生徒指導の研究-1

 生徒指導の研究

課題-1「学級崩壊について(教員としての視点から学級崩壊を論じる)   

 「学級崩壊」現象がメディアを通じて知られるようになったのは、1994年頃からである。尾木直樹氏は、学級崩壊の 定義について次のように述べている。「学級崩壊」を「小学校において、授業中たち歩きや私語、自己中心的な行動によって、学級全体の授業が成立しない現 象」と定義している。特に注目したいのは、学級崩壊現象が、中学・高校でなく小学校低学年に起きていることである。この問題について教師の視点から述べて みたい。

  この問題を一般的な状況か、特殊な問題の連続として見るかによって対処の方法も違ってくる。単に症状の手当で満足してよいのか。 子供の教師に対する否定的なメッセージをどうとらえたらよいのか注意深く見つめ直す必要がある。

 この問題点を制度的な論点から試みている上條晴夫氏の例にとると、

 A.自由保育の問題 

 B.教師の指導力不足、教師の高齢化問題

 C.学級定数の問題一人担任制の限界

などの原因を挙げている。

  Aで は、学級崩壊の責任は保育園だとする見方からの問題の指摘がある。その要因の一つとして少子化で打ち出されてきた行政施策が日本の家族のあり方や保育の根 本にあるものを覆してしまうのではないかと危惧する。特に思春期の問題は、幼児期の育児と深い関係にあることは、多くの識者が言っていることである。

  幸せな家庭を望む両親は、現実問題としてより高い生活を望むあまり仕事優先を重視してしまい、保育や学校の子育ての基本を依頼してしまう結果、家庭での教育の役割を見失い子供の問題に立ち向かい解決しようとする家庭の教育力が身に付かないのである。

 汐見稔幸氏 によると、家庭の中で行われる教育を第一社会化、地域の中で友達同士の切磋琢磨して遊びを覚えていくことを第二社会化、学校で典型的な教育を受けることを 第三社会化と定義しているが、まさに子供たちにとって大切なのは、第二社会化であると強調しています。この時期の成長にとって他者との関わりあいによる信 頼感の獲得や自由な遊びによる自立性が育つ大切な時期である。自由保育こそ自由な遊びをふくらませる総合的に主体性を育成した実践が多くの幼児保育園で行 われている。幼児教育による自由保育が 学級崩壊の原因とする誤解を招いているのである。これと同種の混乱は、生活科にもあったとされる。むしろ自由教育より大切なのは、小学校一斉授業に馴染め ない子を生み、学級崩壊の原因になっているという指摘もある。幼稚園・保育園・小学校との連携による教育の見直しが大切なのである。それぞれの教育の役割 を認識し、子供にとってどうすればスムーズに子育てができるのかを構築ことこそ大切であろう。

 さらに、父母との連携を深め、子供一人一人の成長を見つめ対応できる教育システムづくりが急務と言える。

 B,Cは、 2000年クラスの人数が前年度に比べて急増し、40人近いクラスでの学級崩壊が起きやすいことが文部省が研究を委嘱した「学級経営研究会」で報告された が、その後、20人以下の学級でも崩壊例があり、必ずしも「学級規模との関連性のあるデータはない」と結論づけている。むしろ教師の高齢化による担任同士 の連携が進まず崩壊の原因を生んでいるケースが少なくない。

  Bの教師の指導力不足について、今までのように教師の権威をもって教える教育の終焉を示している。教師の肩書きによる注意や叱責では、子供の心を動かすことはできなくなっている。教師自身一人の人間として力量が問われる時代がきているのである。

  尾 木直樹氏の見解によると、教師の指導力不足が崩壊の原因とするならば、従来の指導方法の蓄積で事足りるとは済まなくなる。「学級崩壊」の核心部分は、「子 供、親、社会の変化」とすれば、新ししい事態に対応した「新しい学校、新しい指導法」を創り出すことが必要になる。新しい形は、おそらく教師一人一人の問 題でなく、教育行政をはじめとする「親、地域のみんな」が考え出して取りかからなければならない問題であることを指摘している。ベテラン教師たちにも今後 考えてもらわなくてはならない問題であり、伝統的な講義中心の形式授業から脱皮し、新しい教育方法を創り出し、今こそ作業に着手しなければならない時代に 入ったのである。そのために学校現場が今までのような保守的で閉鎖性のある密室を解き、対社会から多様な意見を聞き入れ、支援を受け新たな学校を再生して いくことこそ、子供たちの授業改革や教師間の交流が深まり学校が変わることができるであろう。

  実際、21世紀に向けた新しい学校作りに取り組んでいる学校に千葉市立打瀬小学校や横浜市立本町小学校がある。この学校は、オープンスペースを 生かし、開かれた学校作りに挑戦している。学級の枠を超えて、学年全体で取り組むシステムの弾力的な運用をしている。常に子供たちの学習に合ったカリキュ ラム改善と教師一人で悩むのではなく、教師が一丸となって指導方法の研究している姿は、指導法研究会で多くの視察見学者を迎えている。特にチームテーチィングによる指導を取り入れることで、子供一人一人の個に応じた細かい指導を実現している。学級崩壊こそ学校再生のチャンスと捉えて社会の変化に対応した教育システムを教師全員で取り組むことが子供たちの輝ける瞳を復権できると信じたい。