これらの研究書にくわえ,一九九八年,アメリカの歴史学者ヒレル・レビンによる浩瀚な研究書(In Search of Sugihara, The Free Press, 1996)の翻訳が刊行された。諏訪澄・篠輝久監修訳の『千畝』(清水書院)である。同書は意欲作ではあるが,あまりにも誤記が多く,単なる史実の誤認にとどまらない大きな問題をはらんでいるように思われるので,その問題点を以下に具体的に指摘し,昨今の千畝をめぐる議論とその背景について検討してみたい。
なにしろ,「日本会議」といえば,最高幹部の小堀桂一郎(「つくる会」の著名会員)が,『マルコポーロ』誌事件で有名になったIHR(Institute for Historical Review)を「アメリカ国民の真面目で,公正で,良心的な側面」(『正論』一九九四年八月号)を表す研究所などとする,穏やかならざる団体である。「ガス室はなかった」とか「『アンネの日記』は作り話だ」などという下劣なデマゴギーを垂れ流す反ユダヤ主義団体を,小堀は,「歴史を事実に基づいて検証し直せ,との要請に発する地道な資料蒐集活動を続けている」と褒めそやす。