■川合健二・スクラップド・アンソロジー
■川合健二・自宅を語る
出典:『建築(中外出版)1970年5月
▶︎楕円形と六角形
4年5カ月ぐらい前から住んでいます。このワクをつくってからは、8年ぐらいになります。初め、まわりだけつくったんです。初め、南と北の妻側(ボックス・ガーター・桁一つ構造を表現する用語。)を、どうしていいか考えつかなかったんです。それと、金属は膨張するということはわかっておりますので、その膨張をどこで逃すか、ということがテーマだったんです。それができたとしたら、そこにガラスをはめなければいかんということになる。そうしないと、あかがとれなくなってしまう。そうすると、ガラスの膨張と金属の膨張とは等しいということではあるが、太陽の光というものは、必ずしも、一定方向からくるわけではないので、ガラスの膨張と金属の膨張とが一緒になるとは言えないので、たとえば、網入りガラスの場合にはガラスと網とが一緒に入っているので、比較的、ガラスと金属の膨張も等しい、ということを利用しながら、網が入ったということは、確かに合理性があります。しかし、1枚のガラスと、壁としての金属、というものに対しては、必ずしも一定であるとは言えません。それで、そのことを考えるために、まる2年かかった、と言えるかと思います。
デザインは、わかりませんけれど、1つの楕円形の中に、常識的にいいますと窓というものは四角いものですから、それをはめようとするとバランスが悪くなる。そうすると、たとえば、画家が描いた絵で、楕円形というものがあったとしたら、その楕円形の中にどんなものを描いたら楕円形と四角のものとの調和がとれるか、というふうに、美術の本をいろいろ買ってきました。
それでも、どうしてもバランスがとれないので、今度は、人間のことを考えてみますと、たとえば、日本でいいますと、女の人が、矢がすりの着物を着たり、丸帯に六角形の柄があったりします。それは、亀の甲をあらわすから縁起のいいもので、お祝いにつかうものです。女でも男でもそうですが、体が曲線をあらわしておるわけですから、曲線と楕円というものが、しろうととして考えた場合、ほかのものより、もっと合理性があるのではないかということを2年ほどたってから気がついて、それをら鉄で六角形をつくろうということになったときに、ちょうど鉄板が、5尺、6尺というものが、市販されてありますので、1辺1尺で断面が箱型で至るもの。曲げますと丁度六角形ができます、それを4つに切って、7寸5分の6尺ということにいたしまして、六角形を曲げたわけです。
次に、台風に対しても考えなければいけませんので、1辺が1尺の六角形というのは、半径が6尺の円の中に外接しますので、そうすると、2尺×2尺平方のガラス1枚がありますと、その六角形の中にはめることができます。そうしますと、ガラスは、現在の状態では、小さなガラスはど単価が安いので、ガラスを取り扱う場合に、2尺角のガラスは、1枚280円こそしてその平面をもつガラスは、3ミリ厚で、風速55メートルに耐えられる、という計算が出ますので、これをつかった。そうすると、あとの六角形の表面積は、屋根で受けた熱と、壁として受けた熱と放熱するだけの総面積があればいいのではないかということで、このように南北の壁をつくったわけです。そうすると、一応、六角形を連続に組み合わした、ということになりますので、約266個ございました。その六角形の組み合わせは、お互いに、あらゆる角度の方向に引っ張りをとっておることになります。放熱と建物の筋かいを連続に入れた、という形になりましようか。そして、ガラスがはまりますので、これならガラスがいたまずに、落ちずに済むのではないか、というふうに考えたわけです。
いまは、南のほうを明けてないのですけれども、これだけテントがありますところだけに、南を明けるつもりでいたわけです。そうしまして、これを明けたら、アトリエのように明るくてやりきれないんです。あまり、あかりが入り過ぎるわけです。このぐらい明けておくと、解放空間があって、いいんじゃないかと思って、デザインでなしに、これだけを明けたんです。と申しますのは、六角のこちら側から、鉄板を張り詰めたということは、1つの「ボックス・ガーダー★」ということになりますので、構造的にいきますと、六角を張り詰めるということは、一番強度が出ますので、それならこれは柱ではないのですが、1つの仕切りの場所として、同じアールを描く壁が、1つあるとしますと、ここがないものですから、あそこの壁の強度をますために、こういう鉄板でうしろから張ったわけです。それで張りますと、ちょうど、また、小さな楕円形を描くような構造体のほうが丈夫なものですから、これだけあけようということになったわけです。それで、あけてみたところが、明る過ぎる。私の仕事が、画家などなら明るいほうがよいのですが、私は、ここへきてみて、暗い部屋のほうがいいと思ったんです。自分のしごとの性質からいいますと、朝、昼、晩の明るさの変化もなく、考えることのできる地下室のようなほうがいいんです。
