被災文化財修復

■開催期間 2012年4月28日(土)~2013年6月17日(月)
開催場所 東北歴史博物館
平成二十三年三月11日の午後二時四六分、東北地方太平洋沖地震が発生。この地震により県内全域で甚大な被害が生じ、特に沿岸部は、津波により壊滅的な状態となりました。
被災地域の文化財も流出、損壊の危機に瀕し、事態は一刻の猶予も許されない状況となりました

【目次】
1.被災文化財を救え 2.文化財レスキュー資料一覧 3.東北歴史博物館の取り組み 4~8.石巻文化センター 9.石巻市鮎川収蔵庫 10.東松島市野蒜埋蔵文化財収蔵庫 11.東松島市海津見神社 毘沙門天立像 12.南三陸町荒澤神社 経巻 13.名取市熊野那智神社 懸仏 14.気仙沼市唐桑漁村センター 15.文化財レスキュー活動のこれから

表紙表紙-1不動明王座像熊野那智神社御正

不動明王坐像大徳寺26 27 28 2930 31双林寺32 3334 35 36 37新宮寺38 39

■態新宮寺騎師文殊菩薩坐像及び四谷属立像の保存修理について

明古堂明珍素也

 大震災の大きな揺れにともない、中尊の文殊菩薩は獅子座から傾いて厨子側面にもたれ、光背周縁部など一部の部材が脱落した。脇侍のうち、仏陀波利三蔵は前方へ倒れ、その他は倒壊をまぬがれた。近年製作の厨子が文殊菩薩の倒壊を防いだのは幸運であった。獅子座と脇侍のすべては、各足底に設ける竹製丸柄を厨子基壇の丸大に挿込むことで自立する。しかし、これらの細工精度は低く、大きな振動に耐えられなかった。今回の保存修理における最優先事項のうち、一つは自立安定のため足柄を適正な形状で作り替え、それを支える梶座を製作すること。もう一つは、獅子座の構造補強である。獅子とその背中に載せる蓮華座は、各部材の取付けが経年劣化による緩みを生じ、地付から約55㎝の高さで文殊菩薩とその光背を安置するには甚だ心もとない状態であった。

40 文殊像蓮花座

 解体をともなう修理作業では、内部を実見し、構造技法などの仔細な調査が可能である。これは修理技術者と関係者に限定される。ここからは、現在作業中である獅子座を含み、内部構造など通常ではうかがえない情報を公開しよう。

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 文殊菩薩は針葉樹の剖矧ぎ造りである。脇侍のうち、三躯は針葉樹の一木造りであるが、優墳王は頭部を針葉樹、体部を広葉樹からなる寄木造りとする。今回撮影したⅩ線透過画像によれば、頭部は柾目を正面とし、体部に首を挿し込むかたちで固定する。体部は上半身の正中線を基準とする木取りを行い、木芯を籠める。左肩から股間を通して干割れが生じているが、後世に表面が補修され日立たない。獅子は大略を針葉樹三材からなる寄木造である。頭部は横木一材とし、体部の前方上面に載せ、内到りはない。矧目にマチ材を挟み、面を下方に向け、左にかしげる姿勢に調整する。体部二材は縦木とし、各部材を内到りのうえ、剖矧ぎを二工程おこなう。背面上に坐す文殊菩薩の技法に準じた本格的な工法である。なお、光背東光部に矧ぐ八乗蓮華の裏面に墨書が記される。

 文化財の保存修理は構造補強を優先し、表面の荘厳を現状維持に留め、成果があらわれにくい地道な作業である。様々な機関の尽力により進む被災文化財の修理事業で、適切な保存処置により後世へ伝え、修理によりあきらかとなつた新知見が文化財研究に活用され、それらが復興への助力となることが、われわれ修理技術者のささやかな願いである。

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