藤森照信

■神長官守矢史料館

 斜めに傾いた屋根が特徴的なのが「神長官守矢史料館」。「神長官」とは諏訪大社の上社の神に仕える職の長のこと。この神長官を中世から明治時代まで代々勤めてきた家柄が”守矢家“です。こちらの史料館は守矢家の敷地内にあり、神事などにまつわる史料や鎌倉時代から伝えられる1600点以上の守矢文書などを保存・展示しています。

 この「神長官守矢史料館」は、1991年完成の藤森さんの処女作で、原点ともいえる存在です。建築はもちろん、史料展示も見応えがあると人気です。諏訪の自然、また展示される史料にあわせ中世の信仰をモチーフとしています。建物は資料保存のため鉄筋コンクリート造ですが、外部と内部の両方に特別な壁土を塗り屋根には地元産の「鉄平石」という平石を使うなど、目に映るものはすべて自然の素材となっており、茅野の景色にも違和感なく馴染んでいます。

 外壁の一部には「割板(上写真)」という鎌倉時代の技法が使われています。1本の丸太の真ん中にくさびを打って裂くという技術ですが、1本の丸太から作ることができる板はなんと2枚のみ。貴重な上に手間もかかる技法ですが、機械でなく手で割っているだけあってなんともいえない良い風合いがあります。

 この屋根から飛び出した四本の柱に注目してください。こちらは、地元産の”イチイ”の樹が使われています。諏訪大社には古くから「御柱祭(おんばしらさい)」と呼ばれる神事があり、山から切り出した四本の木を社殿の四隅に建て神木とします。こちらの四本の柱はその御柱をイメージして建てられたものです。