広隆寺の宝冠弥勒

広隆寺「宝冠弥勒」(国宝)

 中でも有名な京都府京都市太秦の広隆寺霊宝殿に安置されている 「宝冠弥勒」(国宝彫刻の部第一号)は、右手の薬指を頬にあてて物思いにふける姿で知られる。しかしこの像は、当時多くの仏像が楠で造られているのに対して赤松で造られているため、『日本書紀』記載の推古31年(623年)に新羅から伝来したものとする説が有力であった。ところが1968年、大きく抉られた内繰りの背板に楠材が使用され、背部の衣文もこれに彫刻されていることが判明し、断定できなくなっている。 この像の右の腰から下げられた綬帯(じゅたい)は、以前から楠木であることは知られていたが、これは後に付加したものとして考慮されていなかったが、二箇所の、特に背板に楠材が使用されていることは、楠が朝鮮半島南部に自生しているが、日本での使用例が多いため、日本で造像された可能性も出てきた。なお、制作時は漆で金箔を貼り付けた漆箔像であった。

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 ヤニが出にくい赤松が素材に使用されているため余分な清掃の必要がなく、清掃作業中の人的過失によって破損してしまうことがなかった。また赤松と楠という2つの材質の含水率の違いから熱伝導率に差が生じ、外部の温度が上昇すると接着部に水蒸気の層が発生する。これがバリアの役目を果たすため、高温や急激な温度変化に強い特徴をもつ。これらの理由によって現代まで良好な状態のまま保たれたと考えられている。

 弥勒菩薩の微笑みは「アルカイク・スマイル」として知られている。またその姿がオーギュスト・ロダンの考える人を想起させることから、「東洋の詩人(フランス語: Poète de l’Est)」との愛称をもつ。偶然ではあるが、最後の審判の話がミトラ教の影響で生まれたことを考えると、ここに不可思議な因縁を感じることができる。像高123.3cm(足元からの高さ、台座からは約147cm)

 弥勒菩薩像の由来

 広隆寺には「宝冠弥勒」「宝髻(ほうけい)弥勒」と通称する2体の弥勒菩薩半跏像があり、ともに国宝に指定されている。宝冠弥勒像は日本の古代の仏像としては他に例のないアカマツ材で、作風には朝鮮半島の新羅風が強いものである。一方の宝髻弥勒像は飛鳥時代の木彫像で一般に使われるクスノキ材である。

 前述のとおり、『書紀』に推古天皇11年(603年)、秦河勝が聖徳太子から仏像を賜ったことが記されているが、『書紀』には「尊仏像」とあるのみで「弥勒」とは記されておらず、この「尊仏像」が上記2体の弥勒菩薩像のいずれかに当たるという確証はない。

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 このほか、後の記録であるが、『広隆寺来由記』(明応8年・1499年成立)には推古天皇24年(616年)、坐高二尺の金銅救世観音像が新羅からもたらされ、当寺に納められたという記録がある。また、『書紀』には、推古天皇31年(623年、岩崎本では推古天皇30年とする)、新羅と任那の使いが来日し、将来した仏像を葛野秦寺(かどののはたでら)に安置したという記事があり、これらの仏像が上記2体の木造弥勒菩薩半跏像のいずれかに該当するとする説がある[2]。なお、広隆寺の本尊は平安遷都前後を境に弥勒菩薩から薬師如来に代わっており、縁起によれば延暦16年(797年)、山城国乙訓郡(おとくにのこおり)から向日明神(むこうみょうじん)由来の「霊験薬師仏壇像」を迎えて本尊としたという。現在、寺にある薬師如来立像(重要文化財、秘仏)は、弘仁9年(818年)の火災後の再興像と推定される。通常の薬師如来像とは異なり、吉祥天の姿に表された異形像である。

安置場所         広隆寺宝冠弥勒 中宮寺木造菩薩半跏像
顔の表現 アルカイックスマイ ル アルカイックスマイ ル
材  質 アカマツ材+クスノキ材 クスノキ材
彫刻構造 寄せ木造り 寄せ木造り
表面処理 漆泊仕上げ 漆彩色

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