国の避難指針

■(東日本大震災5年)国の避難指針「非現実的」 浪江町「原発事故の教訓、町が責任」

 東京電力福島第一原発事故後に国が定めた住民の避難の指針をめぐり、原発事故を経験した自治体から異論が出ている。国は科学的根拠と地域全体の整合性を重視するが、自治体からは「非現実的だ」との声が上がる

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 国の避難指示が出る前に住民避難指示を出すことを検討している福島県浪江町。避難計画を作るログイン前の続きうえで重視したのは、原発事故の教訓だった。

 政府は事故が悪化する状況に追われるように避難指示を段階的に拡大。だが当時、国は避難計画を作ることを市町村に求めておらず、浪江町にもなかった。また、国や東電から避難指示の連絡は届かなかった。このため、町は独自の判断で住民を避難させざるを得なかった。だが、道路は大渋滞し、避難所に住民が押し寄せ収容しきれなかった。

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 国は福島の事故をふまえ、市町村に避難計画を作ることを求め、指針を示した。これを受け、町は昨春から、実際に避難した経験をふまえた避難計画作りを始めた。その際、議論となったのが、原発から5~30キロ圏の住民をすぐに避難させる基準「毎時500マイクロシーベルト」の扱いだった。指針では、毎時20マイクロシーベルトが1日続いた場合も一時避難させるが、避難を始めるのは「1週間程度以内」と定められている。

 原子力規制庁によると、福島の事故の際、浪江町も含めて5キロ圏外で毎時500マイクロシーベルトに達した観測地点はない。町は再び事故が起きれば、この値に達する前に住民がめいめい避難し、混乱すると考えた。馬場有町長は「避難は理路整然とはいかない。福島のような事故が起きたらパニックになる」と述べ、町が避難指示を出して責任を持って住民を避難させるべきだとの考えを示した。

 町の避難計画作りに助言している関谷直也・東京大大学院特任准教授は「国の指針は、福島の教訓を十分反映していない。福島でも屋内退避の実施率は4割だ。事故時の状況を踏まえて指針を作るべきだ」と指摘する。

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■国「5キロ圏避難の妨げ」

 これに対し、原子力規制庁原子力災害対策・核物質防護課は「福島の事故では、必要のない人まで避難し被害を広げた面がある。国の基準は、被曝(ひばく)のリスクを最小限に減らすためのものだ」と指針の根拠を説明する。さらに、原発事故で即時避難する5キロ圏の住民の避難の妨げになるとして、独自の先行避難は「肯定できない」という。

 ただ、福島の事故では屋内退避が長引き、物資が途絶えたために、多くの人が避難を余儀なくされた。南相馬市はそうした経験から、国の指示を待たずに市が避難指示を出せるようにした放射線量が高くなった屋内退避地域への支援物資の運搬は未定の部分が多く、原子力規制庁も「今後検討が必要だ」と認める

 避難計画の策定が義務付けられた原発から30キロ圏の市町村は全国に135あるが、作り終えたのは96市町村30キロ圏に100万人近い人口を抱える茨城県静岡県の自治体は住民の避難先の受け入れ先確保が難航し策定できていない。茨城県内の自治体担当者は「国の指針は机上の空論。真剣に作ろうとするほど無理が生じる」という。

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 茨城県ひたちなか市は、甲状腺被曝を防ぐ安定ヨウ素剤を5~30キロ圏の住民に事前配布する方針だ。国の指針では事前配布は5キロ圏のみで、5~30キロ圏には事故後に配る原則となっている。同市の担当者は「対象は15万人近くおり、事故後の混乱時に配るのは難しい」と話す。

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 新潟県の泉田裕彦知事は「一律に決めても、絵に描いた餅になる。地形や道路状況などは自治体にしかわからない。国が情報をきちんと出し、県が助言しながら市町村が住民避難を判断する仕組みを考えるべきだ」と指摘する。(石川智也、関根慎一)