核燃の村
核燃の村、揺るがぬ結束 村長選で原燃応援・教委行事に出資
2014年8月17日05時00
東京電力、東北電力から近く計2億円を受ける見込みの青森県六ケ所村。日本の原子力政策の中核となる村では、東電福島第一原発事故を経てもなお、電力会社との結びつきは揺るがない。▼1面参照
村長選が告示された6月17日。村で核燃料サイクル関連施設を運営する日本原燃の川井吉彦社長(70)=6月30日に退任=の姿が、村中心部の選挙事務所にあった。元副村長、戸田衛氏(67)の第一声の場だった。
「選挙はもう終わったようなもの。圧勝で終わりたい」。そんな声が出る会場に、村議18人全員が顔をそろえた。戸田氏は3期12年を務めた古川健治・前村長(80)の後継候補。ほかに3人が立候補したが、核燃サイクル推進姿勢は戸田氏だけだった。
■社員で1700票も
ある村議は選挙の数カ月前から、原燃の幹部と顔を合わせるたび、社員を選挙に行かせるよう頼んだ。「あまりにも当然だから戸田に入れてくれとは言わない。問題は投票率だけ。前の村長の票を下回ると示しがつかない」
この村議によると、原燃の社員で選挙権があるのは約1700人いる。村の有権者数は約8700人だ。
同村長選では毎回、核燃推進派と反対派が争ってきた。反対派との一騎打ちとなった前回2010年、古川氏は5106票を得た。
今回の投開票は6月22日。戸田氏は5144票、3候補は合計しても270票だった。村議は「まあまあだが、これくらいは当然」と言った。
■事故後もなお
電源三法交付金や原燃の固定資産税に加え、村には寄付金や負担金のかたちでも電力マネーが隅々まで行き渡ってきた。福島事故後もその一部が残る。
13年11月、村中心部にある文化交流プラザ。「夢と情熱」と題した俳優の講演会に、約260人が集まった。毎年秋に開かれる村民文化祭の一環のイベント。主催は村の教育委員会だ。
朝日新聞が入手した村の財務資料によると、この時の俳優の報酬は120万円。原燃が50万円を負担し、残りを村が出した。
村によると、講演会では120万円を上限に、原燃と村が講師の報酬を折半する「約束」ができている。契約書や覚書はない。いつごろ、どういう経緯で始まったのか、村教委の担当者は「分からない」と言う。
村では、様々な文化事業に三法交付金も充てられている。だが、この講演会は原燃から直接資金を受ける。担当者は「原燃から地域文化の向上に貢献したいと聞いており、協力を受けるのはおかしくない」と言う。
福島事故に伴う原発停止で電力会社の経営は悪化し、各社が出資する原燃にも影響が出た。そのため村は、11年の講演会は報酬が18万円で済む地元タレントに依頼し、12年は37万円の音楽家にした。だがそれも、13年には「事故から時間が経った」として120万円まで戻した。原燃が「約束」の半額60万円でないのは、「経営が苦しく、これからは上限を50万円にして」と原燃から頼まれたためという。
村は今年秋の講演会でも、原燃から50万円を受けることにしている。
慶応大の金子勝教授(経済学)は「再処理施設を抱える六ケ所は、電力マネーに頼ることに慣らされてしまっており、福島事故後も抜け出しにくいのだろう」と話す。(大谷聡)
<日本原燃報道部の話> 講演会の趣旨を理解し、少しでも六ケ所村の皆様の役に立てればと、95年から共催という形をとっている。相手方もあることなので、金額など詳細は差し控える。
■東電、東北電から六ケ所村への支払いの経緯
2008年5月 5年間に計10億円の支払いを口頭で合意
10年5月 最初の2億円支払い
11年3月 東電福島第一原発事故発生
5月 2回目の支払い、福島事故後初
12年5月 東電、実質国有化が決定
6月 3回目の支払い
9月 東電、電気料金を値上げ
13年8月 4回目の支払い、前年までより約3カ月遅れる
9月 東北電、電気料金を値上げ
14年8月 最終の支払い予定
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