SDGsに取り組む教育とは

■2030年、世界を担うすべての子どもたちへ

▶︎国連が掲げる人類共通の目標

 「持続可能な開発目標・・・Sustainable Development Goals

 その達成に向け、教育が果たす役割の重要性が認知され始めている。

 学びを通じて、よりよい世界を実現するすべを子どもたちに啓発することがSDGSの達成には必要だ。

 「持続可能な開発のための教育・・・Educational for Sustainable Development ESD)」への取り組みで世界を牽引する日本における初等・中等教育の今を見つめる。

 急激な気候変動や経済格差の拡、そして未知のウイルスによる世界的感染拡大。技術革新や社会のグローバル化は物質的な豊かさをもたらす一方で、思いもよらない負の遺産も生み出している。

 子どもたちが成長し、社会に参画し始める2030年。人類の進歩とともに、さらに新たな課題も持ち上がっているだろう。不確実な未来を生き抜き、よりよい世界を実現するための軸となるのが、2015年に国連サミットで採択されたSDGsだ。すべての国が普遍的に目指すべき17のゴール・169のターゲットを明示するこの日標は、今や世界の共通言語と言えるほど広く浸透した。そして次なる段階として、重要性を増しているのが教育を通じた次世代への展開だ。

 日本は2002年の「持続可能な開発に関する世界首脳会議」にて「持続可能な開発のための教育の10年(DESD)」を提唱し、世界に先駆けて子どもたちへの教示を実践している。2020年度に本格実施を迎えた新学習指導要領では「持続可能な社会の創り手」の育成が明記され、それぞれの特徴を生かした独自の取り組みが日本各地の学校で実現し始めている。本書では、SDGsの次世代への啓発、そしてESDの意義に関する各界の権威からの示唆に加え、各校での先進的なアクションを取り上げる。

▶︎SDGs・ESDとは

 SDGs(エスディージーズ)とは、「あらゆる形態の貧困に終止符を打ち、不平等と闘い、気候変動に対処しながら、誰も置き去りにしない」ことを掲げる持続可能な開発目標”を指す。2030年までに達成すべき17のゴール・169のターゲットからなり、持続可能な社会の実現に向けた指針を明確に示している。

 そのSDGsの達成を実現する「持続可能な社会づくりの担い手」の育成を目的とした教育がESD(イーエスデイー)である。日本は2002年の国際会議にて「持続可能な開発のための教育の10年」を提唱し、国家レベルでESDを推進。現在はUNESCO国際連合教育科学文化機関)が中心となり、世界中の教育現場で取り入れられている。2019年12月には、SDGsとの連携を強化し、取り組みをより具体化した「ESD for 2030が国連総会において採択されている。

 ESDが重視するのは、さまざまな社会課題は決して対岸の火事ではなく、自分事であるという感覚を養うことだ。この感覚を持って各教科を学ぶことにより、子どもたちの中で「学校での学びと現実世界が抱える問題」が結びつく。自身の小さな領域から飛び出し、広い世界を俯瞰する視野が培われるのだ。

▶︎持続可能な発展の実現に向けて鍵となる「多様性」

 政治家やビジネスマン、芸能人の胸元に輝くカラーホイールバッジ、テレビCMやイベントのポスター。「SDGS」という言甘栗やマークをさまざまな場面で目にするようになったのはここ数年のことだ。従来の国際的なアジェンダと異なり、社会に広く浸透している理由は「誰一人取り残さない」姿勢にある。特定の国や人々の問題というミクロな視点ではなく、全員参加型のムーブメントとして取り組みが進んでいる。

ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る

女性のエンパワメントとジェンダーの平等は、持続可能な開発を促進するうえで欠かせません。女性と女児に対するあらゆる形態の差別に終止符を打つことは、基本的人権であると同時に、他のすべての開発領域に対して波及効果があります。

国連開発計画(UNDP)は2000年以降、国連のパートナーやその他の国際社会とともに、ジェンダーの平等を活動の中心に据え、素晴らしい成果を達成してきました。学校に通う女児の数は15年前よりも増え、多くの地域で初等教育において男女平等を達成しました。農業以外の雇用者に女性が占める割合は、1990年の35%から、現在は41%にまで増えています。

