■NHKスペシャル「映像の世紀」
『映像の世紀』は、放送70周年記念番組として1995(平成7)年度、11回にわたり放送されたNHKスペシャルの大型シリーズ。
世界各国から集めた膨大な記録フィルムをもとに再構成し、第1次世界大戦から、第2次世界大戦、東西冷戦からベトナム戦争、民族紛争へと続く、激動の20世紀の本質を描き出した。大きな反響を呼んだシリーズがどのようにして制作されたか、その舞台裏をご紹介する。
『映像の世紀』
世界中に埋もれている映像を探し出せ
フランスのリュミエール兄弟が最初の映画・シネマトグラフを公開したのが1895年。『映像の世紀』は、映画誕生100年にあたる1995年の放送をめざし、その5年前から制作スタッフが周到な準備作業と収集を進め、実現した番組だった。
企画の当初、こうした20世紀の記録について、世界各国の放送局と共同で番組を制作しようという案もあったが、調査を進めるうちに、それぞれの国が持つ歴史背景や思い入れにより、万国共通の番組作りは困難であるということが明らかになってきた。そこでアメリカの放送局ABCとの共同取材という形で、世界中の歴史的映像を協力して探し、その映像でそれぞれが独自の番組作りをするということになった。
NHKおよびABCが、それぞれの映像リサーチャーを通じて、世界各地にある資料館や公文書館、また個人のコレクターにまでアプローチし、200を超えるアーカイブとコンタクトをとった。この共同取材により、それぞれの持つルートだけではこれまで発掘できなかった貴重な映像を集めることができ、収集された映像は1万本を越えた。
■NHKに残るフィルム
実際に見なければわからない
映像の収集段階で困難を極めたのが、見つかった映像がどういった類のものなのかを確認する作業だった。実際の記録映像ではなく再現シーンや劇映画のワンカットであったり、当時の国家が国民向けに制作した国威高揚のためのプロパガンダ映像であったりと、必ずしも当時の事実を切り取ったものではないものが少なくなかったからだ。
また、映像が撮影された時期、場所が不明であったり、曖昧であったりするものも多かった。そのため、番組で取り上げる映像の選定には、根気のいる取材・確認作業が続いた。
再現ドラマやインタビューはやめる
こうした膨大な取材・確認の作業を繰り返した結果、制作すべき番組はひとつのコンセプトにたどり着いた。それは「映像がどのように20世紀を記録してきたか」ということに徹底的に絞るというものだった。
そのため、世界史に残る有名な出来事でも、映像で描けないものはテーマから落とした。さらに、再現ドラマをいれたり、存命の証言者に新たにインタビューをしたりという手法は採らなかった。
そのかわり、当時の人々が書き残した言葉を、ナレーションとともに映像に重ね合わせる手法を採用。さらに、事件や人物名といった文字キーワードをコラージュしたオープニングやインサートカットなど、あくまで歴史上の事実としての映像と文字だけで番組が構成されたことで、強い印象を残した。
■膨大な映像を再構成した全11集
■第1集「20世紀の幕開け」 1995年3月25日放送
19世紀末から第1次世界大戦が始まる1914年まで。帝政ロシア、オーストリア帝国ハプスブルク家、清王朝など、フィルムに残された王朝国家最後の姿を描く。
■第2集「大量殺戮の完成」 1995年4月15日放送
映像でその全貌が記録された初めての戦争、第1次世界大戦。機関銃、戦車、飛行船による空爆、化学兵器など、大量殺戮兵器の実態を、未公開映像を交えて描く。
第3集「それはマンハッタンから始まった」 1995年5月20日放送
1920年代のニューヨーク。第1次大戦後の戦争景気にわき、大衆文化が花開いたアメリカ社会“狂乱の20年代”が、1929年のウォール街株価大暴落で突如終焉するまでを描く。
第4集「ヒトラーの野望」 1995年6月15日放送
大恐慌が世界を襲った1930年代。なぜ、人々がヒトラーを支持したのか。ナチスが制作したプロパガンダ映像を通して、その実像に迫る。
第5集「世界は地獄を見た」 1995年7月15日放送
無差別爆撃、ホロコースト、そして原爆。市民が攻撃の対象になった第2次世界大戦の実像を、衝撃の映像でつづる。
第6集「独立の旗の下に」 1995年9月16日放送
列強による植民地支配を脱するため、挫折を繰り返しながら独立運動を繰り広げた毛沢東、ガンジーら指導者の苦悩の軌跡を半世紀にわたって描く、壮絶なアジア映像史。
第7集「勝者の世界分割」 1995年10月21日放送
戦後世界の枠組みを作ったルーズベルト、チャーチル、スターリンの米英ソ3巨頭によるヤルタ会談から、東西冷戦と続く時代を描く。
第8集「恐怖の中の平和」 1995年11月18日放送
東西冷戦下、核兵器開発競争による脅威が、1962年のキューバ危機で頂点に至るまでを、ソ連のフルシチョフ首相が失脚後に秘かに録音した「回想録」を軸に構成。
第9集「ベトナムの衝撃」 1995年12月16日放送
“自由と正義の国”アメリカの神話を崩壊させたベトナム戦争。テレビによって茶の間に本格的に伝えられた戦争の実像を描く。
第10集「民族の悲劇 果てしなく」 1996年1月20日放送
20世紀は“難民の世紀”でもある。ユダヤ難民、パレスチナ難民、インドシナ難民それぞれの悲劇、さらに冷戦終結後に再燃した民族紛争で新たに膨大な難民を生み出す悲劇を伝える。
第11集「JAPAN」 1996年2月24日放送
シリーズ最終回は、明治から、大正、昭和まで、海外のカメラマンが記録した日本の映像をもとに、世界が見つめた“JAPAN”を描く。