自治会の集金

■「寄付」なのに断れない 自治会の集金、住民の悩みの種

 「町内会には寄付という名の強制金がある。断る勇気がない人もいる」。昨年9月下旬、朝日新聞のフォーラム面で「自治会・町内会」の特集を始めてすぐ、松山市の女性(50)からこんなメールが寄せられた。

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■アンケート結果:自治会・町内会は必要?不要?
 一家は転勤族で7年前に引っ越してきた。この地域は、代々この地に暮らす旧住民と、一家のような新住民が入り交じっている。

 入会時に町内会から6万円を求められ、驚いた。地区の組長に聞くと、集会所の負担金と言われた。以前住んでいた愛知県春日井市では、自治会の入会金は2千円だった。

 ほかにも町内会から支払いを求められることが多かった。例えば、地区の社会福祉協議会(社協)の会費年300円、公民館の地元負担金年800円。年2回ある地域の水路掃除に不参加の場合は1回2500円の「出不足金」が課されることもあった。

 いずれも組長が家に徴収にやってきた。払わなくてもいいのかどうか。はっきり分からず、断りづらかった。「寄付は決まりです」と言われることもしばしば。寄付自体が嫌なのではない。途上国支援団体に月4千円を寄付している。「町内会に強制されるのはおかしい」と次第に断っていった。

 退会を決意し、町内会長に伝えたが難色を示されたため、弁護士に相談した。内容と配達を証明できる形で退会届を郵送した。その後、町内会側からは音沙汰がない。

 「新参者の自分だけでは町内会のやり方自体を変えることは困難。寄付の拒否や退会に踏み切りたいが、人目を気にして、できない人もいる」と感じている。

 このほか、自治会に払った会費が気づかぬうちに寄付に充てられているという声も、朝日新聞に寄せられた。

■「みんなが嫌な気持ち」集める側も負担

 班長が各世帯を回って日本赤十字社の会費などを集めるやり方をやめた自治会が千葉県佐倉市にある。

 14年前、当時自治会長だった内野光子さん(75)によると、市外から引っ越してきた女性が役員会でふと、「社協の会費って何?」と漏らしたことがきっかけだった。役員会で話題にしてみると、「集める人も、集められる人も、嫌な気持ちになる」とみな思っていたことがわかった。

 そこで考えたのが大判の封筒を使う方法だ。誰がいくら入れたか分からないように封筒のお金を入れるところだけ開けておき、隣の家に回す。封筒の表には寄付するかどうかも、金額も自由と書いた。

 ただ、こうした方法が周りに広がっているわけではない。内野さんは、封筒方式を実現できたのは当時、役員10人のうち女性が6、7人を占めていたからだと思っている。「リタイア男性中心の『オヤジ自治会』や、同じ人が長く居座る『ボス自治会』では改革が難しい役員に主婦がもっと入らないと変わらない」

■自治会費に一括するジレンマ

 寄付や会費集めを自治会に依存するのは、他の方法では集まらない現実があるためだ。例えば毎年10~12月に行われる赤い羽根共同募金は、各世帯からの戸別募金が総額の7割を占め、法人募金は1割に過ぎない。

 だが、中央共同募金会が2005年に実施した全国意識調査によると、寄付した際に「強制感を感じた」人は11%で、大半が戸別募金のときと答えた。各世帯別に募金の金額の目安を示されることについても半数が「強制的に感じる」と回答した。

 一方、自治会を通じた寄付は、寄付する側だけでなく、組長や班長ら集める側にも負担をかける。寄付金を会費から一括徴収する自治会が少なくないのは、その負担を軽くするためだしかし、自治会頼みでお金を確保できる半面、自発性が育まれない。そんな長年のジレンマが続いている。

■赤十字の資料

▼社費は毎年納めなければいけないのですか?

赤十字の活動や理念にご賛同いただき、「社員」にご加入いただいた皆さまには、毎年500円以上の「社費」を納めていただきます。

赤十字の事業は、継続的に行うことが必要な事業であるため、こうした社員の皆さまからの継続的なご支援、つまり社費によって支えられているのです。しかし、社員への加入や退会はご本人の自由意思によるものであり、強制的なものではありません。

▼社費の募集に、なぜ町内会の人などが来るのですか?

赤十字の活動は、地域福祉やボランティア活動など地域に根ざした活動を行っており、また、災害が発生すると、自治体や地域住民の方々と協力して救護活動を展開するなど、赤十字の活動は地域と密接なかかわりを有しています。

こうした活動を支えていただくため、地域の皆さまには、社費へのご協力をお願いしているのですが、その際、赤十字ボランティアが直接お宅を訪問しお願いに伺うほか、それが困難な場合には、自治会・町内会の方々にご協力をお願いする場合があります。

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■大阪の橋下市長が日本赤十字社の資金集めを拒否

 2012年5月、大阪の橋下市長が日本赤十字社の資金集めへの協力を取りやめるというニュースが報じられました。橋下市長は、知事時代にも知事が慣例として就任する日本赤十字社の大阪支部長を辞任していますので、その流れに沿ったものなのでしょう。

 このニュースでは、背景として「日本赤十字社はほとんどの自治体に資金集めをさせている」「自治体が日本赤十字社の資金集めへの協力を拒否するのは異例」といった実態も報じられ、日本赤十字社の資金集めの手法に疑問を感じた方も多いのではないでしょうか。

