年1月の前回調査よりも3.4ポイント増加した。

 また、「戻らないと決めている」は31.3%(前回比4.7ポイント増)、「まだ判断がつかない」は24.0%(前回比8.5ポイント減)だった。「戻りたい」と「戻らない」と回答した人の割合がともに増加した。震災から約5年が経過し、帰還に対する考えを固める人が増えている状況が浮き彫りとなった。

 「戻らない」と回答した理由で多かったのは「避難先の方が生活利便性が高い」(57.1%)、次いで「医療環境に不安がある」(52.4%)、「宅地・農地以外の山林や河川等の除染がまだだから」(51.2%)など。

 【双葉町】双葉町は避難指示解除後の帰還の意向について、「戻りたいと考えている(将来的な希望も含む)」が2014(平成26)年9~10月の前回調査時から1ポイント増の13.3%だった。ただ、「戻らないと決めている」が同0.7ポイント減の55%と前回調査とほぼ同じで、回答者の半数が帰町しない考えは変わらないままだ。「まだ判断がつかない」は同7.2ポイント減の20.7%だった。

 一方、帰還の意思を示している回答者のうち、帰還まで待てる年数については、「帰れるまで待つ」が同4.1ポイント増の46.2%となり、帰還への思いを募らせる回答者がわずかに増えた。「3年以内」は同10.8ポイント減の11.2%、「5年以内」は同7.7ポイント増の26.9%、「10年以内」は同1.4ポイント減の10.3%だった。