小林 克弘
建築コンバージョンの調査と実践
小林 克弘
Katsuhiro Kobayashi
建築ストックを有効活用し魅力的に甦らせるコンバージョンの研究
近年、建築ストックの有効活用の手法として、コンバージョン(用途変更・転用)が注目されている。「建築は、ある目的や機能に基づいて造られます が、時代の変遷や社会状況の変化等で、建設当初の使用目的が失われたり必要とされなくなることがあります。そういった建築を別の用途に転用する手法を『建 築コンバージョン』と言います。ヨーロッパでは、あえてコンバージョンとは言わなくても、何百年も前に建てられた建築物を転用することで魅力的に甦らせ、 長い間にわたり大切に使ってきました。アメリカも最近、コンバージョンが一般的になりつつあり、工場や倉庫を展示施設とか教育施設に転用するなど、様々な 例が増えてきています。日本でも数年前から、賃貸オフィスビルを集合住宅に転用したり、小学校をコミュニティ施設にするなどの試みがなされています」
日本では、使われなくなったり古くなった建築物は、壊して建て替えるスクラップ&ビルドを繰り返してきたが、コンバージョンすることにより、資源の無駄使いや廃材(産業廃棄物)発生を大幅に減らすなど、地球環境との共生・調和を図ることもできる。
「新築には新築の良さがありますが、コンバージョンは、今まである建物をより魅力的に性能や価値を高め、新しい用途に生まれ変わらせる面白味があります。そこには、建築当初の使用目的では思いつかなかった発想が重なり、“意外性の美学”が生まれます」
建築設計・近現代建築研究を専門とする小林研究室では、文部科学省から支援を受ける21世紀COEプログラムの一環として、世界各地の優れたコンバージョン・デザインの実地調査を行っている。並行して実際に設計を行うコンバージョン・プロジェクトも展開している。
世界のコンバージョン事例を紹介する著書出版と設計プロジェクトの実施
日本において建築コンバージョンは、まだ新しい研究分野のため、世界の事例調査は重要な意義を持っている。「どこにどんなものが存在するのかわか らない状態から、建築雑誌をくまなく調べてピックアップし、イタリア、フランス、ドイツ、オーストリア、フィンランド、アメリカの優れた事例を実地調査し ました。最終的に世界各地の他の事例も併せて分析し『世界のコンバージョン建築』を出版しました」近年のコンバージョンをまとめた本としては日本初で、レベルが高く世界的にみても貴重な存在として注目を集めている。
実際のコンバージョン・プロジェクトとしては、青山のオフィスビルのコンバージョンを実施した。ごくありふれたオフィスビルに新しい価値を加えて集合住宅に転用した結果、斬新なスタイルに生まれ変わり、好評を得ている。
コンバージョンの社会的有用性とその価値の普及・浸透を目指して
「コンバージョンの概念は、日本ではまだ浸透していないので、一般の方には建築の面白い一手法として知っていただきたいと思います。専門家の方には、世界中でどれだけコンバージョンが進んでいて、魅力的なことが起きているのかを知っていただきたい。各国の都市の特性によって、デザインの特徴も違います。世界には、まだまだ沢山の優れたコンバージョン事例があるので、今後も実地調査を重ねて本で紹介していくとともに、日本におけるコンバージョンの普及・浸透のために研究と実際の設計を続けていきたいと思います」
アメリカにおける工場から大学へのコンバージョン例(カリフォルニア美術工芸大学)
オフィスビルから集合住宅へのコンバージョンを行った実作(蒲田プロジェクト)
産業界や自治体の課題のうちで、適用可能な例 |
---|