持続可能な開発目標(SDGs)は、こうした成果を土台として、あらゆる場所で女性と女児に対する差別に終止符を打つことを狙いとしています。一部の地域では、雇用機会の不平等が未だに大きいほか、労働市場でも男女間に格差が見られます。性的な暴力や虐待、無償ケアや家事労働の不平等な分担、公の意思形成における差別は、依然として大きな障壁となっています。

 リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)関連のケアやサービスへのアクセスを確保し、土地や財産などの経済的資源に対する平等なアクセスを女性に認めることは、この目標の実現に欠かせないターゲットです。公職に就く女性の数は前例にないほど増加していますが、あらゆる地域でより多くの女性リーダーが生まれれば、ジェンダーの平等促進に向けた政策と法律制定の強化に役立つことでしょう。

ジェンダーの平等は、持続可能な開発のための2030アジェンダを構成する17のグローバル目標の一つです。複数の目標を同時に達成するためには、包括的なアプローチが必要不可欠です。

 世界中の人々が手を取り合い、目標を達成するには「多様性への寛容」が欠かせない。SDG5ジェンダー平等を実現しよう」やSDG17「パートナーシップで目標を達成しょう」とあるように、違いを受け入れることができる社会の実現が持続可能な発展には求められている。SDGSが重視する多様性の重要さを、1969年の放映開始以来50年にわたり子どもたちに伝え続けてきたテレビ番組が「セサミストリート」だ。

▶︎すべての子どもたちの中にすばらしいものを見つけよう

 セサミストリートの活動の核は、See Amazing in All Children(すべての子どもたちの中にすばらしいものを見つけよう)という考え方にある。セサミストリートには、その時代に社会が抱える問題を象徴するキャラクターが必ず登場する。近年では依存症に苦しむ母親を持つカーリや自閉症のジュリアなどが仲間に加わっている。辛い背景を持つ者もいるが、彼らは決して後ろ向きにはならない。セサミストリートの仲間たちは違いを肯定的に捉え、一人ひとりのすばらしい部分を見つけていくのだ。そこに異なる容姿・色なのは、違いを視覚的にもわかりやすく伝えたいという思いが反映されているからだ。

▶︎難民の子どもたちにも教育を。中東版プログラム開始

 セサミストリートはすべての子どもに質の高い教育を提供すべく、2020年2月から新たな試みをスタートさせた。中東地域におけるプログラムの開始だ。異なる個性が交わり、生まれる新たな価値がよりよい世界を創るという信念が貫かれている。キャラクターが皆まったく難民の子ども向けにローカライズされたテレビ番組を中心に、テレビのない家庭にも届くよう紙の教材や対面でのケアプログラムを提供している。

 ここでは難民のジャッドが新たに仲間に加わる。ジャッドがセサミストリートの仲間たちに受け入れられる様子に、子どもたちは自らを投影し、安心感を得る。教育機会の喪失が深刻な難民の子どもたちに向けて、読み書き計算などの基礎教育と共に、心のケアとなる内容も盛り込まれている。

▶︎自由な発想と多様性に触れる喜びを伝えるセサミストリートカリキュラム

 日本でもセサミストリートカリキュラムという新たな挑戦がっている。学校とタッグを組んで授業に導入し、日常に入り込むことで子どもたちの意識や行動を変化させるのが目標だ。小学校6年間での合計72プログラムの履修を通して、自由な発想力や協調性などの「非認知能力」を育成する。個性豊かなキャラクターたちは強みの1つ。授業はセサミストリートのキャラクターが暮らす世界を舞台に展開される。

 そこは現実社会と同じ問題に直面しており、子どもたちはキャラクターと自分を重ねながら、解決策を探る。ここに本カリキュラムの特徴がある。子どもたちが考えを巡らせる世界には、制限も正解もない。制限がないからこそ、自由に考え、意見を発信し、議論をすることができる。そのような学びを通して、答えのない問いについて考える楽しさや、自分とは違う考え方に触れる喜びを体感するのだ。実際にカリキュラムを導入した埼玉県戸田市では、ディスカッションの活発化や発想力の柔軟さの向上が調査結果として報告されている。今後は日本各地へとコラボレーションを広げるとともに、学校だけでなく家庭とのつながりも模索していくという。

▶︎SDGSと共鳴する信念

 常に社会の変化を見据え、その時代の子どもたちが必要とする学びを提供してきたセサミストリート。変わらないのは、多様性への寛容を世界へと広げ、すべての子どもたちが夢を信じ、行動できる社会を実現するという理念だ。これはまさしく、SDGSが目指す持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現と共鳴する。教育を適して、子どもたちと共によりよい未来を創造するセサミストリートの挑戦はこれからも続く。

