ウクライナ原発も脱原発
ウクライナ、原発も脱ロシア 米から核燃料調達へ 保管でも協力
ウクライナでロシア製原発15基を運転する国営原子力会社「エネルゴアトム」の社長が朝日新聞のインタビューに応じ、米国企業製核燃料の利用を拡大し、ロシアの核燃料への依存を減らしていく戦略の詳細を説明した。ロシア側は「安全上問題がある」と反発。両国間のもう一つの火種となっている。
ウクライナの原発は、1986年にチェルノブイリ原発の4号炉が大事故を起こし、2000年までに全4基が閉鎖された。事故後いったんは原発の新規建設凍結を打ち出したウクライナだが、その後原発を積極利用する方針に転換。今では欧州最大のザポロジェ原発を含む4カ所で15基が稼働している。総発電量の50%近くを原子力に頼る原発大国となった。原子炉はすべてロシア製だ。
ロシアがウクライナ南部のクリミア半島を一方的に併合してから約1カ月後の今年4月11日。ウクライナ国営の原子力発電会社「エネルゴアトム」は、米ウェスチングハウス社から2020年まで核燃料を購入する契約を結んだことを発表した。ロシア製の核燃料だけに依存し続けることは危険だと判断したためだ。
エネルゴアトムのネダシコフスキー社長は朝日新聞のインタビューに対して「契約は、核燃料を全てウェスチングハウス製に置き換えることもできる内容になっている」と明かした。
ただ当面は、ロシアの核燃料が引き続き主力を担う見通しだ。同じ原子炉内でロシア、米国双方の核燃料を同時に利用する計画だ。ネダシコフスキー氏は「それができて初めて、本当に『調達先の多様化』が実現したと言える」と強調する。
だがロシアからは、ロシアの原子炉は米国の核燃料を使うことを想定しておらず、危険だという批判が噴き出している。科学技術分野を専門とするグテネフ下院議員は「(燃料棒を束ねてつくる)燃料集合体の断面はロシア製は六角形で、米国製は四角形。燃料棒の間隔や温度、設計思想、すべてが異なっている」と指摘する。
一方、ウクライナ側は安全性に問題はないとの立場だ。05年以降、原子炉の一つを使い、ウェスチングハウス社製の核燃料を試験的に使ってきた実績がある。12年にはウェスチングハウス社製の燃料棒の一部に破損が見つかった。だがこれは、ロシア製と米国製という柔軟性や形状が異なる2種類の燃料集合体を同時に運ぶ際に接触したためで、問題は解決済みだと主張している。
米国製の核燃料を使った場合、使用済み核燃料をどうするかという問題も出てくる。現在は大部分の使用済み核燃料をロシアが引き取り、貯蔵や再処理を行っている。しかし、米国製の使用済み燃料をロシアが引き取ることはあり得ない。
ネダシコフスキー氏は「いずれは、全ての使用済み核燃料をウクライナ国内で保管するのが私たちの戦略だ」と説明する。チェルノブイリ原発周辺の立ち入り禁止区域に、米企業と協力して保管施設を建設する計画を進めている。さらに、仏アレバ社に使用済み核燃料の再処理を委託する計画も並行して検討しているという。ここでも「脱ロシア」一直線だ。
こうした状況に、ロシア国営原子力企業「ロスアトム」のキリエンコ社長は「ひとたび事故が起きれば、ウクライナが運転していることや、米国製の燃料のことは忘れられて、すべてロシア製原子炉のせいにされてしまう」と不安を隠さない。
相互不信は深まる一方。万一事故が起きたとき、両国が互いの非難に終始し、協力もおぼつかないのでは。そんな心配がぬぐえない。
■原発巡り軍事衝突の危険
ウクライナがロシア離れを模索してロシアが反発する構図は、天然ガスを巡る両国の対立に似ている。しかし原発は、両国の軍事的な対立を招きかねない危険をはらんでいる。
プーチン大統領は今年3月1日、ウクライナ国内にロシア軍を派遣することへの承認をロシア上院に求めた。このとき上院議長のマトビエンコ氏は「ウクライナには原発を含む、危険な設備が多くある。安全を確保する必要がある」と述べた。原発の安全確保は、ロシア軍をウクライナに侵入させる十分な理由になるという見解だ。
幸い、ウクライナで稼働中の4原発は、ウクライナ政府軍と親ロシア派の衝突が続いた東部のドネツク、ルガンスク両州には位置していない。
しかし、紛争が原発を巻き込んで広がり、ロシアが安全確保を名目に軍を派遣、ウクライナ側と衝突するというシナリオは、絵空事ではない。今回のウクライナ紛争は、原発が軍事衝突の舞台となる現実的な危険が迫ったケースと言えるかもしれない。
こうした状況の中、ウクライナは4月、北大西洋条約機構(NATO)の専門家を招き、原発を含む国内の重要施設の安全確保策について助言を仰いだ。
ウクライナのNATOへの接近を警戒するロシアは強く反発。ロゴジン副首相は「原発の安全確保は国際原子力機関(IAEA)の専管事項のはずだ」と牽制(けんせい)した。
しかしウクライナ側は「IAEAは原発への脅威に対抗する実力組織は持っていない」(ネダシコフスキー氏)と反論。今後も必要に応じてNATOと協力を進める構えだ。
(キエフ=駒木明義)
Top