被災した尾形家住宅
尾形家は、気仙沼湾の東岸の岬に位置する旧網元の家である。主屋は、規模桁行12間、梁間6間の木造平屋建てで、寄棟造、茅葺き屋根の建物だった。家蔵の普請関係文書(御手伝帳)から、文化7年(1810)という建築年代が確認されており、歴史的価値のある民家建築で、工学院大学 後藤研究室では、国の登録有形文化財への登録をめざし、2010年8月に調査を行っていた。同家にはまた、盆棚等の古くからの生活習俗やそれに関わる装備もよく残されていたので、国立歴史民俗博物館も調査を行っていた。
震災発生2週間後に「屋根だけ残った」という知らせを聞き、現地入りし確認したところ、建物は津波により押し流され、元の場所から約100m移動し、90度回転して屋根が形を変えずに残されていた。自衛隊の配慮等によって、遭難者探索のための緊急撤去を免れることができた為、1か月後には後藤研究室と国立歴史民俗博物館の有志が中心となり、地元の関係者と協力して尾形家を修復保存していくのための団体として設立した。
レスキュー活動
研究室の学生をはじめとする多くのボランティア協力のもと、2011年4月末から残された屋根及び小屋組を解体し、その瓦礫の中から約1年かけて柱や建具等の建築部材や、家財道具・古文書類等を拾い集め保管した。
長い時間をかけて保管のための活動ができたのは、所有者の尾形家の理解はもちろん、気仙沼市の瓦礫撤去の担当課に、尾形家周辺敷地の瓦礫撤去を後回しにし てもらうなど、部材確保に関して理解を頂いたことによる。また、瓦礫撤去担当の会社は「柱が傷つくから」と柱に縄を括り付け、1本ずつ分別を行ってくれ た。
その結果、多くの部材を救出でき、尾形家住宅の98本の柱のうち31本を確認(このほか場所を特定できない柱30本を回収)、大黒柱も2本見つけられた。また、長押より上の部材に関して保存状態は大変良い。
部材修理
気仙沼・尾形家修復保存会はSOC基金(東日本大震災被災文化財復旧支援事業)及び公益財団法人 朝日新聞文化財団の助成を受け、部材修理を行っています。