▶︎未来の担い手たる子どもたち、若者たちへ

 今改めて問われる未来社会のあるべき姿 2015年にSDGSが採択されてから間もなく5年が経過し、世界では目標達成に向けてさまざまな取り組みが進められてきました。しかし、今般のコロナ禍でこれまでに積み上げてきた成果の多くが押し戻されようとしています。国連大学世界開発経済研究所の発表によると、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって貧困に陥るおそれがあるのは5億人。もし現実になった場合、この10年で達成ざれた貧困削減が無に帰することになります。私たち国連も、今回の危機を第2次世界大戦以来最大のグローバルな試練として捉え、全精力を傾けて対応に当たっています。

 命を守り、経済や社会へのインパクトを緩和し、持続可能性に配慮しながら復興を進めていく。こうした3つのステップがありますが、いずれにおいてもSDGSに即した考え方が非常に重要になつてくると考えています。そのうえで2030年に目標を達成するためには、社会自体の大きな変化、システムチェンジが欠かせません

 この世界的なショックを受けて、今後どのような社会を目指せばよいのか、根源的な問いかけが数多く生まれてくるのではないでしょうか。

▶︎子どもたち、若者たちがこの先中心的なアクターに

 2030年の未来を考えたとき、社会の中核を担っているのはまさに今の子どもたち、そして若者たちです。

 SDGSは彼ら・彼女らの将来を示す羅針盤そのものといえます。それを理解し、自分自身もアクターとして関わってもらうことが非常に大切になってくるのです。ジェンダー平等であったり、格差の是正であつたり、あるいは、文化や言葉の違いを超えてみんな仲良くしようとか、自然を大切にしようとか、幼いうちからそうした価値観に目を向けることが重要になります。

 子どもたちへのアプローチという点で私たちの広報活動を補完してくれているのが、未就学児をコアなフアン層としていマテル社の「きかんしゃトーマス」です。子ども向けエンターテイメントのプロである同社に国が専門的知識を提供し、そを子どもたちにもなじみやすシナリオに落とし込んでいく。そうしてSDGSの内容を盛り込んだテレビシリーズが生まれ、2019年4月から日本も放送が始まりました。

 特にこだわった内容の1つがジェンダー平等です。リーダーシップを持ってぐいぐいみんなえ引っ張っていく、従来の女性や女の子のステレオタイプを打ち破るような姿に幼いうちから触れてほしいという思いがありました。そうしたたくましい存在としての女の子像の表現に力を入れるとともに、トーマスとその仲間たち、グループ内で男女比をほぼ同数にするといった点にもこだわりました。テレビシリーズの中では、ほかにも教育や都市開発、環境保護といったテーマに触れ、随所にSDGS的な物の考え方をちりばめています。きかんしゃトーマスが、家庭内でSDGSに興味を持ち、深く考えるきっかけになればうれしいですね。

 また、株式会社サンリオの「ハローキティ」も、子どもたちに対するSDGSの浸透をサポートしてくれています。ハローキティは思いやりを象徴するようなキャラクターです。世界中の仲間と仲良くなり、自らいろいろなことにチャレンジしていく。そうしたハローキティ You Tubeのチャンネルの中で、定期的にSDGSに関するチャレンジをしてもらうという企画を立案。まずは日本国内で試験的に発信を進めていきました。

 2019年には国連本部ともパートナーシップが結ばれ、今は世界中を飛び回っています。すでにインドネシア、バングラデシュ、ヨルダン、タイに行っており、さまざまな国の状況や国連の活動に目を向けて、SDGSの発信役を担ってくれています。 ハローキティは日本のソフトパワーの代名詞のような存在で、国内外で高い人気を誇っています。子どもだけではなく幅広い年代の女性にも支持されており、ハローキティの大ファンだという著名人も多い。そうしたハローキティのソフトパワーを借りつつ、国連からはグローバルなネットワークや情報を提供し、お互いがプラスになる良好な関係を築いています。