それで、あかりが必要なら、表へ出て行けばいいということで、ここを締めてしまったわけです。
▶︎お住まいを、この場所に選ばれたのは、どういうことですが。
丹下健三さんと別れてから、豊橋におっては不自由だから東京に事務所を持って出てこいと言われたときに、東京に行くと、お金もかかりますし、自分のしたくない仕事を自分のグループのためにしなければならないことになるので、それなら、ここにいたほうが、収入がなくなるかもしらんが、したくない仕事をするよりはいいんじゃないかと思って、何か作って食べていかれるという最少限度の坪数のところにおって、世の中から言われてきたら出ていけるように、ということで、駅からう30分ぐらいで坪数が1,800坪いる。
この1,800坪というのは、農業として家族が食べていかれる最少の坪数です。牛だと3,000坪いります。そして100万円以内で買える所で、以上のようなことを念頭にさがしたらここになったわけです。それで、ここヘきたら、世の中と稼がなくなってしまった。そこで、設計事務所はやらないという決心をしたんです。この土地は、麦が植わっていて、桃の木もあったんですが、比較的安く買いました。坪480円で、1,800坪買えたわけです、ですから78万円ぐらいで買えたわけです。当時、この土地は、山がずっと扇形に囲っているので、風のない、いいところだと思ったわけですけれども、実際は、風が強くて予定がはずれたわけです。そこで、へたな家をつくったら飛んでしまうのではないかと思って、風に抵抗する家をつくろうと考えたわけです。
それで、浅田孝さんとか丹下健三さんとか、そういう人たちの仕事を手伝ってきたわけですから、自分がこんな家に住みたいと言ったら手伝ってもらえるのではないかと思いもし、スケッチを書いていったら、点数をつけてくれて、ある時点までくればなんとかいいものができるのではないかと思っていたわけです。それで、スケッチを書いてもっていったら、100点満点で25点ぐらいしかもらえなかった。それで考え方が違うということで、建築家に相談すべきものではない、自分でやらなくてはしょうがないのではないかと思ったんです。ミリ厚の波板鉄板であるということ 風に抵抗する家ということが1つあるわけですが、そのときにコンクリートの家で2階建てが必要かと思ったので、そうすると、中に9ミリ筋とか12ミリ筋というものが2階建てで50坪の家をつくると、鉄が10トン要り、坪当り200キロ要るということが出てきました。
なぜ、それだけ鉄を使うのならば一建物はそれ自体があまり重いと、そのほうに自分の力がいってしまうわけですから、むだを排除して、鉄だけでつくったらどうなるか、したがって、50坪の鉄筋コンクリートのうちの、中の素材である10トンという鉄を延ばして、それだけで家をつくり、砂利とセメントを一切なくしてしまう、そのときコンクリートが、第3部 川合健ニスクラップド・アンソロジー貝殻のような石灰でできたものならもう少し合理性があるが、コンクリートが火で焼いてつくったものだから、また水を入れて、もとへ戻して固めるときに、割れ目ができてしまうので、コンクリートというものは、土木絹にはいいとしても、建築用には、未完成の素材であるような気がするわけですこそれに対して、プラスティックはのびもいいし、接着性もいいのだけれども、これは火に対して危険性があるこ そういうことから、まだ鉄というものを、もう一度うまく使うことをしなければいかんのではないかと思ったんです。そのとき、鉄とかアルミニウム等の材料を集めてみて、強度からいって、1キロ当たりいくらするかという強度計算の上からみていきますと、鉄が一番安いのです。なぜ鉄が一番安いかといいますと、地球の土の中で、一番多い材料に属するものであるからで、人間の技術がすぐれているから安いわけではない。