 調べてみると、実際に多くの市町村では市町村長が日本赤十字社の末端組織の長(地区長、分区長など)に就任しているようです。しかも、市町村長が町内会組織に「日本赤十字社の資金集めへの協力」を要求して(要は、町内会の会員を日本赤十字社のために集金に回らせるなり町内会費から日本赤十字社に金を差し出せ、というわけです)、強制的な動員や徴収が横行し問題になっている地域も少なくありません。この問題は、今に始まったことではなく昔からの構造的な問題なんですね。

その前に、実際上今あなたは賛助員という賛助の制度をおっしゃられましたが、私たちもいなかに住んでおりまして、赤十字募金というものが町内に割り当てられてくる。そういう実態を知っているのです。そうしてその中では今あなたの言われたような趣旨というものは少しも徹底していない。

つまりこれは機構にも関係してきますが、あなた方の社長、それから副社長理事、また各支部に――支部長はおおむね知事さんが多い、それから区長とか分区長というのですか、市町村長さん、そういう行政の縦割りだけでやっておられるので、自治的な公共的な要素が少ないのです。

あなた方も赤十字精神にほんとうに立脚した活動方針がないために結局末端にいっても広がっていかない。
(第037回国会 社会労働委員会 第2号1960/12/15)

 橋下氏のように「日本赤十字社の資金集めに協力しない、日本赤十字社の役員にも就かない自治体首長」は、異例なのでしょうか? 慣例となっている「協力」を拒否した橋下市長と当然のように自治体(というより町内会組織)に資金集めをさせる日本赤十字社のどちらが「おかしい」のでしょうか?

 日本赤十字社の都道府県支部では知事が支部長に就任し、役員の多くも天下りや現役の都道府県役人。そして市町村では市町村長が地域の役員に就任し、自治体(の要求を受けた町内会、つまりは一般市民)が強制的に日本赤十字社の資金集めをさせられる……日本赤十字社が掲げる「独立」「中立」というのは、誰からの「独立」で何に対して「中立」の立場に立っているのでしょうね。


■赤い羽根募金は強制徴用?

 2013年も赤い羽根共同募金の時季になりました。テレビなどで街頭で寄付を募る「街頭募金」のイメージ映像が流されているせいか、赤い羽根は民間の募金運動と「誤解」されることもあるようです。 スクリーンショット(2016-02-21 13.22.13)

 実際には、赤い羽根共同募金は集金額の大半を町内会(自治会)組織に集めさせる「戸別募金」で集めています。この戸別募金では、市町村長や役所など行政側が町内会/自治会に世帯毎の割当額を示して集金指示を出し、住民を強制的に徴用する形で徴収業務を行わせているのが実態です。

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 「町内会の当番」として、赤い羽根共同募金の取りまとめや徴収業務を強制されたり、断りにくい雰囲気の中で割当額を強制徴収された経験をお持ちの方も多いことでしょう。町内会費に割当額を上乗せ強制徴収している町内会もあり、裁判で違法判決が出されたこともあります。

 募金とは、募金団体の呼びかける趣旨に賛同する人が自ら自由に募金ボランティアとして参加する形で寄付を募るものです。あくまでも募金団体とボランティアの自由な協力関係において、行われるものでしょう。

 しかし赤い羽根共同募金は、募金団体が自ら呼びかける募金ではなく町内会の徴収業務にすり替えられています強制ではない、と言いながら町内会に集めさせることで「町内会の当番として徴収に回らないといけない」「断りにくい町内会の集金で、割り当てられた要求額を差し出さないといけない」状況に追い込むわけです。

 赤い羽根に協力しないというのなら、裁判でも起こすなり町内会の総会で反対意見を通してみろと。「募金運動に協力したい人が、自ら募金団体に協力する」はずのものが、「募金運動に協力したくない人は、募金団体ではなく行政や町内会に対して気まずい/やりにくい特別な行動を起こさないといけない」という完全に逆転した脅迫システムが作られてしまっています。

 赤い羽根共同募金は、賛同者が自由に集まって展開する「民間の募金運動」とは正反対の行政の圧力を背景とする強制徴用、恐喝システムになっているわけです。募金団体との自由な関係ではなく、行政・町内会との断りにくい関係にすり替えて無理やり巻き込み「協力」させる……赤い羽根共同募金の脅迫的な強制構造は、1947年の開始直後から各方面で問題になって来たのに、60年以上もの間ずっと抗議も無視して強制的な手法を続けているんです。

 赤い羽根共同募金を主導する社会福祉協議会は、自治体が出資する役人組織(市町村の関連団体)です。また、町内会に「寄付」「会費」名目のみかじめ料を集めさせる形で住民を強制動員する手口は、赤い羽根の他に日本赤十字社や交通安全協会(免許更新時の納金時そのばで断ればよい)などの天下り団体も広く行っています。こうした役人組織や天下り団体が、一般市民を自らの資金集めに強制徴用する仕組み、もうやめさせませんか? そのためには、おかしいと思う人が声を上げることが大切です。

 ネットで「募金 強制」「町内会 寄付 強制」といったキーワードで検索すると、既に多くの方が町内会を通した強制徴用に抗議する書き込みを行っているのがわかります。あなたも疑問を感じる点があれば、ネットで発言したり社会福祉協議会や行政などにはたらきかけてみませんか?市民の側が少しずつ声を上げていけば、やがて大きな動きになり変えていけるかもしれません。