▶︎ 学校教育におけるSDGSとの関わり方

 前述した国連からの情報発信に加えて、教育現場でもたくさんの先生方がSDGsの考え方を伝えてくれています。SDGsについての教育に正解はありませんが、1つの視点として地域に目を向けその地域が抱えている課題はなんだろう、と考えてみるという方法はあると思います。または、生徒自身が興味・関心のある物事を出発点にするのもよいでしょう。私は音楽が好き、料理が好き、スポーツが好き・・・そうしたこだわりたい分野を決めて、そこからさまざまなにひも付けつつ考えを広げく。身近なテーマと世界課題がつながっていると気づかせてあげることが、先生方の重要な役割になります。 

 SDGSを学ぶ醍醐味として、その考え方が世界の共語になっているという点があります。その気になれば、世界の議論の場に「はい」と手をて参加することができるわけです。実際に、子どもや各学校の参加を促しているコンペティションやアイディア賞もたくさんあります。そうしたものに怖気(おじけ)づかずにトライしてみると、誰でも世界の土俵に乗ることができるのです。

▶︎ SDGSの取り組みをもっと大きな「うねり」に

 現在、日本のSDGSに関する施策は多方面で進行しています。まず教育面では、個々の学校や先生がSDGSを取り上げるだけではなく、学習指導要領に組み込まれ、全国横断的なシステムとして取り組んでいます。次に認知拡大・啓発面においては多様なメディアが認知度調査等を実施し、経年の変化についてリサーチ。他国ではこうしたデータの蓄積をあまり耳にしませんので、日本がリードしている部分と言えるでしょう。

 学校においても、すばらしい取り組みの事例がどんどん生まれています。しかし、まだ個々の活動レベルで、多くが点の状態で終わってしまってはいないでしょうか。今後の課題はそれを線、そして面へと広げ、より大きな「うねり」をつくつていくこと。単なる事例紹介で終わらせず、大きな力に変えていくにはどうすればよいのか、私たちも常に問題意識を持って考え続けています。

 確実に社会に浸透してきているSDGS。企業も重視しており、子どもたちがゆくゆくは社会に出る際にSDGSへの理解が必要とされるようになると考えられます。また、受験といった目の前にある人生の節目でも求められる知識となるはずです。そして何より、今回のコロナを受け、より包摂的・公グリーンで持続可能な社会を目指していく中で、SDGsはまさに道筋を示す羅針盤になります。子どもたちがSDGsをよく理解し、その実践の手になることがより一層重要になってくるでしょう。子どもたち、そして保護者、先生方まで、全員が真剣にSDGSと向い、未来を創造していくこ願っています。

 2020年、新型コロナウイルスの爆発的感染拡大が世界中の人々を活動不能の状況に追い込みました。その一方で、大都市の空気は浄化され、つかの間ながら自然破壊の進行を免れています。この急激な変化を目の当たりにした私たちは、人間の営みがどれだけ環境に負荷をかけてきたかを痛感させられ、人類共通の未来を守るため、新しい生活様式への移行が急務であることを思い知らされました。

 従来の考え方を改め、環境と調和し、共に生きるための新しいモデルを構築するために、今はど「持続可能な開発のための教育」(ESD)が求められる時代はないでしょう。そのためにはまず、私たち人類は互いに依存しあっていることを意識するとともに、地域コミュニティーや地球のより一層の健全化に向けて行動するための知識と力を生徒たちに身に付けさせなくてはなりません。これは学校や職場など、あらゆる社会に共通する課題です。地方か都市部か、先進国か途上国かを問わず、どのような状況下でも必要なことなのです。

 5年前に国連で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」は、思い切ったパラダイムシフトを進め、より公正かつ安全で自然豊かな社会を実現することの必要性を訴えています。基本的人権である教育は、17の持続可能な開発目標の実現に向けた行動変容を着実に進めるための鍵を握っています。誰一人取り残さない福祉、平和、繁栄を実現するには、どの国も教育にこそ資源を投じるべきなのです。

 2030アジェンダはターゲット4.7でESDの重要性をうたい、「持続可能な開発のための教育および持続可能なライフスタイル等を通して(略)すべての学習者が、持続可能な開発を促進するために必要な知識および技能を習得できるようにする」ことを各国に呼びかけています。また国連総会において、ESDは「すべての持続可能な開発目標を実現するための重要な鍵」であると述べられています。

 教員は最前線に立ってESDを実践し、新たな発見・学習法の展開に努めています。ESDは初等・中等教育を受ける子どもたちの、「必要な情報に基づいた意思決定を行い、責任ある行動を取るための力」を育みます。その力が現在、そして次世代において環境保全、経済発展、公正な社会を実現するでしょう。具体的に意識すべき点として、次のような内容が挙げられます。

