教育相談論-2
■教育相談論-2
▶️教育問題と教育相談
(不登校・登校拒否の諸問題に対してどのような教育相談の方法やシステムが有効か。これまでの行政対応にもふれながら論ずる)
1991年度学校基本調査から、文部省は不登校に該当する欠席数を50日から30日以上に変更したが、この年6万7千人だった。不登校児童総数は、8年後の1999年には、2倍の13万人、割合にして全児童生徒数のおよそ2.5%に達している。
学校に馴染めず学校不適応を起こす登校拒否現象は、一体どうとらえたらよいのだろうか。かろうじて登校はしているが、いつ登校拒否に陥るかわからない予備軍や「心理的欠席者」も含めれば、その数は、膨大なものになる。登校拒否問題は、これまで医学、心理学、教育学、社会学などの分野で論じられ研究も進められてきたが、解決されていない。
この問題を教育心理学の立場から論じてみたい。まず、登校拒否の原因の一つとして、家庭の病理や本人のパーソナリティの問題にある。急激な不登校の増加ぶりは、個人や家庭の病理では解決できない問題となっている。特定の型に納めたり、パターン化することは困難となっている。どの子にも起こりえる現象となってている。このことは、単に個々人病気として捉えるのではなく教育の病理がもたらす自己破壊からの危機回避行動として捉えられる。
登校拒否を教育の病理性との関連で捉えてみると、解決の糸口が見えてくるのではないか。「不登校」を従来の精神医学的枠組みの中だけで捉えていことに対して問題提起がなされ、現代社会の病理や教育の病理が重視されるようになり「不登校・登校拒否」という現象は、これまでの社会規範からの積極的離脱行動であり、子供にとって周囲の現実に対する「異議申し立て」という主体的行動と考えられる。
不登校によって、その子の抱える発達課題、家庭や学校の抱える問題点が見えてきたと捉えるべきではないか。つまり、家庭と学校それぞれが自らの課題として引き受けることが大切であると考える。このことは、学校の内側にある病理にも目を向けることの指摘でもあろう。
学校の病理の原因には、次の3点が考えられる。 1.学歴偏重の弊害 2.管理主義的教育の弊害 3.教師の非教育的行為による弊害 まず、一点目について、学歴至上主義による教育重視の傾向を生み、低年齢化している。 幼児期にまで教育過剰が見られることで、子供の自立性の発達が阻害されていることに気づかない親や教師にも要因があること。年々、塾通いをする児童の増加と共に、ドリル的学習の繰り返しで、学習本来のもっている学習の楽しさや「わかる・できる」喜びを味わえず学習意欲を減退させる実態も原因となっていると考える。さらに他人との学習の比較による自身喪失と子供の内的欲求による学習成立を困難にししていると永瀬純三は述べている。
二点目は、学歴主義を反映した偏差値教育、知育偏重教育を押し進める手段として浸透してきたことで、学校管理主義が強調される。学力優位とする価値観は、それに応じ切れない子供たちの反動として、非行・校内暴力・いじめなどの多くの問題行動が派生している。このように子供の行動の病理現象に十分に対応できない教師は、ゆとりと自由を失い、その結果事なかれ主義の態度をとらざるを得なくなった。学校外に目を転じても、産業構造の急激な変化に伴い、学校の地域社会の文化センター的役割を失って、教師の権威はさらに低下するという悪循環を生んだ。
三点目には、教師のどもへの無理解と強制的指導でますます拒否反応を生むこととなる。愛知県の小学5年生女子の事例では、給食の偏食をなくすため、子供の心理的状況を無視して、強制的食事指導をしていたことが原因で、いじめを生み登校拒否に繋がる問題となった。いじめをはびこらせる状況を、教師自身がつくり出している。
以上のような学校の病理以外にも社会という仕組みのなかで、学校信仰の根深さも原因している。そのは背景には、日本の社会構造の変化や政治のあり方と数々の教育政策にも密接に関連していると考える。井上敏明は、学校を通過しなければ世に出て行けない仕組みになっている。子育てはすべて学校任せで生まれきた学校偏重の考えが根強く支配していることに原因があると言っている。
教育行政の立場から見てどう対処していけばよいか不登校に関しての情報や行政機関の活用を進めているが、しかし第三の教育機関というべき児童相談所、教育センターなど果たして適切に機能しているのだろうか。年々、適応指導教室は、対応児童数が増加し、平成10年度現在全国650箇所以上ある。不登校の子供の「心の居場所」が教育行政の末端機関という図式で成立している。
縦割行政的枠組みで捉えることは、問題を依然として個別化、内閉化させる方向にしか機能させてはいないだろうか。地域全体が取り組むべき地域社会の課題であるという認識が育ちにくいのではないか。
現場の実態は、相談員も少なく退職教員に頼っている現実がある。行政関係機関は、子供を学校へ復帰させることばかり考えている先入観がある。既成の価値観が揺さぶられる中で、学校を地域全体と共有できる関係を成立させ、地域の様々な人的・物的資源と交わりながら新しい価値を生み出すべきと考える。
出典
神谷育司編 「心理学-人間理解の方法序説」臨床心理士
永瀬純三 全国情緒障害教育研究会
高橋良臣 「登校拒否と生きて」国土社1986
井上敏明「学校ストレスの深層」世界社1986
古賀野 卓「適応指導教室が学校に問いかけるもの」津山教育相談センター
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