オンライン学習、どう進めれば

■ オンライン学習、どう進めれば (世界との比較)

▶︎学校再開後、ICTがより重要に

豊福晋平

 新型コロナウイルスの影響による休校で、様々な形で「オンライン学習」を模索する自治体が増えてきた。学校を再開した地域もあるが、第2波への対策も含め、今後、どういう形で進めるのがいいのか。教育の情報化に詳しい国際大グローバル・コミュニケーション・センターの豊福晋平准教授(53)に聞いた。

 4月以前からオンライン学習をしている学校と、担任の顔さえわからない学校。学校を再開した地域と、再開できない地域。格差が出ている。

 学校が再開されれば、もうICT(情報通信技術)は不要と思われるかもしれないが、再開後はこれまで以上にICT活用が重要になる。例えば、学級の人数を半分にして授業を行う場合、教師は単純に2倍の授業をこなせるか。都市部では、感染を恐れて登校しない「積極的な不登校」も増えるだろう。学習保障はどうするのか。

 子どもも保護者も、学校とほとんどやりとりができていないことに、不安や不満を抱いている。一方、急きょの対応を迫られてきた教師側のストレスも相当なものだ。再開した途端、授業時数の確保のために詰め込みで土曜も夏休みも授業となれば、意欲は下がり、保護者の反発も強くなる。

 限られた授業時数を前提に、効率的かつ魅力的な学習を構成する工夫が求められる。ICTはその貴重な手段になる。

▶︎各地の教育委員会から相談を受け、まず学校公式IDの付与を勧めたとか。

 ICT教育には、端末、通信環境、公式ID、クラウド環境の四つが必要。本格的なオンライン学習には、1人1台のノートパソコンやタブレット端末が必須だ。文部科学省の「GIGAスクール構想」は予定を前倒しし、今年度中に配備を終える。しかし、数百万台規模の特需で、端末は手に入りにくい上、設定や準備にはそれなりの時間がかかる。「全てが整うまで待つ」という姿勢では、貴重な時間を無駄にする。

 休校措置の最初の1カ月で学校が困惑したのは、子どもや保護者とのやりとりの手段を失ったことだった。オンライン学習そのものより、子どもや保護者の欲求が強いのは、学校、担任とのつながりだ。(アナログ・学校と家庭とのコミュニケーション)

 お勧めするのは、グーグルやマイクロソフトなどのクラウドサービスを用いて、児童生徒全員に学校公式IDを配ること。公式IDでメールやメッセンジャーなどの連絡応答手段を確保し、将来的にはクラウドを学習にフル活用できる。教育機関向けに無償で提供され、神奈川県、東京都、奈良県、広島県、東京都豊島区などではすでに取り組みが始まっている。

 スマートフォンの利用率は、成人や高校生は9割を超え、中学生でも約6割。パソコンがなくてもスマホで、環境が整わない家庭には端末やルーターを貸与すれば、日常の連絡や短時間のビデオ会議には支障ない。大切なのは、児童生徒の孤独や不安を解消してメンタルの安定をはかることと、学びへの動機づけを維持すること。連絡応答と朝のホームルームだけでも大きな効果がある。

▶︎動画配信も広がってきたが。

 メディアは、遠隔授業や動画配信を紹介するが、これらには課題がある。

 一つは、集中力を長時間保つのが難しい。教室授業よりも刺激が少ない動画の視聴は、1本10分くらいが限度。もう一つは、遠隔授業や動画製作は、教師側の負担が大きいわりに、子どもも保護者も満足度が低いというギャップ。

 ICTの得意な教師たちは、この何カ月かの試行錯誤で驚くほどのノウハウを吸収しているが、不得意な教師まで強引に動員すれば学校再開後に強烈なしっぺ返しを食らうだろう。

 肝心なのは、教室授業をそのままオンラインで再現するのではなく、オンラインの特性に合わせた授業の再構築だ。

▶︎どんな方法が?

 海外の先進事例では、普段からメールやメッセンジャーによるコミュニケーションを行い、教材資料の配布、課題の割り当て、提出、添削もおおよそオンラインで行っているので、突然登校できなくなっても、大きな混乱は生じていないと聞く。

 教師が授業時間全部を取り仕切る日本の授業スタイルと、児童生徒に段取りを任せるスタイルとの違いも大きい。例えば、北欧の学校で講義や問答中心の授業以外によく目にするのは、教師が話すのは冒頭5分で、どのように進めるのか、最後に何をまとめるのか指示した後は、個人やペアワークに移る。

 日本でも、オンラインで教師が全部をケアするのは無理なので、短時間の自作動画やビデオ会議、参照資料、パッケージ教材、作業課題、グループワーク(ノウハウが訓練されていないと難しい・研修などが必要)などを上手に組み合わせるのが、現実的だろう。情報を与えるための教材や資料が、あらかじめそろっていれば、教師は一方的にしゃべり続ける必要はない。クラウドを活用した作業課題を割り当てれば、学習者それぞれの様子は把握しやすくなり、個々に寄り添った指導ができる。

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▶︎GIGAの「1人1台端末」は必要?

 もちろん。可能な限り早く。今回の休校で気づいたように、学校で扱うコンピューターは、童生徒一人ひとりの文房具にするという覚悟が必要だ。学校機器を家に「持ち帰らせる」のではなく、個人が普段使いする機器を学校に持ってくる」という発想で。

 文科省も自治体別の機器の「整備率」ではなく、普段からの「稼働率」を調査すべきだ。学校再開後も引き続き、教室授業とオンラインとの相乗効果を模索し続けることで、第2波が来てもきっと乗り越えられる。子どもたちの未来のために挑戦しよう。

 国際大グローバル・コミュニケーション・センター准教授 1967年北海道生まれ。専門は、学校教育心理学、教育工学、学校経営。横浜国立大大学院教育学研究科修了、東工大大学院総合理工学研究科博士課程中退。95年より国際大GLOCOMに勤務、2004年に准教授に。長年にわたり「教育と情報化」のテーマに取り組む。