●学習内容・・・気候変動、生物多様性、減災・防災、持続可能な消費と生産などの重要項目カリキュラムに盛り込む。

●教育法・・・双方向型、学習者中心型の授業設計を行い、探究的かつ実際の行動を促し、子どもたちの意識変容を促す学習を実践する。

●学習の見直し・・・物理環境とバーチャル環境双方の変容を図り、学習者に持続可能性を実現する行動へ導く

●社会の変容・・・学習者の年齢や教育環境にかかわらず、自分自身や自らの属する社会の変容を図る力を育む。

 ESDの促進・実践を目ざすユネスコにとって、ESDの長年にわたり率先して活動してきた日本は大切なパートナーです。国内で数多くのユネスコスクールが連携し、気候変動や環境問題に重点的に取り組んでいる例が示すように、日本は国家レベルでESDを推進しています。

 ユネスコと日本のバートナーシップは、国連が定めた「ESDの10年」(2005年〜2014年)を機に誕生しました。以来ユネスコは、8本のサポートを受けて、気候変動、減災、防災、生物多様性の分野で意義ある活動を進めてきました。2014年、愛知県名古屋市で開かれた「持続可能なための開発のための教育に関するユネスコ世界会議」で「ESDに関するグローバル・アクション・プログラム」GAP‥2015年〜2019年)が発表され、同時にユネスコ/日本ESD賞が創設されました。

 この賞は革新性に優れ、強い影響力を持つESD関連プロジェクトを創出した機関や団体に贈られるもので、卓越したESD実践例を世界に示す有効なツールとなっています。

 GAPが2019年に終了したことを受けて、新たな枠組み「持続可能な開発のための教育‥SDGS実現に向けて」(ESD for 2030)がユネスコ加盟国の間で合意されました。この新たな取組みはESDがもたらす変容に重点を置き、持続可能性の高い社会の実現を目指すものです。

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 学習内容や学習形式、教育と社会の関係に一層深い変容を促進し、日々の生活様式や開発のあり方にパラダイムシフトを起こす。このような変化を通して、持続可能な開発を志向する文化を涵養(かんよう・自然にしみこむように、養成すること)することを提唱しています。

 この枠組みを着実に実践してゆくため、加盟諸国が強いリーダーシップを発挿することに大きな期待を寄せています。事態は急を要しています。これからの10年は、行動、献身、革新の10年にしなければなりません。それは政府の力だけでできることではなく、子どもを含め、一人ひとりの参加が必要不可欠です。子どもの力こそ、世界の新たな力となります。誰もが持続可能な開発を自分自身の問題として考えることができるよう、私たちは声を大にして訴え続けなければなりません。

 ESDは、持続可能な未来に向けて教育の変容を促すことを大いに期待されている取組です。

■教育現場でのSDG〜実践は学びのプロセスがポイント!

▶︎学びのプロセスを進めていくことで知識を深めるだけでなく、時代の変化にも対応しうる「自分で考え行動する力」が養われる。

 全く新しいことを始めようとすると難しく感じるかもしれないが、5DG〜達成に通ずる活動はすでに実践されていることが多い。まずは過去に行われてきた校内の活動を洗い出し、見えてくる自分たちの強みと課題から、未来のプランを考察していくことが、プロジェクトの持続性という観点からもよいだろう。

▶︎ 現場を巻き込みSDGS達成にふ鈍けた意識改革を

 ここまでをプロジェクトメンバーが主体となってまとめ上げたら、次のステップは学内におけるSDGsに対する考えの浸透である。今後の取り組みについて情報を発信し、教職員に向けた勉強会などを実施することで、方向性の共有とSDGsへの正しい理解を目指す。

 日常的にSDGsを考えるきっかけをつくることも、意識を浸透させるうえでポイントだ。例えば、人が多く出入りする場所にポスターを貼ったり、名札などのよく日にするツールにSDGsのロゴを記載したりするなど、日ごろから意識する機会を増やす。また、節電・節水などSDGs達成に向けて個人でできる取り組みを交え、簡単なところから行動を促すことも手段として有効である。

