原発差し止め
■大飯判決に共感 原発差し止め「事故なら国富の喪失」
首相官邸前で声を上げる参加者たち=23日午後7時29分、東京・永田町、福留庸友撮影
豊かな国土と、そこに根を下ろす国民の生活こそ国富――。関西電力大飯原発(福井県)の運転差し止めを命じた福井地裁の判決に、ネット上で共感が広がっている。脱原発を訴えるため首相官邸や国会の前に集まった人たちも歓迎、活気づいた。一方、「論理に欠陥がある」と指摘する人もいる。
■「いいね!」次々 「論理に欠陥」指摘も
ニュースサイト「NPJ」は判決当日の21日夕、判決要旨全文を公開した。サイト編集長の中川亮弁護士は「非常に美しい言葉で書かれており、全文を読んでほしかった」。22日にはアクセスが集中してサーバーがダウン。23日午後9時時点で、ツイッター投稿は約4800件、フェイスブックの「いいね!」は1万6千件に上っている。
特に反響が大きいのが、この一文だ。
「たとえ本件原発の運転停止によって多額の貿易赤字が出るとしても、これを国富の流出や喪失というべきではなく、豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失である」
経済か、生活か。生命か。安倍晋三首相をはじめ、政府は原発の代わりに火力発電所を動かすことで化石燃料費が増え、貿易赤字が拡大しているとして、原発再稼働の必要性を説く。
ツイッターでは「経済よりも生活に寄り添った論理展開がすてき」「やっぱそうだよね、と思える内容が司法の目で語られたのは心強かった」「こういう考えに基づいて、こういう結論を出せる人が、本当にかっこいい人」といった意見が相次ぐ。
「判決文とは思えない感情的な内容」など否定的なものもあるが、大半が評価する投稿だ。判決要旨全文を掲載した他のサイトでも同じ傾向だった。NPJの中川編集長は「国土やそこで生きる人々の生活を大事にするという、素朴な原点を指摘したことが、人々の感動につながっている」と分析する。
岐阜県の自営業・小栗みのりさん(32)はツイッターで「政治不信でニュース見ないようにしてたけど、やっと安心して読めるニュースに出会った」と投稿。「『やっぱり人の命が一番大事だよね』と良い影響が広がってほしい」と話す。
北海道教育大の畠山大准教授(応用経済学)はツイッターで「法律屋さんに先に書かれたのが口惜しい。経済学者が先に書かなければならなかった」と投稿。「そもそも経済か生活かの二項対立がおかしい。震災後の価値観にあった経済学をいまだ作れていない」と自戒を込めて語った。
一方、シンクタンク「21世紀政策研究所」の澤昭裕研究主幹はツイッターで判決への疑問を投稿。取材に「論理に欠陥があり、司法のプロとしての質を問う評価もなければならない」と指摘した。(原田朱美)
■官邸前抗議、再び沸く
首相官邸前の抗議行動は23日で103回目。福井地裁判決に心を動かされ、初めて駆けつけた人や久しぶりに戻ってきた人もいた。
21日に福井地裁で勝訴を勝ち取った原告団も福井から駆けつけ、「再稼働、反対」と声を合わせた。
川崎市の非常勤保育士鈴木悦子さん(60)は初めて参加した。「『国富』とは何か、という部分がよかった。司法は生きてると感じた」。福井地裁の判決が各地に波及するよう願う。
神奈川県鎌倉市の嘱託団体職員島村輝夫さん(67)は数カ月ぶりに参加。「命が大切という当たり前のことを判決が言ってくれた。うれしくて来た」。昨夏、孫が生まれた。「二度と原発事故を起こしてはいけない」と話す。
千葉県我孫子市の主婦本田幸世さん(70)も畑仕事を休んで1年ぶりに駆けつけた。「福井県民や原告団が地道に行動した結果。一人一人の行動が大切と感じた。人格権より価値のあるものはないと言ってくれた判決に感謝しています」
東京都足立区の会社員金子佳史さん(41)も1カ月ぶりに戻ってきた。判決への感激もつかの間、菅義偉官房長官が「政府方針は全く変わりません」と述べたことに憤りを覚え、官邸に声を届けようと思った。「これからはまた、できる限り駆けつけたい」
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