司法、新基準ばっさり

■司法、新基準ばっさり 高浜原発差し止め、仮処分決定

■新規制基準にもとづく審査状況
福井地裁が14日に出した高浜原発3、4号機の再稼働差し止めを命じる仮処分決定は、再稼働の可否を判断する際の新規制基準を「合理性を欠く」と言い切った。着々と進められてきた原発再稼働に向けて大きな打撃となるのか。高浜原発の再稼働時期は見通せなくなった。

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■再稼働「人格権を侵害」

 「新規制基準の不備を突き、無効だと宣言した」。住民側弁護団の河合弘之弁護士は福井市内で記者会見し、今回の決定理由の波及効果について「日本中の再稼働がすべて禁止されたと言っていい」と評価した。

■決定は、新基準そのものを全面的に否定する内容となった。

 高浜原発3、4号機は2月、原子力規制委員会が安全対策の基本方針について新規制基準を満たす、と判断。最大の関門を突破し、審査は安全設計を記した「工事計画」と、運転マニュアルの「保安規定」を残すのみだ。

 しかし、決定は耐震設計のもとになる基準地震動の策定方法や、地震動引き上げに伴う耐震性の強化が行われていない点を問題視した。さらに、使用済み核燃料プールを堅固な施設で覆うことを規制の対象としておらず、事故時の対応拠点となる免震重要棟も猶予期間が設けられているとして、「規制方法に合理性がない」と批判。新基準を満たしても、安全ではないと否定した。

 今回審理した樋口英明裁判長は昨年5月、関西電力大飯原発3、4号機の運転差し止めを命じる判決を言い渡している。この大飯判決と今回の決定に通底している考えが、人格権だ。

 大飯判決では「具体的な危険性が万一にもあれば、人格権が侵害される」と指摘。今回の決定でも、この考えを踏襲したうえで、新基準に合理性がない以上、再稼働で人格権が侵害されると、結論づけている。

 さらに新基準について「福島の原発事故に実際に生じた事実を基礎に置く」と言及し、関電側の主張は「深刻な事故はめったに起きないだろうという見通しにすぎない」と切り捨てた。

 22日には、九州電力川内原発1、2号機の再稼働禁止をめぐる仮処分申し立てについて、鹿児島地裁が決定を出す。関電幹部は「高浜に続き、川内も負ければ業界全体の問題に発展する」と語る。

■規制委「審査に影響ない」

 「当事者ではないので、直接コメントする立場にない。審査への影響もない」。原子力規制委員会の米谷仁・総務課長は14日の定例会見で、再稼働に向けた審査などの手続きはそのまま進める考えを示した。

 高浜原発3、4号機の再稼働に向けた手続きは、設備などの認可と検査が残っている。差し止めの対象は電力会社による運転で、これらの手続きは別というのが規制委の立場だ。

 ただ、仮処分決定は、新基準そのものが「万が一」への備えが足りないと指摘した。その一つが、「基準地震動」の手法だ。

 活断層など周辺の特徴を調べて原発ごとに計算する基本的な方法は以前と変わらない。決定では、各地の原発で基準地震動を超える揺れが5回観測されたことや、地震の平均像をもとに計算することから「信頼に値する根拠は見いだせない」とした。

 これに対し、決定で発言が引用された入倉孝次郎・京都大名誉教授(強震動学)は「計算式は平均像をもとにしているが、基準地震動では最も影響の大きい条件をとっている」とし、事実誤認があると指摘する。「今の科学でこれ以上の決め方はないだろう。決定通りにすると、根拠なしに一律に決めることになる」

 決定は、設備の耐震性の基準や、複数の設備で事故を防ぐ「多重防護」の考え方にも注文をつけた。原子炉側に冷却水を送る主給水ポンプの耐震性の低さを問題視。このポンプで「冷却機能を維持するのが原子炉本来の姿」と指摘した。

 規制委は、耐震性が低いのは「放射性物質を含まない水を扱うポンプで、事故などの際は別の設備も使うため」と説明する。これに対し決定は、多重であっても第一陣は堅固であるべきだとの考えを示している。

■想定内の関電「覆せる」

 関西電力にとって、樋口裁判長の再稼働禁止を命じた仮処分決定は、いわば「想定内」だった。

 関電は今後、福井地裁に決定の異議を申し立て、認められなければ名古屋高裁金沢支部で争う。「事故のリスクがほぼゼロでなければ動かせない」という判断を受け入れれば、高浜だけでなく、すべての原発を動かせなくなってしまうからだ。「裁判官がかわる高裁なら覆せる」(幹部)というのが、関電の今の見立てだ。

 だが、11月を想定していた再稼働の時期は見通せなくなった。大震災前、発電量の5割を原発に頼っていた関電は2015年3月期決算で、4年連続の経常赤字を見込む。頼みの綱の高浜原発が動かなければ、業績回復は望めない。幹部は「決定を覆すのに半年かかるのか、1年か2年か。全く見通しがつかない」。

 政府は当面、静観する構えだ。菅義偉官房長官は14日の記者会見で、規制委の審査を通った原発は再稼働させるという従来の方針を強調。「仮処分の段階ですので、当事者がどうするのかを注視したい」として、当面は訴訟の行方を見守る考えを示した。経済産業省幹部は関電の想定と同じように上級審で決定を覆せるとみており「一喜一憂する必要はない」と語った。

■仮処分決定が指摘した基準地震動超えの例

 2005年8月 <宮城県沖の地震>女川原発(宮城)

   07年3月 <能登半島地震>志賀原発(石川)

   07年7月 <新潟県中越沖地震>柏崎刈羽原発(新潟)

   11年3月 <東日本大震災>福島第一原発(福島)、女川原発