ゲノム編集食品
■ゲノム編集食品
▶︎ゲノム編集食品、ルールは?
肉の多い牛・芽に毒ないジャガイモ… 厚労省で議論開始
生き物の遺伝情報(ゲノム)を変える「ゲノム編集」。自然に起きる変異と区別できない技術を応用して様々な農水産物の開発が進む中、厚生労働省は19日、食品としてのルールづくりを始めた。実用化への期待がかかる一方、安全面への慎重な声もあがる。
筋肉量を抑える遺伝子を壊して肉量を多くしたマダイや牛、芽にログイン前の続き毒がないジャガイモなど消費者や作り手にメリットがある品種が、続々とつくられている。米国農業大手も参入し、開発競争は世界的に激化。こうした状況を背景に政府は6月、統合イノベーション戦略を閣議決定し、技術を早く活用させようと厚労省、環境省に法令上の取り扱いの明確化を求めた。
ゲノム編集は、遺伝子が載ったDNAを狙った場所で切って変異を起こさせる。DNAを切る材料に遺伝情報が含まれるため、作業中は遺伝子組み換え=キーワード=と同じ状態になるが、取り除ける。このため最終的には、自然に起きた突然変異と区別できない状態をつくれる。
農業分野では遺伝情報を変える手法として遺伝子組み換えがあるが、法令で規制されている。一方、最終的に外部の遺伝子を含まなければ、遺伝子組み換え食品の定義にあたらず、ゲノム編集の使い方次第で、「規制外」の食品をつくれることが課題だった。
厚労省が19日に開いた調査会では、今後こうした食品が市場に出てくる状況に備え、今年度末までに必要なルールの検討を進めると決めた。
一方、環境省では7月から生物多様性を守るカルタヘナ法上の位置づけを検討してきた。専門家会合は8月、ゲノム編集を使ったが外部の遺伝子が残っていない動植物を規制対象外とする方針案を了承。
だが、外部の遺伝子がないと確認された生物でも「法に準じた形での取り扱いが必要」との意見も相次いだ。このため、環境省は当面の措置として、こうした生物を屋外で栽培、飼育する際、改変した遺伝子や在来種への影響といった情報を事前に提供してもらう方針。
■「利用拡大で農業を転換」「思わぬ変化生じる懸念」
「卵アレルギーの人でも食べられる鶏卵」の開発に、広島大の堀内浩幸教授(応用動物生命科学)は、企業と取り組む。アレルギーの原因として、影響が特に強いとされるたんぱく質の遺伝子をゲノム編集で壊す戦略だ。卵アレルギーの息子がいる堀内さんは「世に出せれば、アレルギーに悩む本人や親のためになる」と話す。
堀内さんは、鶏のオス、メスの産み分けにも挑む。性別を決める仕組みの研究を進め、性別決定に関わる遺伝子を特定して、働きを操作しようとしている。鶏卵業者は卵を産むメスを、鶏肉業者は体が大きくなるオスを必要とする。「業者が求めるヒナを提供しやすくなる」と期待する。
研究開発は「CRISPR(クリスパー)/Cas(キャス)」という、より簡単な技術が近年に登場して急速に進んでいる。農研機構の田部井豊・遺伝子利用基盤研究領域長は「ゲノム編集の利用範囲は広がり、農業の転換点を迎えている」と話す。
扱いについて推進派、慎重派と意見は分かれる。日本ゲノム編集学会会長の山本卓・広島大教授(ゲノム生物学)は「(作業終了後にDNAを切る材料を)除去できたか確認が必要だが、最終的には自然に起きる突然変異とほとんど変わらない。安全性が確かめられればどんどん食品として扱っていくべきだ」と話す。
一方、北海道大の石井哲也教授(生命倫理)は遺伝子を壊すことで思わぬ変化が生じたり想定外の場所を切ったりして、アレルギー物質などができる可能性を指摘。「単に安全だと宣言するのではなく、成分分析などでリスクの程度を示しつつ、国民に丁寧に説明する姿勢が大切だ」と主張する。
日本消費者連盟は8月、安全性が未確立だとして、遺伝子組み換えと同等の規制を求める意見書を政府に提出している。(福地慶太郎、川村剛志、阿部彰芳)
◆キーワード
<遺伝子組み換え食品>
農薬や害虫に強い性質などを持つ遺伝子を別の生物から取り出し、農作物に取り込ませたもの。自然には生じない生物となり、予期せぬ毒性や生態系への影響が生じる恐れもある。栽培や輸入には、カルタヘナ法に基づく国の承認や食品衛生法での安全性審査が必要。国内では商業用に栽培されていない。
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