中川政七商店新社屋

Nakagawa Office

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吉村靖孝建築設計事務所

 伝統工芸品の生活雑貨を扱う老舗ブランドの本社屋。郊外に建つものの、駐車場を裏手にまわして道路沿いにファサードを設け、旧市街の町屋にも似た 短冊状の平面によって、賑わいと静けさを両立した。周囲の家並みから連続する勾配屋根は、光の状態に変化をつけるための高低差と、火災時の煙を自然に排出 するための傾きによって、不均質なオフィス空間をつくり出している。町と人に育まれる伝統工芸の会社ならではの仕事場となった。

設計

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2014年日本建築学会作品選奨

 「中川政七商店新社屋」は奈良市郊外に位置し、「駐車場が街と建物を分断している郊外風景に対する提案」と説明される作品である。郊外型施設の多くは道路に面して駐車場を設置するため、建物が敷地奥に後退し周囲に対して顔を作ることができない。そのような施設が連なり、道路と駐車場が間延びして広がる郊外独特の風景ができあがる。本作品では、ストライプ状の建物を緩いカーブを描く道路ぎりぎりまで配置し、そのカーブで断面をすとんと切り取った外観で顔を作っている。その外観は、隣接する戸建て住宅の並びと奈良旧市街地の町屋をモチーフとしており、高さ、幅、色彩が異なる変形切妻の6棟が連結し構成される。郊外のとりとめのない風景に、そのコンテクストを読み取りつつも、企業のアイデンティティを埋め込んだ情景を作り出すことに成功している。

 また、本作品において評価したいのは徹底したスタディに裏付けられた合理性である。平面的には6棟がストライプ状に並んでいて、およそ執務エリアと倉庫エリアが交互に現れる。ストライプ状に配置し、カーブを描く敷地境界に沿って切り取り、そこに生じた不整形な部分を主要動線に当てている。執務エリアの天井高を高く、倉庫エリアを低く設定し、その差を利用してハイサイドライトを設け、明暗の差をつくっている。平面図から強引な配置にも読み取れるが、実際に現地を訪れてみると、執務空間といってもデザインセクションであったり、倉庫はそのデザインセクションで使用するサンプル生地が収納されていたり、機能上非常に素直に解かれていることがわかる。断面的には、変形切妻の内部に片流れの天井が貼られており、屋根と天井のずれから生じた空きに、排煙や設備などが配置されている。

 構造は、各棟に属する2本の柱を平材で剛につなぎ、フィーレンデール構造の組柱により一体化されている。組柱により材の統一化が図られ、コスト縮減と壁ディテールの統一、施工合理性が確保された。これらは、ローコストに対応したもので、建築の構成、構造、材料の選択など、全体にわたって合理的に解かれている。
コンセプトが明快で単純な構成の作品には、デザイン密度が追いついていないケースも散見されるのだが、インテリアについても十分な検討がなされており、そこから導かれたデザイン密度の高さも評価したい。家具や照明のいくつかは設計者のデザインによるもので、サイン計画は施主企業のCIを手がけるグラフィックデザイナーが担当している。これらが合わさり、心地の良い執務空間が作り出されている。
よって、ここに日本建築学会作品選奨を贈るものである。

中川政七商店新社屋

吉村 靖孝((株)吉村靖孝建築設計事務所代表取締役)

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