1.「分断の政治」を越えるには

■「分断の政治」を越えるには

長谷部恭男(憲法)・杉田敦・他

▶︎「分断の政治」を越えるには 安倍氏銃撃、旧統一教会問題、国葬・・・3教授が語り合った 

 安倍晋三元首相の銃撃事件を機に明るみに出た世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と政治の関係で、自民党政権は大きく揺れています。その安倍氏の国葬は世論を二分しました。安倍政権から今なお続く「分断の政治」を乗り越えることはできるのか。

▶︎長谷部恭男・早稲田大学教授(憲法)、杉田敦・法政大教授(政治理論)・加藤藤陽子・東京大教授(日本近現史)が11月12日、語り合いました。

 視聴者から安倍氏の鉄拳をきっかけに生じた社会の変化について「暴力によってしか変われなかった」と悲観的に捉えるべき、あるいは、敗戦によって軍国主義が克服されたように、ともかく変化がもたらされたと受け止めるべきか」という質問が寄せられた。

◯ 加藤氏の答えは「事件はもちろん容認しない。ただ、起きた変化自体は肯定的に受け止めていいのではないか。「家族という問題を政治的争点とした人」が、「家族を要因とした悲劇」にたおれたことを、『歴史的因果」』として大事に考えたい」だった。

 最後は視聴者へのメッセージとして、分断の政治を越えていくための道筋についてフリップに書いてもらった。

◯ 長谷部氏は「重心はなくても大丈夫です」。安倍氏は良くも悪くも日本政治の重心であり続けたとした上で、「別にカリスマがいなくても日本程度の政治はなんとかなる。政策選択の幅はもともと限られているのだから。政治と官僚の関係を透明化すれば、日本の政治はよくなると思う」との見方を示した。

◯ 加藤氏は「可視化されなかった集団の包摂」。「女性や性的マイノリティーなど、ある集団だけが生きる上で面倒なコストをかけられていること自体がまだ可視化きれていない。そういう集団が楽しく幸福に生活できるように包摂していくことが大事だ」と語った。

◯ 杉田氏は「公」。公共の公公開の公であるとし、「政治とは本来、公開の場で、みんなが平等な資格で議論する、そのなかで少しでもましな結論を見出していこうというもの」と述べた。そのうえで、「安倍政治は一握りの人が決めて指令するという中央集権的なシステムであり、同時に、知り合いに「利益」を回すなど政治を「私(わたくし)」していた。このようなやり方をやめ、衆知を集めて公の政治をしてもらいたい」と締めくくった。

 冒頭、日本政治が抱える諸問題について議論が繰り広げられた。長谷部氏は、国政選挙でも4割以上の人が棄権している現状について「自分ひとりが選挙に行っても何ら選挙結果に影響しないと思っているのだろう。しかし、棄権が増えるほど集票マシンとして動く少数の利益集団、悪くするとカルト宗教集団選挙結果に強い影響力を持つことになってしまうことが今回わかった」と警鐘を鳴らした。

◯ 加藤氏は、省庁の幹部人事を一手に握る内閣人事局について、「廃止は難しくても、官僚がもう少し働けるよぅにすることは可能ではないか。公務員制度改革の原案にはいい発想があった。例えば、法案を作る際の政治家との面談録を作成する。それによって、官僚が政治家ときちんと話ができるようになるはずです」と指摘した。

◯ これを受けて杉田氏は、「ヨーロッパ大陸型の官僚制は、独立性も発言権も一定程度ある。かつての日本はこれに似ていたが、政治家が中心で官僚は手足だという英米型に変えようとしたところ、官僚はもの言わぬ存在となり、政治家のレベルは高まらず、中途半端で一番悪い結果となった」「やはり、政権交代が時々起こらない限り、権力は腐敗する。英米が比較的そこをクリアできているのは、時々政権交代があるからだ」と語った。

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長谷部恭男・早稲田大教授

▶︎「もやもやに、深い視点」「何回か繰り返して見る」

東京都・60代女性・・・特に第2次安倍政権後に感じていたもやもやについて、御三方から深い視点を示していただき、とても面白かったです。一度では消化できないので、何度か見る(聞く)と思います。

大阪府・男性50代・・・投票率の低さは野党のだらしなさというより政治に対する無関心の反映であるのはなるほどと思いました。投票に行かないと何も変わらないので、これからも投票に行き続けたい。

神奈川県・男性70歳以上・・・政治制度の再設計を急ぐべきだ。国会議員からそれは出てこないという悲観は十分抱くが、ここを越えなければ状況は変わらないし、次世代・将来世代に申し訳が立たない。

愛知県・50代女性・・・分断が安倍政権と周囲を自己増殖させ、選挙で棄権者が増えるとますます政権側に有利に働くという構図がよく分かった。雰囲気に惑わされることなく自分の選択として投票したい。

長野県・40代女性・・・難しいと感じる時もあったが、自分ではうまくいえない世の中に対するもやもやに言葉をつけてもらい、世の中を見る目を養うことができるような気がする。

愛知県・60代・・・京までの時間や交通費を考えるとリアルイベントには行けずこれまで残念だったが、今回は気軽に参加でき非常に有意義だった。家族も一緒に視聴し、意見を共有できてよかった。

奈良県・50代女性・・・将来に明るい展望を持てない若者に対する責任を痛感している。全ての人にとって住みやすい温かな国となるよう、私たちの意識を変えるための、いくつかの指針を得られた。

京都・60代女性・・・漠然した政治への不安や嫌悪について、内省する道具としての「言葉」を得ることができ、再考できることが大変ありがたい。

矢庭府・20代女性・・・丁寧に参加者の方が答えておられたことが良かった。手作り感ある和気あいあいとした雰囲気はまさに分断とは程遠く、恐れずに質問を考えて送ればよかったと思ったくらい。

東京都・男性70歳以上・・・ここ10年近くの気持ちの閉塞感を溶いてくださった気がした。何の力もない老人ですが、心を奮い立たせていただきました。何回か繰り返し見るつもりだ。

▶︎「わからない」と言える知性

 「加藤陽子さんが他の方のお帯にうなずき、メモをとられている姿に感激した」。大阪府の女性(50代)の感想です。「他者の意見に耳を傾け、また学ぶその姿に、翻って自分はどうだろう?と考えました」

  わからないことは「わからない」と言える、それでもわかろうとする努力を続ける、それが「知性」というものではないかと私は考えます。ふだんの記事ではなかな伝えられない、生々しい知性のありさまを「目撃」して頂けるのも、オンラインイベントの良さであると実感しました。(編集委員・高橋純子)