気仙沼・地福寺

震災被災仏像の保存支援 気仙沼市波路上 地福寺その後

吉備文化財修復所 ㈲東北古典彫刻修復研究所 牧野隆夫

Ⅰ.経緯


1.3月〜12月の概要

・地福寺には、吉備文化財修復所が関係御寺院のご協力を頂き、3月23日、緊急支援を行った。

・その後、6月23日に、仏像の状態確認と書籍の清掃などの奉仕活動にあたった。
・地福寺では、明年3月11日、震災1年後の法要を執り行う予定である。

・それに合わせ、被災した仏像の修復を希望されているため、12月25日、計6体の尊像本体と台座・光背等関連物の搬出に伺った。

2.地福寺の仏像についての概略

・平成15年〜21年にかけて、地福寺の仏像群(本尊地蔵菩薩坐像、他5体)の修理を行った。

・その間に、本堂の立て替え工事も行われることとなり、本堂工事完了まで、仏像をお預かりし、修理を行った。

・建築工事完成まで長期にわたり、また修理者の事情により、作業は東北芸術工科大学古典彫刻修復室から吉備文化財修復所へ、さらに㈲東北古典彫刻修復研究所に受け継がれ、修理は完成した。

・完成後、御本尊は気仙沼市指定文化財となり、本堂落慶とともに仏像群の開眼供養も行われた。

・しかしながら、それからわずか1年後、本年3月11日震災時の津波により、波路上の村域は、地福寺本堂より海側三方のほぼ全てが壊滅し、寺も甚大な被害を受けた。

・本堂は、欄間にまで至った波と漂流物により、壁面や建具などが破壊されたものの、幸いにも新築直後で堅牢であったため、建物の基本構造は残り、内部の仏像も全て奇跡的に流失を免れた。

・平成24年3月11日の法要に合わせ、尊像の再度の修理を行うこととし、事務作業は、㈲東北古典彫刻修復研究所、修復作業は吉備文化財修復所で、両所が協力しこの修復事業にあたることとなった。

Ⅱ.現況と今後

1.地福寺の現状

・6月伺った時には、庫裡は取り壊され、本堂のみが応急的に風よけを打ちつけ、一応の片付けが終わった状態で、内部には、衣類など支援物資等が並べられ、互助施設的な雰囲気であった。

・今回、見たところでは、建物の整備も応急的なものから、本格的な修理へと進み、建具等も新しいものが納まっていた。また、取り壊された庫裡に代わる附属施設も、小規模ではあるが建設中であり、寺院としての姿を回復しつつあった。

・片山住職の強い御意思に加え、多くの支援寺院により、予想以上に復旧が進んでいることを嬉しく思った。当日も寺院関係者が、東京から絨毯などをワゴン車に満載し、差し入れに来ていた。 [下写真左]3月23日、本堂内陣の被災状況。[同右]12月25日当日、内陣はきれいに整えられている。6月23日に伺ったおりには、須弥壇上は遺骨箱で埋め尽くされていたが、今回はそれも、なくなっていた。

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 3月23日当日の被災した外観     12月25日本堂付帯施設の建設状況

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3月23日、本堂内部、壁も建具もなくなり12月25日、本堂内、内陣と右脇間 ブルーシートが痛々しい。内部はもとに近い状態に戻りつつあった。

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2.当日作業 (作業者:牧野隆夫、渡邉真吾)

・本堂内の、以前修理を行った仏像5体と本尊台座光背を梱包し積込んだ後、住職の仮寓されている、気仙沼中心地の住居へ御本尊を受け取りに行き、当日夜、吉備文化財修復所工房(さいたま市)に搬入を終えた。

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3.修理作業について

・工房搬入後、修理前の写真撮影は12月26日完了。

・年明けから、汚水に汚れた尊像6体の清掃、水没と急激な乾燥による破損個所の補修、欠失部の新補を行い、被災前(前回修理完了時)の姿に復するための修理作業を開始する。

・3月初旬までに、地福寺へ搬入・安置の予定。


4.修理費用の負担に関して

・本尊地蔵菩薩像に関しては、気仙沼市の指定文化財であるため、修理費用の半額は助成が出る仕組みではあるが、他5体は対象とはならない。また、非常時であり、本尊についても今年度3月中に市が事業を実施する体勢をとるのは、現状では不可能に近い。また、仮に助成金が出た場合には、寺が半額を負担せねばならず、これも現状では困難がともなう。

・修理者としては、所有者に負担を与えることなく、明年3月21日に法要を行うことが出来るように、修理を完了させることだけに集中し、修理費用に関しては以下のように考えている。

①現地作業(搬出、搬入安置等)に関しては、各々の工房が負担する。

②気仙沼—さいたま市の仏像往復輸送費は、高岩寺「とげ抜き地蔵」(東京都豊島区巣鴨)及び、同寺仏像彫刻教室有志(講師、生徒)から託されている活動支援金の残金をこれに宛て、不足分は運送にあたっている㈱埼玉急送社のご厚意により、減額を了承して頂いた。

③市からの助成が出て、所有者に負担が生じる場合、修理者が募金等によりこれを相殺させる。

④市からの助成が出ない場合、修理費用については、修理者が奉仕する。

以上