蔡國強

■蔡國強

いわき市立美術館

  蔡國強は1957年中国福建省に生まれた作家です彼は1986年に来日して以来、東京をひとつの拠点としてフランスでの「中国明日展」やドイツにおける「胎動Ⅱ」、さらに中国での「万里の長城を1万メートル延長するプロジェクト」など世界各地において、従来の枠組に収まらない壮大なアースワークを繰り広げ、欧米は勿論、日本においても高い評価を得ております。

 彼は昨年11月上旬よりいわき市内にアトリエを構え、長期間滞在することにより地域の人々と交流を持ち、またその地域において入手した素材をもとに作品を発表することを今回の展覧会の基本に据えています。それは、地域とは無関係な一過性の作品をただ美術館という場所において機械的に発表するというこれまでの展覧会システムを反省し、≪なぜ”いわき”において作品を発表しなければならないのか?≫という展覧会開催の根本的な問題に対する答えとして、そこに住む人々と同じ空気を吸い、その地に関連したものを通して、作家と地域とのより密接な関係から生まれるものを作品として表現することを目的とし、最終的に共同体としてのいわき、あるいは太平洋、さらには地球そのものを見詰め直すというコンセプトがその作品制作を支える基本的な考えとなっている。

 太平洋に面しているいわきの地理的特性を考慮し、太平洋に関連した素材(船、魚)を生命と文明の象徴としてとらえ、これまでに廃船や流木などが作品の素材として収集されている。ただでさえ存在感のある風化した廃船や流木を、美術館という閉鎖された空間の中で作品としてどのように変貌させるのか・・・そこに作家としての葉の力量が問われるとともに、これまで火薬を用いた一過性のプロジェクト、あるいはパフォーマンスとしてのイメージが先行していた蔡國強の新たな一面が展開されている。

1994年・いわき市立美術館