▶︎持続可能な社会づくりの担い手を育む教育とは

 いよいよ、SDGs教育の実践編に入る。大前提となる目標は、SDGsが掲げる世界の理題を、子どもたち一人ひとりが「自分事」として考え、行動する姿勢を育むことである。

 子どもたちにとって、SDGsは聞きなれない言葉であり、日常とはかけ離れた世界の出来事として捉える傾向にある。恵まれた環境で生活を送る中では当たり前なのかもしれない。しかし、世界の課題を「自分事」として考えられるようになると、何んで行動を起こそうという意識が生まれる。このような意識を育むためにも、地球上で起きているさまざまな課題の重要性を認識し主体的に学び合う環境が必要である。その過程の中で、行動するための能力や態度を、他者との協働を通じて育んでいく。

▶︎ まずは身近な事柄から世界を考ぇるテーマ設定を

 SDGSの課題は環境問題からジェンダー、食糧問題、経済問題など多岐にわたるが、まずは身近なところから、子どもたち自身にテーマを探らせるのがよいだろう。そうして見えてきた問題から、世界規模の課題へと視野を広げてあげることが理想である。

 例えば、「身の回りにある問題から、社会の課題解決を考える」というコンセプトで課題に取り組んでもらうとする。まずは、子どもたちが関心のある身近な問題を調べさせ、グループで共有させる。それらをSDGsの17の目標と結び付け、取り組むテーマを決める。次に、そのテーマに関する社会の動きを調べ、課題解決における問題点を明らかにしながら計画を考えさせる。そうしてまとめた計画の下、企業に向けて提案したり、地域の活動に参加したりと実行に移す。実行の後は、担当教員だけでなく外部の関係者などからもフィードバックをもらい、次の行動につなげていくことも重要だ。

 ここで大切なのは、「調べる」→「考える」→「計画する」→「実行する」→「振り返る」という学びのプロセスである。自ら考え、起こした行動に対する社会の変化や反応を認識することで、自分たちの行動が世界の課題解決につながるという意識を育む。また、自身の行動を振り返ることで、次のステップを考える姿勢が養われていく。子どもたちの学ぷ意欲を思う存分生かせる環境づくり、こうした学びのプロセスにおいて、能動的に学ぶ機会が随所にある。そこで、子どもたちの選択肢をできる限り広げ、深く学ばせるために取り入れたいポイントが3つある。1つ目は多様な分野の外部知識を動員すること2つ目は国際的に連携すること。3つ目はICTを効果的に用いることだ。

 例えば、子どもたちが設定したテーマの事例について調べ学習をする際、その分野に詳しい企業や団体、専門家から直接学びを得る機会を設ける。また、国内外問わず、現地を訪れて学ぶ機会を設けることで、社会や世界を身近に感じるきっかけになり、外の世界へ向ける意識の変化につながる。また、学習中にタブレット等の情報機器をすぐに活用できる環境を整えれば、知りたい・学びたいという意欲を、自分で調べるという行動に直結させることができる。

 こうした環境では、子どもたちは学校内外の多様な人と関わる。人との関わりを通じて相手の立場に立って考える力や思いやりの心を育み、人と人、人と社会とのつながりを実感しながら、自分たちの足でこれからの社会をどう生きていくかを学んでいくのである。

▶︎子どもたちの成長のように教育現場も常にアップデート

 学内でのSDGsの推進や教卓現場での実践について、順を追って紹介してきたが、必ずしも一筋縄ではいかないことも出てくるだろう。そこで諦めたり、中途半端にやりっぱなしにしたりすることではなく、定期的に自己点検し試行錯誤を繰り返し、アップデー卜していくことが重要である。

 学校として学びの場を充実させていくためにも、子どもたちとともに学び合い、成長していく姿勢が、これからのSDGs教育で必要となっていくだろう。

SDGs達成のための「行動の10年」を迎えて 

 2020年1月、SDG5達成のための「行動の10年(Decade of Action)」がスタートしました。少しでも「5DGs教育の教育業界への波及」「SDGsの認知拡大・浸透」「特に若年層に対する5DGs教育の重要性の啓発」、そして「教育関係者がSDG5教育を実践するための手引書」としての役割を担い、さらなるSDGs教育推進の一助となることを願います。SDGsやESDを、教育関係者や学習者にとって義務感や負担感をもたらすものにせずに、持続可能な社会の創り手を育みましよう。

監修・関西学院千里国際中等部・高等部教諭 米田謙三。