円形型建築の歴史には、ローマ時代のコロセウムやバチカン宮殿広場・オペラハウスの建築物にみられる。今日に至っては、公共建築として世界遺産建築物に指定されたドイツのブルーノ・タウト設計による馬蹄形のコミュニティハウス、日本では、最近建てられたられた金沢21世紀美術館などがある。円形型建築の特徴としては、公共性とコミュニティの要素をふまえた設計意図が見られる。さらには自然環境も取り入れ、屋内・屋外の様子を感じ、円形のもつ導線は人々の自由な流れの動きを与える。さらには高低差を設けることで、視角範囲は格段に広がりを与え人の動きも視野に入る。古代より近世までの教会建築は、構造的に耐震をふまえたり石柱の配置やレンガ壁の構造の工夫をしたりして、室内の光が遮断されないよう開放的空間づくりに様々な工夫をしてきた。コルビジェやグロピウスなとバウハウスの影響で、近代建築から現代建築に至って、ガラス・鉄骨・アルミ骨材・木材などの組み合わせによる工夫により、より明るく解放的空間を生んでいる。
ここでは、円形型建築のいくつかの事例を紹介する。これらの比較により時代の変化や人と建築の捉え方も変化していることがわかる。
コロセウム
コロッセウムはネロ帝の黄金宮殿(ドムス・アウレア)の庭園にあった人工池の跡地に建設された。すでに掘り下げられていたため池の水を抜くだけで済み、基礎工事をいくらか省略することができた。工事はウェスパシアヌス治世の75年に始まり、ティトゥス治世の80年から使用されるようになった。使用開始に当たっては、100日間に渡りイベントが続けられ[1]、数百人の剣闘士が闘いで命を落としている。なお、完成したのはドミティアヌスの治世中である。
構造はローマン・コンクリート(火山灰を利用したコンクリート)で出来ている。鉄骨を用いないコンクリートにも関わらず幾多の地震の際も崩壊しなかったのは、全体が円筒形で力学的に安定していたためである。
ローマ帝国のキリスト教化に伴い血生臭い剣闘士競技は禁止されたと言われているが、443年に地震で破損したコロッセオの修復を行ったことを記念する碑文が残されており、地中海西部でのローマ帝国の支配が崩壊した6世紀でも修復の記録が残っていることから、古代末期までは競技場として使用されていたと考えられている
サン・ピエトロ広場
サン・ピエトロ広場(サンピエトロひろば、イタリア語:Piazza San Pietro)は、バチカン市国南東端にあるカトリック教会の総本山、サン・ピエトロ大聖堂の正面にある楕円形の広場。ジャン・ロレンツォ・ベルニーニの設計により、1656-67年に建設された。4列のドーリア式円柱による列柱廊と140体の聖人像に囲まれた広場の中央にオベリスクが立つ。ベルニーニは広場を、幅240メートルもある巨大な楕円形として完成させた。広場を取り囲んでいるのは4列に並べられた合計372本の石柱であり、柱の上には140体もの聖人像が広場に集まった人々を見守るように立ち並んでいる。ベルニーニは古代ローマの闘技場コロッセオからインスピレーションを受けていた。コロッセオが生み出した熱狂と興奮をもとに、ベルニーニはサン・ピエトロ広場を巨大な劇場空間へと変貌させようとした。
中国・福建土楼・承啓楼
福建土楼(ふっけんどろう)とは、中国福建省南西部の山岳地域にある、客家その他の人々による独特の版築建築物。客家土楼(はっかどろう)ともいう。12世紀から20世紀にかけて建てられたものがほとんどである。土楼は通常、外部立ち入り禁止の大きな建物で、長方形か円形をしており、厚い土壁(180センチ以上)と木の骨格から成り、高さは3階か5階、80家族以上が生活している。この土でできた建物は通常1つの入口しか持たず、その入口も、鉄板で頑丈に補強された厚さ10センチから13センチの板戸で守られている。建物の最上階には、盗賊を防御するため、狭間が空けてある。
福建土楼は、初渓 Chuxi 土楼群、田螺坑 Tianluokeng 土楼群、河杭 Hekeng 土楼群、高北 Gaobei 土楼群、華安県の大地 Dadi 土楼群、洪坑 Hongkeng 土楼群、衍香 Yanxiang 楼、怀远 Huiyuan 楼、振福 Zhenfu 楼、和贵 Hegui 楼など、46を数える。これらは2008年、福建の土楼として、ユネスコの世界遺産に登録された。「生活と防衛を集団で行う組織の、特徴的な伝統的建築と機能の例として、またその環境と調和したあり方に関して」優れた点が認められたのである。