そうしますと、しばらくの間は、人間は多いものを使わないと安くならないのだから、鉄をどうしても自分の生活に近づけて、それがうまければうまいほど、建物のコストが安くなるはずだということになる。鉄を使う以上は、鉄自体を角にもっていったのでは、鉄自体の精神に反するわけですから、できればやわらかいもののまん中をふくらまして、そのまま、がらんどうのものにするとか、波板のような鉄板にして、ものを組むとかいうようなことが一番材料として、少なくて済むわけです。しかし、鉄に対するそういう考えがありましてもやはり、ものを改めて注文するということは、事務から始まりますからものが高いわけですので、それなら、いま市販されている波板を使うことが最「短距離をいくのではないかと思いましたので、この波板を市販で買ってきたわけです。ところが、このように曲げてくれるかどうかはわからないので、平の鉄板があって、それに波を打たして、それから曲げるのだそうですので、曲げるためにはどんな角度でもお金を取らないし、自由なんだということを聞きまして、そこで初めて、自分の思った形ができるなあ、ということになったわけです。それで、10トンという制限の鉄の量を頭に置きまして、たまたまこの鉄板が、2.7ミリの鉄板なのですけれどもこれが一番薄い鉄板なんです、その2.7ミリの鉄板に亜鉛が塗ってあるわけですこ けれども、その亜鉛が、一応、1平米当たり175グラム塗ってあると、この鉄板は永久にさびないということが出てくるわけです。これは鉄板1ミリに175グラムの亜鉛を塗っても、あまり効果がないそうです。ある厚さが必要なんです。2ミリを超えなければいけないんです。一戸建ての家に基礎なんかもったいない。
今度は、また別の考えが出てきて、土地というものを、人間が毎年生活して生きていくということは、新しい文明を開いていくために、毎日人間が生きておるのだから、家というものは、50年、60年、100年もつものをつくったところで、今後、要り用でないからこわす、ということが出てくるかもわからんし、個人の家でも、たとえば、都市開発とか、都市計画があったときには、越さねばならんときがあるのに、深く大地に根をおろしてしまうと、越したがらない。人間でも腰を落ちつけてしまったら動かないように、家というものも、基礎を深く掘ると越したがらないので、なるべく、ヘリコプターで運べるぐらいの重量でなければ困るということから、建物に基礎があってはいかん= 基礎がないとすると全体を1つの一体構造にすることになります。そう考えると、そこヘゴムを置いても、砂利を置いても、砂を置いても構造的に一応、地球と縁を切りますと、強度の計算は、地震の計算をしないでもすむ。独立しておるわけですから、そうすると、ただ風の計算だけになってくる。いまちょっと浮かべるのには重量があるものですから動力が要るので、砂、砂利、ゴム等の上に家を乗せれば強度計算が地震に対して、とても楽になる。
これは、高い家をつくる場合は別です、深く大地に根をおろさなければなりません。しかし、一戸建ての家に基礎なんかをつくっておったのでは、それだけのお金がもったいない。むしろ一体構造にして地球から縁を切って、たとえば、水の上へ浮かべてもいいわけです。そういうことと、先ほどの10トンの鉄の量、その量の材料を使うということは、先ほど申しましたように、50坪という家との関連性で考えたことでございます。50坪というのは、一応アメリカへ行っても、ヨーロッパヘ行っても、家の単位としての2ベッドルーム、ベッドルームとかいうときの、いわゆる人間が住むことのできる住宅として世界に標準化した、大きくも小さくもない歴史の上の知恵から出てきた単位ではないか。
日本では、土地が狭いので25坪になるかもしれませんが、世界的に言うと、50坪と言うほうが単位として、そうすると、たとえば25坪ずつということにもなりましょうか。それで、これが2階へということになりますので、ワン・フロアーを3m300といたしまして、2階を入れて、6m600になりますこ それに対して、一番丈夫な構造は球だと思うのだけれども球ですと窓も、ガラスも球にするとか、戸口もいまの直角のものができておる構造体に対して、抵抗するには、あまり高価につき過ぎるものですから、その次に丈夫なパイプ構造、パイプの強度をもちながら2対1の割合になるように、したがって、これが6m600だとしますと13mになります。その中へ先ほどの10トンの鉄が、どんなふうにはまり込むかということをしてみたら、ちょうど2.7ミリで、こんな形ができたわけです。
そうすると、一応鉄の1トンの目方が国際価格で現在、100ドル〜120ドルです。鉄というものはおかしいもので、亜鉛でもすずでもそうなのですが、金は、一応1オンス35ドルといって、国際相場ができているということは、一面ふらつきはします。けれど、あるところで落ち着くように、土の中から堀り出すものは、たとえば非常に高く売れるときには機械化して、地中の深くから掘り出しますし、いつも人間は価格のバランスをとるということを、土の中のものには自動的に働くわけです。
したがって、物価の変動に対する要素というものが、土の中のものには、いつも合うわけです。したがってインフレーションが起きても、なにができても金属というものは、比較的インフレと一緒にあって、平行するものですから、人間が財産を土の中から堀り出したものに投機するという習慣があるのは当然だと思う。
