さらさら

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 生物にとって、世界とは、ソリッド(粒子・個体)なものとヴォイド(気孔・隙間)とで構成されているというのが認知科学の基礎認識です。ソリッドなもの(粒子)の間にヴォイド(隙間)があるから、生物は、そこに自分の居場所を見つけることができるわけです。隙間があるから生きていけるわけです。

 隙間があるということは、そこに気体なり液体なりが流れているということで、かつての僕は隙間の寸法、粒子の寸法に関心があったのですが、最近は、流れの向きと速さに対する関心がより強くなっています。

さらさらというのは、粒子と流れとの関係性に対しての記述です。たとえば粒子の配列が、乱雑ではなく、揃っていると、その間をスムーズに気体や液体(あるいは光)が流れていきます。それがさらさらした状態です。

 さらさらした状態がいいとか悪いとかいうのではなくて、流れがうまくデザインされていないと、速すぎても、淀みすぎていても、生き物にとってはきびしいことになります。流れをデザインする指標として、さらさら感を感知する能カが必要とされます。

▶ウォーター/チェリー( water/Cherry)

 太平洋を見下ろす崖の上に立つヴィラ。軒を低くすることてヴォリュームを小さく感じさせ、さらに徹底した分棟スタイルにしてヴォリュームを分解し、建築を構成するエレメントを可能な限リヒューマンで小さなものとした。この操作によって、それぞれの棟に、小さな茶室のようなヒューマンスケールと暖かさとを与えた。庭のサクラ(cherry)の木の花びらが、その粒子化作業のモデルとなったので、プロジェクトの名称とした。

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 具体的には、屋根を800mm幅のアルミ板でつくられた粒子の集合体とし、外壁は40mm幅のスギの羽目板の集合体として、建築を構成する小さなユニットを、すべて可視化した。ここではユニットを編まず、ただただ並べていくことに徹したので、全体としてさらさらした、さわやかな印象をもつ建物となった。中心にせせらぎを流したことも、さらにさらさらとした印象を強めることとなった。

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 特に建物を訪れた人が最初に突き当たる妻面は、羽目板をデコボコに並べて陰影をつけ、粒子のざらざら感を高めている。室内では250mm幅の羽目板を、魚のウロコのように、デコポコに配置した。大和張りと呼ばれるこの伝統的なディテールにより、重たく大きな物質を粒子の集合体へと転換している。

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