モンテマルティーニ博物館

モンテマルティーニ博物館(0113asahi)

機械と肉体美のエロチシズム
そこかしこが追跡だらけということもあり、ローマの地下鉄は他のヨーロッパの大都市と違ってテルミニ駅で交差する2路線だけ。それでもムソリーニ建造の新都市エウルなどに足を延ばすには重宝する。その新都市の少し手前が「モンテマルティーニ博物館」の最寄り駅。古都らしくない、くすんだ街を抜け、何車線もある自動車道路を渡ったところが入り口だ。
博物館に似つかわしくない立地は、もとがローマで最初の公共の火力発電所だったため。奇をてらっているようだが、展示物は由緒正しき古代彫刻群。ここはローマの中心カンピドリオ広場に位置する「カピトリ
ーニ博物館」の分館なのだ。ミケランジェロの手になる本館に対して、この分館は、大きな吹き抜けに、はがねの包も黒々とした発電所時代のエンジンやボイラーが往時のままならび、主たる展示物である古代彫刻は、居丈高な機械類の谷間にばつばつと配されている。
展示風景に違和感があるかというと、これがなかなかおもしろい。巨大なマシンの質感とスケールは、即物的であるがゆえに、見る者の心をたかぶらせる。昨 今、若者の間に増殖しっつある「コンビナート萌え」に通じるわくわく感。そこに裸休彫刻。首が失われたものは、筋骨隆々たる肉体の美がことさらに強調され る。異質なはずの両者が組み合わさった姿は、不思議なエロチシズムを漂わせ、世界のどの文化施設にもな かった情念の空間を実現している。
戦前のイタリア・ファシズムは、未来派など20世紀芸術のパトロンだった。ヒトラーが近代表現を退廃芸
術として禁までしたドイツの全体主義とは異なる、デザイン先進国らしい指導者の美意識だった。一方で、古代ローマの歴史を自負する誇大妄想が、イタリア芸術の底流に存在する。モンテマルティーニの空間に足を臍み入れたとき、ある種の快感で背筋がぞくっとなるのは、危うい調合の纂の成せる業だ。
1980年代以降、ヨーロッパでは、都心に放置された基幹施設を、美術館などに転用する例が相次ぐ。駅を改装したパリのオルセー美術館やベルリンのハンブルガーバーンホフ、発電所はロンドンのテート・モダンなどがある。いずれも歴史的建築のなかに近現代美術を展示する意外性が特色だが、それらとは反対に、昔帰りで古代彫刻を収容したイタリアの逆張りの発想はあかぬけている。
永遠のデザイン大国の面目ここにありだ。
◆前身は火力発電所◆
テベレ川に近い立地で、1912年に稼働を始めたモンテマルティーニ火力発電所は、時代を追って施設が増強され、第2次大戦中もバチカンの旗を掲げて攻 撃を逃れ発電を続けた。発電所の設置を推進した学者ジョバンニ・モンテマルティーニの名が冠せられている。発電所としては60年代まで現役だった。
80年代にアートセンターとして整備され、97年に現在の姿となった。古代の彫像を中心とする展示は約400点を数え、モザイクにも目を見張るものがある。玄武岩のアグリッピーナ像などがエンジンルームやボイラールームに展示されている。
●モンテマルティーニ博物館の公式サイト英語版(en.centralen10ntemartini.org)には、平面図や館内の写真などが収められ、視覚的にも楽しめる。トップページのメニューからカピトリーニ博物館のサイトにも移動できる。