ブリッツ・ジードルンク(ブルーノ・タウト)
既存の浅い池を中心に、その池からあがっていくゆるい勾配の斜面の頂部にグルッと馬蹄状の弧を描いて建つ3階建ての住棟は、その独特な形態とその中に抱き込まれた短軸の巾が130mもある大きなオープンスペースの存在によって明確にこの団地全体の中心的建築となっている。馬蹄型ジードルンクは東側の底辺に大きな階段状のメインゲートを持つが弧状部にもその頂点と左右に計3ヶ所のトンネル状のパスが有り周辺のサービス路や住棟と結ばれている。
全体の配置図を見ると、中心に配された馬蹄型という独特なジードルンクの磁力により地区の全住棟が強力に整合させられている様な感があるが、実際にブリッツの全体の直接的な印象は、圧倒的なヴォリュームの緑である。街路から見た各住棟の裏側には全住戸分の細長い家庭菜園の如きものが取られており、これが実に多様で活きいきとした緑の場所になっている。野菜も草花も樹木・花木もあるが、とにかくそのヴォリュームがすごい。これらの各住戸単位のニワの他に先述の馬蹄型ジードルンクの中央広場の様な共同の公園的場所もあり、これらの緑が連続してブリッツ全体を大きな緑で包みこんでいる。
淡路夢舞台・ベネッセハウス(安藤忠雄)
「淡路夢舞台」を訪れる人々に、水、風、光、陰、空、山、そして海など、日常見過ごしてしまいがちな自然の様相をどれだけ感じ取ってもらえるかー。21世紀はもはや、放っておけば自然が環境を整えてくれる時代ではなく、一人ひとりが強い意志をもって、積極的に自然に働きかけながら、環境と共生していかなければならない時代です。2000年という節目の年に誕生した夢舞台。これから千年の時を超え、水と緑に囲まれて、人々に勇気を与え続ける場所に育ってほしい。
「ベネッセアートサイト直島」では作品の収集にとどまらず、アーティスト、建築家が各場所において作品を制作し、公開することによって最良の現代アートを鑑賞できる場を提供する建築。瀬戸内の自然環境や地域固有の文化の中に現代アート・建築との特別な場所を生み出す空間でもある。
金沢21世紀美術館(妹島和世+西沢立衛 / SANAA)
『まちに開かれた公園のような美術館』金沢21世紀美術館は、金沢市の中心部に位置し、だれもがいつでも立ち寄ることができ、様々な出会いや体験が可能となる公園のような美術館を目指す。このため建物には表と裏のないガラスのアートサークルが採用され、トップライトや光庭など明るさや開放感にも十分に配慮している。 夜間開館や魅力的なショップ、レストランなど利用者ニーズに対応し、気軽さ、楽しさ、使いやすさがねらいとする。多方向性=開かれた円形デザイン三方が道路に囲まれている美術館敷地内にどこからでも人々が訪れることができるよう、正面や裏側といった区別のない円形をとりいれた意図がある。建物が街と-体になるためのデザイン。水平性=街のような広がりを生み出す、各施設の並置展示室やカフェレストラン、アートライブラリーなど、それぞれに個性豊かな各施設はほぼ水平方向に配置。街のような広がりを生み出す。建物の回廊部分を一周すると、様々な特徴のある施設を巡ることができる。透明性=出会いと開放感の演出外壁や建物内の壁面の多くにガラスを採用し、「透明であること、明るいこと、開放的であること」を求めました。同時に、内部と外部など互いに異なる空間にいる者同士が互いの様子や気配を感じ取ることができる、出会いの感覚も演出する。
ふじようちえん(手塚貴晴+佐藤可士和協力)
ふじようちえんは、東京都立川市上砂町にある私立幼稚園。学校法人地球のひろば藤幼稚園が運営する。モンテッソーリ教育を採用している。園児は約560人。2007年3月に竣工した新園舎は、佐藤可士和をディレクターとし、建築家手塚貴晴・手塚由比(手塚建築研究所)により設計された。従来の園舎が老朽化したため建て替えたもので、平面は外周約183m、内周約108mのほぼ楕円形をしている。以前からあった3本のケヤキの大木を屋根を貫通させて残しており、ウッドデッキにされた楕円のドーナツ状の屋根は園児の遊び場。子どもの活動の活性化できる屋根兼運動用トラック・遊び場・隠れ家など数多く子どもの発想を生かした空間作りに成功している。親御さんも子どもと一緒に過ごす。教育環境には、森があり緑化環境との融合をさせ、子どもたちが自然環境(虫・植物・土・葉・日陰)と接触するよう仕組まれている。