東京電力福島第一原発の事故によって東日本に降り注いだ放射能。汚染された土壌や稲わらなど、除染作業で発生した廃棄物(ゴミ)の量は全国でおよそ3000万トンを超えると国は推計してきた。ところが、どこに、どのような状態で置かれているのか、全体像はこれまではっきりしてこなかった。それが今回、NHKの独自調査と自治体へのアンケートにより初めて明らかになった。避難先から住民の帰還を進める福島の町村では、復興とともに大量の土のゴミが発生し、住宅の周りに積み上げられている。さらに東北や関東の広い地域でも、低レベルの汚染廃棄物が空き地や学校の近くに置かれたままになっていることが分かった。こうしたゴミのほとんどが最終的な処分場所が決まらない「仮置き」の状態。法律では各県ごとに処分場を決めることになっているが、いずれも住民の激しい反対によって決まらず、ゴミは宙に浮いた状態が続いている。
圧倒的な量の放射能のゴミと、私たちはどう向き合えばいいのか。各地の現状と対策の取り組みを報告する。
2015年11月21日(土) 午後9時00分~9時49分
今回の取材の初期に、制作者間で議論したことがありました。放射性物質が付着した土や草木、汚泥などの汚染物を何と総称するかです。元々は、全て自然やリサイクルの輪の中で循環していたものでした。不要なものや、価値のないものを意味する“ゴミ”。この言葉を使ってよいものかどうか。とりわけ、農家の人々が手塩にかけて育ててきた土をゴミと呼ぶことには大きな葛藤がありました。それでも目の前には、行き場のない土が積み上がっている現実があります。命の源を不要物に変えてしまった原発事故。その事実を直視するために、“ゴミ”という言葉を使うことを決めました。
「想定外」の事故の結果の「想定外」の未知なるゴミ。取材を続けるなかで実感されたのは、この問題の専門家がいないということでした。法律、技術、あらゆる面で空白地帯にあり、誰も簡単に解決策を示してはくれません。
しかし逆に考えれば、今後の処分の在り方は、広く国民に委ねられていると捉えることもできます。ヨソへの押し付けや、次世代への先送りをしないためにはどうすればよいのか。始まったばかりの議論を深めるための報道を、担っていきたいと考えています。
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