「コエタロ」に学ぶ

■コエタロ/実験住宅/1953

鈴木俊彦

 アアルトが夏の間過ごしたと言われている別荘「コエ・タロ(アアルト夏の家)」をご紹介します。

 1953年、セイナッツアロ島からバイヤネン湖をはさんで南に隣接するムーラツツアロ島に、アールトは夏の家を建てた。後に2つの島は橋でつながったが、当時は船で通うしかなかった。妻のエリッサに自ら設計したボートを操縦してもらい、アールトはユバスキュラから通った。

 船名を「Nemopropheta in Patria」と命名。「自らの国の預言者にはだれもなれない」という意味だ。国際的な名声を得ても自国では認めてもらえないという思いを込めた。今でも湖畔のサウナ小屋の側のボート小屋に、船と船名のプレートを見ることができる。

 アールトは実験住宅を意味する「コエ・タロ」に、素材や形能だ関する実験を盛り込んだ。家の基礎には地形や山雪利用し、床や壁にはレンガや陶器巾50パターンの模様を構成した。素材の耐性だけでなく、植物がからまる様子苔の生成を観察することも目的としていた。

 さまざまなレンガのパッチワークは、多様性と調和を感じさせる。壁や屋根には太陽光パネルをつけて熱実験を行う構想もあった。そして家の周囲を壁で囲い、中庭の中央にファイヤープレイスを設けた。

 壁の側だけ白く塗ったのは、部と内部明確に分けるためだろう。ムーラッツアロ島のワイルドな自然に対して、安全でコントロール可能な暮らしの空間をつくろうとした意図が伺える。

 居住部分としては中庭をL型に囲うように、リビングルーム、キッチン、ベッドルームを配した。リビングは央の大きなベンチでアトリエと食の場をゆるやかに分節している。キチンと暖炉は隣接させ、煙突を集中させている。ベッドルームの窓は高い置に配し、傾斜天井面への反射を狙っている。「ルノカレ邸」に比べると家具も仕上げもめて質素だが、実験的なつくりに注してほしい。リビングの中2階のアルトの書斎の床は天井から吊られいる。

 家を出て湖畔に向かう途中に、枝を取っ手に見立てた草葺き屋根のサナ小屋がある。サウナで汗をかいたとは湖に飛び込むのだ。湖に囲まれ実験的な暮らし、それが「コエ・タロ」である。

■「コエ・タロ」建築図面

■「コエ・タロ」外観・内観写真