日本犬

▶6犬種

 日本犬という言葉が使われるときは、1934年(昭和9年)に日本犬保存会によって定められたスタンダードである「日本犬標準」に名前の挙げられている6つの在来犬種を特に指すことが多い。6犬種は大型・中型・小型の3型に分類される。1931年(昭和6年)から1937年(昭和12年)にかけて、各犬種が順次、文部省によって天然記念物に指定されたが、太平洋戦争後、その管理は都道府県教育委員会に委ねられた。


▶日本犬種

 現存の6犬種のほか、1934年(昭和9年)12月28日に「越(こし)の犬」(福井県・石川県・富山県・新潟県)が国の天然記念物に指定されているが、その後数が減り、1971年(昭和46年)に純血種が絶えている。

 特定の地域のみに以前から生息する犬を「地犬(じいぬ)」と言うが、天然記念物に指定された7犬種のほかにも、かつては各地に数多くの地犬が存在した。 このうち、

  • 川上犬は、信州系の柴犬である信州柴の1種だが、国の天然記念物に指定されている柴犬とは別に、1983年(昭和58年)に長野県の天然記念物に指定されており、地元で独自に保存活動が続けられている。同様に、縄文時代以来の古い犬の形質を残すとされる琉球犬も、1995年(平成7年)に沖縄県の天然記念物に指定されている。

  • 薩摩犬(鹿児島県)については、地元の保存会で、現在、保存・固定化の努力がなされている。

  • 十石犬(群馬県・長野県)については、戻し交配による再作出の試みがなされており、美濃柴(美濃犬、飛騨柴とも。岐阜県)、山陰柴(石州柴、因幡犬とも。鳥取県・島根県)などでも、固定化の努力が続けられている。

  • 肥後狼犬(熊本県)にも保存会があるが、会員の高齢化という問題に悩まされている。

  • 岩手犬(岩手県)は、純血種の個体の存在が確認されているが、すでに保存は難しいとされる。三河犬(愛知県)も個体数が著しく少なく、絶滅寸前とされている。

  • 仙台犬(宮城県)、越路犬(同)は、純血種は絶えたものの、その血を引く和系犬は、今も地元に残されているという。

  • 屋久島犬(鹿児島県)は、すでに純血種の個体は存在せず、雑種のもの等が「屋久島犬」として販売されているという。

  • 大東犬(沖縄県)は、南大東島で確認された純血種の個体はいずれもオスであったが、島外で純血種の繁殖が行われている[1]

 このほか、すでに絶滅していると見られる地犬には、厚真犬(北海道)、津軽犬・青森犬(青森県)、高安犬(山形県)、会津犬、相馬犬(福島県)、越後柴(越後犬とも、新潟県)、秩父犬(埼玉県)、赤城犬(群馬県)、加州犬、前田犬(加賀犬とも。石川県)、保科犬、戸隠犬、梓山犬(長野県)、天城犬(静岡県)、三河柴(愛知県)、阿波犬(徳島県)、壱岐犬(長崎県)、椎葉犬(大分県・宮崎県)、山仮屋犬(同)、綾地犬(同)、日向奥古新田犬(宮崎県)、日向犬(同)、甑山犬(鹿児島県)などがある。これらの中にも、雑種化した和系犬の戻し交配による再作出・固定化という道が残されているものが存在するかもしれない。


▶保存小史

 明治から昭和初期にかけて、洋犬の移入や交通の発展によって雑化の進んだ時期は、日本犬絶滅の危機であった。明治以来、舶来万能の風潮によって、輸入された洋犬による日本犬の雑種化が、全国で意図的に行われた。そのため、大正末期までには、純粋な日本犬は、特に都市部ではほとんど姿を消してしまった。

 当時内務省にあった史跡名勝天然記念物保存協会とともに、この現状に危機感を抱いた斎藤弘吉は、日本犬の復興を呼びかけ、1928年(昭和3年)6月に日本犬保存会を創立して、保存運動を展開した。1931年(昭和6年)から1937年(昭和12年)にかけての天然記念物指定が、この運動の追い風となった(国粋的な物を尊ぶ当時の時流がもう一つの追い風となったが、保存されたのは猟犬だけだった)。

 また、物資の不足から犬の撲殺・毛皮の供出が求められた太平洋戦争末期は、日本犬にとって第2の受難の時期であったが、有志の情熱と努力によって、日本犬の血は絶えることなく継承された。

▶日本犬ギャラリー

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