2点目は、レオナルド・夕・ヴインチの《モナ・リザ≫の複製画に鉛筆で髭を加筆した≪L.H.O. O. Q≫である。《泉≫が発表された2年後の1919年に制作されたこの作品において我々が読むべき重要なポイントは、デュシャンがルーヴル美術館の≪モナ・リザ≫の前にイーゼルを立てて原作の模写をしたのではなく、複製図版を用いたことである。レオナルドが16世紀初頭に≪モナ・リザ》を制作してから、実に多くの人々によってこの傑作は「コピー」されてきた。レオナルドの傑作をせめてコピーで所有したいという欲望、作家や作品に対するオマージュ、あるいは「スフマート」と呼ばれるポカシの効果で自然な立体感を出す油彩技術の修練など様々な理由から、19世紀以前には多く油彩による模写がなされ、19世紀になると版画による複製が大量に出現し、《モナ・リザ≫のイメージは広く流布する。そして複製技術時代を迎えた20世紀初頭、デュシャンは安価な紙に印刷された複製図版の《モナ・リザ≫を取り上げ、便器や瓶乾燥器などの日用品と同様、レオナルドの名画さえも「レディ・メイド」として扱うことで、「引用と複製」という手法は新たな局面を迎える。すなわち、写実技法の一つの究極点としての《モナ・リザ≫の技術習得やオマー