川内の仮処分 専門知に委ねていいか
■川内の仮処分 専門知に委ねていいか
福島第一原発の事故後、新たに設けられた原子力規制委員会の規制基準について、まったく異なる二つの判断が司法から示された。
きのう、九州電力川内原発1、2号機の再稼働をめぐって、運転差し止めの仮処分を求めた住民の申し立てを鹿児島地裁は退けた。14日には、福井地裁は関西電力高浜原発3、4号機の運転を差し止める仮処分を決めた。
判断を分けたのは、規制基準を含む規制委の審査に対する見方である。
福井地裁は、安全対策の柱となる「基準地震動」を超える地震が05年以降、四つの原発で5回起きた事実を重く見たうえで、規制基準について「これに適合しても原発の安全性は確保されない」と判断した。
一方、鹿児島地裁は、地域的な特性を考慮して基準地震動を策定していることから「基準地震動超過地震の存在が規制基準の不合理性を直ちに基礎付けるものではない」とし、規制基準は「最新の科学的知見に照らしても、不合理な点は認められない」と結論づけた。
鹿児島地裁の判断は、従来の最高裁判決を踏襲している。行政について、専門的な知識をもつ人たちが十分に審議した過程を重視し、見過ごせない落ち度がない限り、司法はあえて踏み込まない、という考え方だ。
だが、福島での事故は、専門家に安全を委ねる中で起きた。ひとたび過酷事故が起きれば深刻な放射線漏れが起きて、周辺住民の生活を直撃し、収束のめどが立たない事態が続く。
原発の運転は、二度と過酷事故を起こさないことが原点である。過去、基準地震動を超える地震が5回起きた事実は重い。「想定外」に備えるためにも、厳しい規制基準を構えるべきである。特に、原発の運転には、国民の理解が不可欠であることを考えれば、規制基準についても、国民の納得がいる。これらの点を踏まえれば、福井地裁判断に説得力がある。
鹿児島地裁は「地震や火山活動等の自然現象も十分に解明されているものではない」「今後、原子炉施設について更に厳しい安全性を求めるという社会的合意が形成されたと認められる場合、そうした安全性のレベルを基に判断すべきことになる」とも述べている。
世論調査では依然として原発再稼働に厳しい視線が注がれている。政府も電力会社も鹿児島地裁の決定を受けて「これでお墨付きを得た」と受けとめるべきではない。
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