■【隈研吾】飯山市文化交流館「なちゅら」竣工!
長野県飯山市が北陸新幹線飯山駅開業に合わせ、質の高い音楽環境が整った芸術・文化振興の拠点として、また、まちの交流、にぎわいの場として建設を進めていた飯山市文化交流館「なちゅら」が竣工し、25日オープンする。設計・監理は隈研吾建築都市設計事務所・仲條一級建築士事務所設計・監理共同企業体が担当。隈研吾氏は「雪国の新幹線の駅前に、路地空間を内包するコミュニティーのコアになるような複合施設を計画した。雁木(がんぎ)と呼ばれる雪国独特のアーケードにヒントを得て、木と土の質感を持つリニアな空間で複数の機能を1つにつなぎ、さらにこの路地空間から新しい地球文化が生成されていくことを期待した」と、木をふんだんに使い、にぎわいとコミュニティーを生む「道」の建築を表現した。デザイン意図に沿い地域に溶け込み優しく癒してくれる空間を、建築主体工事を担当した清水建設など施工各社が丹精を込めて造り込んだ。
▶設計で重視した点について
ナカミチという室内化された路地空間をテーマに設計した。ホールのホワイエとして活用できる空間だが、ホールに用がない人もそこにたむろして楽しい時間を過ごしてもらいたいと思う。木という素材もそうした空間にふさわしいと思っている。
路地空間がテーマのナカミチ |
一番迷ったのはホール部分の外装をどうするかという点だ。最終的には表面が赤く錆(さ)びたコールテン鋼を利用したが、これまで素材として鉄を使う機会は少なく、コールテン鋼を本格的に使った初めての作品になった。結果的には、赤い錆びによって鉄の持つ冷たさが消え、人間が体を近づけたくなる質感と雪に覆われた中にあっても埋もれない周囲と調和したデザインを実現できた。
新たに完成した白い新幹線の駅を出るとこの赤い色が見えてくるので、駅の利用者にとっても印象的な建築体験になるだろう。
◇女性的な小ホール、男性的な大ホール
--ホールとしての特色について
男性的な大ホール |
雁木と呼ばれる雪国独特のアーケードからインスピレーションを得て、内部は木で覆われた土間を歩くというデザインを基本とした。小ホールは壁面に和紙を使用して全体として白く女性的としたのに対し、大ホールは木目の強い木を使い、力強く男性的な空間になるよう性格を変えた。空間を形づくる素材から変えることで、ホールに入った瞬間から違う空気感を得られるようにした。また、座席についても木や布のディテールにこだわってデザインした。「なちゅら」を訪れた際にはぜひ実際に座り、細かい部分まで体感してもらいたい。
女性的な小ホール |
これまでに僕が手掛けた木の建築は、1つのディテールがつくる緊張感を追求してきたが、今回は複数のディテールを使い分けることで地元のコミュニティーの中心になるリラックスした空間をデザインした。リラックスできない空間に人は集まらない。外壁を内側や外側へと傾けたのも、訪れた人を柔らかく受け入れる庇としての機能を持たせるためだ。従来の公共建築は町のシンボルでありモニュメントだったが、これからの公共建築には市民を守り癒してくれるものが求められると考えている。
▶これまでにない面白い経年変化 ・市民にどんな経験をしてもらいたいか
日本の公共建築は、社会の真面目さそのものを示すように遊び心がないものだった。しかし、「なちゅら」においては発注者が市民目線を持ち、設計に理解を示してくれるプロジェクトだった。そのため、今回は施設のサイン計画のデザインにおいても、洗練されたグラフィックであることよりも子どもが見て楽しめることを重視している。市民には遊び心のあるリラックスした空間を体験してもらいたい。
今後、ホールを実際に使い始めればいろいろな要望が出てくると思う。その際には、ぜひ僕らに意見を言ってもらいたい。これまで建築が完成すれば市民と建築家の関係は途切れてしまうことが多かったが、僕らはこれまでの経験と技を生かし市民からの要望には柔軟に応えたいと思っている。市民と建築家が協力して建築を成長させることで、公共建築にはこれまでにない面白い経年変化が生まれると思う。
▶建築概要
正面外観 |