▶︎鉄金属は安定している
したがって、鉄というものも、あまり長い時間で見てみると、値段が変動しているようで変動していないわけです。たとえば、1トンが120ドルという価格になりますと、ドルの価格が下がってきているときもあるし、本当の意味で値打ちがあるときもあるので、そのとき、もしドルの値段が150ドルになったとしたら、ドルの価値が下がっている。鉄のほうが、むしろ安定していると考えたほうが経済上は理屈が成り立つわけです。
したがって、亜鉛だとかすずだとか、そういうものを、明治の初めからでもいい、大正の初めからでもいいが、どこかあるポイントをつくりまして、40年なら40年の価格の変動をみますと、非常に低いですから、人間も金属で財産を持っているということにか)ます。したがって、金属で家をつくるということは、比較的自分のそばに貯金と同じようなものを持っている。
しかも古くなったら、また、売れなければならない。要するに、古い鉄としてはいくら になるか、その差額だけが、われわれがいままで生きてきた1つの資本にな るこであるから、むしろ金で家をつくって持っていれば、つくったときに比較的簡単につくればあるいは盗まれなければ、一番安全な住居としての投資です。
亜鉛でもいいし、すずでもいいということになってくる。しかし、まだイニシャル・ペイメントが高いからやむを得ず鉄にした、という意味での鉄といふうに考えていただきたい。先ほどの、鉄が地球上にたくさんあるから安いのだという考え方と、金属が物価安定として、一番安全なのだというほうからの金属。
そうして、ある時点になったら、はずれるように分解できて、簡単に移動できて運べるということも必要です。そういう意味で、金属というものを建築家が、今後もういっぺん専門家として考えてくれないかと思うんです。金属には、さびるとか放熱するとかいう欠点があります。
しかし、こんなに世の中が進んできたのに建築のほうだけが、全体からいうと、おくれている。ある時点になって急に進歩することかもしれませんけれども一番足りないものが住居であるといいますと、人間生まれてきて1つ家があるということは、当然のことであって、家に苦労するということはおかしいことではないかと思います。一番足りないのが住居であるといっている時点からしますと、これに対する知恵が一番足りないことになりましょう。企業家がもうかるもうからないなどということは関係なしに、鉄板だとか亜鉛だとか、そんなようなものをいっぺん建築の中へ取り上げられてきて、もう一度整理されていく時点にくるのではないかと思います。つくっている過程であまり手間がかかり過ぎる。
いま、ごらんなっていただきましたように、鉄板が1枚ですから、冬は寒く、夏は熱い。しかし、寝るのには電気ゴタツや電気毛布がありますので、少し寒くないが、夏熱いのが一番困ります。何も保温がないものですから夏の夜などはすぐ冷えまして、夕方6時半ごろになりますと、非常に涼くて、夜寝るのに機械など使わなくても放置してあるのです。そこで冷房の機械が必要でなく放置してあるのです。暖房はボイラーが沸したり、床下へ配管してありますが、本職の方はなめていたら、工事が思うとおりやってくれずストーブが出ていたりするわけです。
▶︎工事はどういう人がやったのですか。
かじ屋さんに来てもらいました。というのは溶接したりしましたので、ぐるっとワクをはめますのは5人ほどで、3日ほど来てもらってやってもらいました。
それから内装は大工さんにやってもらいました。鉄が多いものですから、人間的でなくなるかもしれないと思って、内装は木でやってみました。重量の点は、コルゲート・パイプだけが約10トンで、南北の妻側は鉄が約66枚、あちらとこちらで約130枚の鉄板が切られて六角になりました。その重量が両方でlトン800ぐらいです。それに対して張ってありますのが約800キロぐらい。全部で13トンぐらいになります。そうしますと、鉄の原価構成のコストからいきますと、120ドル約4万円ということになりますから、4万円×13で52万円、それで上を全部吹き抜けでなしにつなぎますと、先ほどの50坪になりますから、空間としては50坪あるわけで、床面積は56坪ぐらいになります。したがって、52万÷50坪ですと坪1万円、36坪ですと1万5千円ぐらいではないでしょうか。
▶︎住家というものは−このプランニングは構造の形からきているわけですか。
