オラファー・エリアソン

■デンマークの現代美術家“オラファー・エリアソン”

長谷川祐子

 2008年NY市イースト川に突如巨大な滝が現れた。滝をつくった男の名は、今世界が注目する現代美術家オラファー・エリアソン。彼はなぜ滝をつくり、どう作品を生みつづけているのか。金沢21世紀美術館をはじめとする彼の出展作品、さらにはドイツにあるスタジオの貴重な映像。アメリカ・ドイツ・アイスランドなど、創作や講演で世界中を駆け巡る姿にもフォーカス。

 オラファーが視聴者に語りかけながら行う視覚的実験や、日本にほぼ文献がない彼の芸術論は必見。“視覚と知覚”、“自然と人工”、“理論と哲学”、“主観と客観”。さまざまな概念の境界線を、巧みな言葉で飛び越え展開される彼の理論は、芸術論にとどまらず、人間の本能を揺さぶるに違いない。

▶︎オラファー・エリアソンとは

1967年デンマーク生まれの芸術家。王立デンマーク芸術アカデミーで学び、現在はベルリンとコペンハーゲンを拠点に活動する。2003年にロンドンのテート・モダンで人工の太陽と霧を出現させた個展「The Weather Project」を成功させ、世界中に衝撃を与えた。ヴェネツィア・ビエンナーレにも複数回参加し、欧州の主要な美術館で個展を開催。
空間、光、水、霧などの自然界の要素を巧みに用い、観客を含む展示空間そのものに作用するインスタレーションを数多く生み出している。近年では、ヴェルサイユ宮殿に滝をモチーフにしたインスタレーションを制作した。一方、日本でも東京・原美術館や、金沢21世紀美術館で個展を開催。個展のほかにも、瀬戸内国際芸術祭2016ではベネッセアートサイト直島の一環として「Self-loop」を発表し、2017年8月4日から開催されるヨコハマトリエンナーレ2017では「Green light」が出展される。

▶︎オラファー・エリアソン(1967年生)

 アートを介したサステナブルな世界の実現に向けた試みで、国際的に高い評価を得てきました。エリアソンの生可能エネルギーへの関心と気候変動への働きかけを軸に構成されます。それは展覧会のタイトルにも反映されています。エリアソンは言います。「〈ときに川は橋となる〉というのは、まだ明確になっていないことや目に見えないものが、たしかに見えるようになるという物事の見方の根本的なシフトを意味しています。地球環境の急激かつ不可逆的な変化に直面している私たちは、今すぐ、生きるためのシステムをデザインし直し、未来を再設計しなくてはなりません。そのためには、あらゆるものに対する私たちの眼差しを根本的に再考する必要があります。私たちはこれまでずっと、過去に基づいて現在を構築してきました。私たちは今、未来が求めるものにしたがって現在を形づくらなければなりません。伝統的な進歩史観を考え直すためのきっかけになること、それがこうした視点のシフトの可能性なのです。」

 オラファー・エリアソンは1990年代初めから、写真、彫刻、ドローイング、インスタレーション、デザイン、建築など、多岐にわたる表現活動を展開してきました。本展は、エリアソンの代表作を含む、多くが国内初公開となる作品の数々で構成されています。自然現象を再構築したインスタレーション光と幾何学に対する長年の関心が反映された彫刻、写真のシリーズ、ドローイングと水彩画、公共空間への介入をめぐる作品等が展示されます。

 エリアソンは、幼少期に多くの時間を過ごしたアイスランドの自然現象を、長年にわたり撮影してきました。《溶ける氷河のシリーズ 1999/2019》(2019年)は、過去20年間の氷河の後退を鑑賞者に体感させます。また、私たちと自然との複雑な関係をめぐる思考が反映されたエリアソンのインスタレーションは、光、水、霧などの自然現象をしばしば用いることによって、周りの世界を知覚し、世界をともに制作する方法について、私たちひとりひとりの気づきをうながします。さらに、本展覧会では、最初期の代表作として、暗闇の中に虹が現れる《ビューティー(1993年)をご紹介します。アトリウムの吹き抜け空間では、大規模なインスタレーションが本展のために制作されます。

 スタジオ・オラファー・エリアソンの活動は美術作品の制作に限定されません。スタジオでは日々、実験とリサーチ、コラボレーションによって、さまざまなアイデアやプロジェクトが開発されています。本展覧会では、サステナブルな生分解性の新素材やリサイクルの技術に関する近年のリサーチの一部をご紹介します。

 展覧会カタログには、本展キュレーターの長谷川祐子による論考と、エリアソンと哲学者のティモシー・モートンとの対談が収録されます(2020年4月24日先行発売予定 / 発行:フィルムアート社)。詳細はこちら

 オラファー・エリアソンの名を世界に知らしめたのは、映画の中でも紹介されるロンドンのテート・モダンに巨大な人工太陽を出現させた2003年の作品The weather project』だ。1995年ヴェネツィア・ビエンナーレに初参加以来、シドニー・ビエンナーレ、サンパウロ・ビエンナーレ、横浜トリエンナーレなど、世界的な国際展に招かれ、欧米の主要美術館で個展を多数開催し続けている。

 「アートは世界を変える一手段であり、人は世界を変えることができる
これは、オラファー・エリアソンの哲学であり、彼の作品と生き方に貫かれている。
2012年から取り組んでいる携帯用のソーラーLEDランプ『Little Sun』プロジェクトでは、アフリカや南米の人々の暮らしを豊かにするために様々な事業展開を行っており、2015年にパリで開かれたCOP21(気候変動に対する基準を定めたパリ協定を採択)に合わせてグリーンランドのフィヨルドからパリのパンテオン前へ運びこんだ80トンの氷塊の作品『Ice Watch』では、地球温暖化の問題に一石を投じた。

■作品例

▶︎再生可能エネルギーへの関心と気候変動への働きかけを軸に構成

▶︎空間、光、水、霧などの自然界の要素を巧みに用い、観客を含む展示空間そのものに作用するインスタレーション