そうです。要するに、まず始めたのはデザインではなしに、少い材料を使って1つの強度をもたせなくてはいけないということが、手段でございます。その形の中へ、自分のうちの場合はこんなふうにしてつかうと、家の使い方がいいのではないかということで、このような配置にしました。そうしましたらお勝手が隅にいってしまったということですが、しかし、水だとか火は、人間がミスしやすいものですから、あのほうが適当ではないかと思い、わきにもってきました。
また、便所や風呂も、水の排水の点からいくと、1階よりむしろ2階のほうが排水のぐあいがいいと思い、あんなところにむだな空間ができますものですからそれを排管のスペースとして置いておきました。すなわち、目で見えたほうがよいものをしまうと、水がこぼれていて、そこが腐食したりしていて知らないでいたりすることになりますが、安全性からいきますといつも普通隠しているものが見えたほうが合理性があるかもしれない。それでこのようにしました。
近代は、ものを隠すことを主に置いてきましたから、ここでいっペん、いわゆる隠すものを露出したほうがよいかもしれない。そうしますと、トイレもおかしいことですが、とびらも引きようで、プライバシー、家族の構成によっては、もっとプライバシーを守る必要があると思います。そうでなければ、カーテンでも住んでいけるのではないかと思います。
お風呂もそんなふうに思います。東孝光さん(東孝光(あずま・たかみつ1933−)建築家。主な作品に「塔の家」(1967)など)という建築家がいるのですが、その人の住宅が東京の青山にあり、町の中で6坪の土地にコンクリートの塔を建てまして、1つのフロアーが1つの部屋になっているわけです。そしてスキップしたような状態で上っていくようになっていて、とびらが全然ないわけです。これも家族構成によっては、それで十分成り立ちますね。
とびらも割に高いのではないでしょうか。とびらがあればワクも要る。技術からいきますと、そこのところを何かしなくてはなりませんが、ないということになりますと、とても楽です。それがいいかどうかは、家族構成によりましょう。生活に合わせなくてはなりませんから、いま、うちはシーツをカーテンとしておりますが、もう少し厚めのカーテンをしたらプライバシーを守るためにもいいのではないでしょうか。 何か、万博では、テントの家ができていて、テントでも家になると言っておりますが、テントは、もちが悪いものですから、むしろフレキシブルなやわらかい金属のテントをつくり、中にエアーを入れたほうがもっといいのではないかと思います。
たとえば、この家でもそうですが、もし私が設計を間違えまして、台風のときに弱いということになったら、しかし、台風のときに、たまたま停電になったりしますので、アメリカから発電機を買いました。なぜアメリカから買ったかと申しますと、アメリカの農家でも、いまでも自家発電しておりますので、ありふれていますから単価が安いわけです。そんなわけで10キロワットのコンプレッサーを買ってきました。
本当を言いますと、この家が弱くて、それをテストするほうがおもしろいと思うのです。日ごろ弱いものの中にいて、きょう災害がくるというなら、電気を回してエアーを入れてしまう。普通の家ですと、5馬力あればいいと思いますので、約5キロワットあればいいと思いますご 家庭で5キロの手持ちの電力を持っていれば、台風のときに回せばいいわけです。そうしますと、日ごろあまり重たいものの中にいる必要はないのではないかと思われるわけです。
大高さん★がやっておりますような、人工土地のようなところでしたらみんな、ゆかた姿で生活ができ、台風がきたら締めてしまえばいいとも思われます。したがって、金属もだんだん薄めていって、いざというときは、中をエアーでふくらませておけばいいのではないかと思います。
先ほど、1ミリ以下の亜鉛は都合が悪いと申しましたが、すずを使ってたとえば鉄板が1ミリ以下でなよなよしていても、台風の中に入ってしまって、プレシヤーを一定にしましたほうが、台風のときにおきます気持の上の、気圧が下がってきたときによる不安感とか、心理的気持の悪さというものは、エアーを入れますとなくなります。ふだんの1,200ミリバールをコンプレッサーで保ってやれば、そのとき外が980ミリバールでも、むしろ快適に部屋の中にいられるし、安心もできるのではないかと思いますこ こういうような問題も、これからの建築というものの中に、若いデザイナーの方にお願いして、日本的な解決というような面も1つずつ出てくるのではないでしようか。
以上は、1970年3月10日に本誌編集者が豊橋の川合宅へうかがって、川合氏の話しを記録したものです。
★大高正人(おおたか・まさと1923-)建築家。戦後日本の建築運動の1つであるメタボリズム・グループの1人。香川県坂出市に、コンクリートによる「人工大地」をつくり、長期の建築計画を実践。